第8話 手掛かりと懐かしい記憶
藤田はゆっくり休んで疲れが取れたので、明智の部屋へと向かった。
部屋にはボードが何枚もあって、関連づける場所や時間等を、
まるでパズルを埋めるように、書き足しながら事件の真相を
探していた。
中央のボードには、三年前と書かれた所を丸印で囲み、
全ての問題はその三年前に線を引いて繋げられていた。
明かに寝ていない明智に藤田は声をかけた。
「明智、大丈夫か?」
「藤田さん。問題の多くは解けました。しかし、事の発端が
どうしても見えてこないのです」
悩み続ける明智に藤田は言葉をかけた。
「お前も少し休んでこい。その状態じゃ、お前の思考回路も
それほど働いてないはずだ。飯を食べて少し寝てこい。資料は
私も目を通しておく」
疲れ切っていた明智は頷いて返した。
「ではあとはお願いします。重要な事はボードに貼ってありますので、
参考にしてください」
「分かった。また後でな」
明智は食堂にあるカップラーメンを食べると、ソファに横になって目を閉じた。
寝息が聞こえだした瞬間、明智は一気に目覚めた。そして己の記憶を探り、
三年前、明智の親友が事故で死んだのを思い出した。
彼は自ら資料室に向かい、資料室の担当に三年前の資料の場所を聞き、足早に
その場所に向かった。途中で転びかけたが、持ち直して三年前の資料棚まで来た。
パソコンを使えば資料は出て来るが、それは手書きでは無い文字であった為、
明智は原本を見て確信を得る為にここに来た。
彼は順々に見落としのないようゆっくり見ていった。
「北見紘一」これだ。彼はその場で資料に目を通した。
そして、予想通り、この報告書を出したのは最初に殺された小林だった。
ここで繋がったが、糸が切れたように、他との関連は見えてこなかった。予想は立てたが、確たる立証は得ることが出来なかった。
北見は昔からパソコンが得意で、時代は変わるからお前も習えと、よく言われた。
その想い出に微かな笑みがこぼれた。その笑みのせいか何かは分からなかったが、証拠品の中にあった紙きれが、ひらひらと舞い落ちた。
明智はそれを手に取って見た。思わず「なつかしいな」と声をこぼした。
それは暗号解読の勝負をよくしていた頃のものだった。
証拠品の箱の中を見ると数枚の同じような暗号文が目についた。
彼はそれらを全て集めると証拠品の箱に入れて、それを持ち出した。
持ち出す前に「明智 輝帥《きすい》」と書いて、箱を持って彼は
自室に向かった。