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第13話 黒狐

まさに群雄割拠の時代、有名な忍者、有名な忍衆、等
無数の忍者集団や、孤独な忍者もいた。

黒狐は皆、黒い狐の面を被っていた為、いつからか❛黒狐❜と
呼ばれるようになった。

大勢でも無く、少数でも無い、一番多くいた忍衆の一団だった。
中堅クラスの人数であるが故使いやすかった。暗殺業や小競り合い、
大きな合戦、そしてこのような内部調査もしていた。

❛黒狐❜は元々、父である小大名の配下の一団であったが、
人間不信の塊のような父は、長子でさえも邪魔になっていた。

いつの世も、いつの時代も、時も場所も選ばす、甘言を吹き込み、
陰から実権を握ろうとする者は多くいる。

父であった男は、その甘く蜜のような言葉に酔いしれ、
長子の虎景《とらかげ》に年貢や、年貢を献上できない者に対して、
強行手段を持って、かき集めるよう命じた。

虎景は頭は下げていたが、上目を使って様子を見ていた。
「若く美しい女も強制的にこの城へ送るよう命ずる」

若き男はご命令とあらばと言い、己の手勢だけでは足りないと嘆願した。
元々、本来は何の力も無い奸臣にとって、
❛黒狐❜は邪魔な存在でしか無かった。

奸臣はこれは好機だと思い、領主にそっと耳打ちした。

「これより虎景の配下に、黒狐を配属する。よいな?」
「ありがとうございます。必ずやご期待通りの結果を持ち帰ります」

虎景は口ではそう言ってはいたが、奸臣にとっては忍者は邪魔な存在で
あった為、自分も含めて厄介払いされたのだと思った。

堕ちた父の息子は、その日の内に出立した。今は自分の意見よりも、
権力を欲する者の言いなりであった為、少しでも早く立ち去るべきだと
考えたからだった。

城を跡にする時、虎景は振り返って、今まで住んできた城を見上げた。
今後の事を考えると心配しか無かったが、戻れる日は遠い事だけは分かった。

虎景は村々を束ねる立場となるに値、❛黒狐❜五十名の内、四十名を十小隊に分けて、
あくまでも秘密裏に先行部隊として現状を探らせる為に、黒狐四十名を放った。

長子は進軍しながら、戻って来た忍び頭の報告を受けながら進んだ。
城を出てから六時間辺りを過ぎた頃、三十六名の忍衆は戻ってきたが、
一小隊の戻りがあまりに遅いので、虎景は戻らない忍び頭について忍棟梁に尋ねた。

「霧風は優秀な忍です。偵察程度の任務なら、難なくこなせる忍び頭です」

「では何故戻らぬ? それほど優秀な忍び頭なら間違いは起こさぬはず」

「この地は今まで永きに渡り、主を持たない村々でした。
この地を支配しているのは村々の長たちで、税も期限内に必ず納めてました」

「つまりは、その長たちが、これまでは領主のような実権を握っていたという事か」

「御察しの通りでございます。霧風はすでに殺されたか、囚われの身になっている
事でしょう」

「最後に霧風の小隊と別れたのは、誰ぞ?」

スーッと一足で前に出てきた忍びが答えた。
「私の小隊と別れたのが最後です」

「霧風はどこの村を偵察しに行ったか分かるか?」

「霧風の小隊は、私が偵察していた村の、
恐らくは忍びであろう者を追って、森に行きました」

「村の長が忍びを雇っているのか……」

虎景は一呼吸おいて、命を出した。

「その村に十名の黒狐を持って囲み、その村とそれほど離れていない村にも
十名ずつ派遣し、出入りを一切封じるのだ」

「その村に繋がる村は、南と東にございます。それでは三十名の者を行かせます」

「我が手勢と、お主を含む十六名の忍びの者は、我と共にその森に行く」

虎景がそう言うと、それぞれがそれぞれの任務の為、疾風のように消えて行った。

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