第2話 嫌な予感
署に弁当売りの車が止まり、もう昼かと思った頃、
私用の携帯電話が鳴った。彼の私用電話番号は秘密に近いほど
数えるほどしか教えていなかった。
電話に出ると、「明智さん。海斗です」
「海斗君か。久しぶりだね。どうかしたのかい?」
「自分の事では無いんですが、清乃を覚えていますか?」
「勿論、覚えているよ。清乃ちゃんがどうかしたのかい?」
「それが……」言葉につまる彼を察して、明智は話しやすいように話を振った。
「二人とも高校を卒業して、大学生活はどうだい? 二人の関係も順調かな?」
「順調だと思ってます」彼は照れながら言った。
「それで清乃ちゃんは何て言ってきたんだい?」
「昨日の例の手紙の件を相談されまして」
「清乃ちゃんは一人暮らしだろ? 手紙が来たとしたら心配だな」
「はい。こういう事件性がありそうな事を、
相談できるのは明智さんしかいなくて……」
「家は近いので週末は泊まりに来たり、行ったりしてるのですが、
清乃の見間違いかもしれませんが、いつも通りバイトの帰り道を自転車で
走っていた時……カーテン越しに人が揺れていたと言うんです」
「人が揺れる? どんな風にか詳しく分かるかい?」
「清乃が言うには、まるで首吊りでもしたかのように
揺れていたと言うんです」
「住所はどの辺りか分かるかな? 分かる範囲でいいから教えてくれれば
こっちで調べるから、清乃ちゃんに今すぐ電話して聞いてもらえるかい?」
「わかりました。聞いたらすぐに電話をかけ直します」
周囲は皆、弁当屋で御飯を買い食べていたが、明智は嫌な予感がして、
敢えて食べずにいた。
「明智さん。昼食食べないんですか?」
「ああ。ちょっと気になることがあるから、佐々木もついて来てくれ。
あと警官も一応二名連れて行く」
電話が鳴ると同時に明智は電話に出た。
「明智さん。分かりました」
「どの辺にある場所かな?」
「高城坂の下り坂をおりきった場所から見える、坂の上にあるマンションだそうです。一番手前だから見えたと言ってました。後、明智さんにお礼を言っといてと頼まれました」
「お礼を言うのはこっちになる可能性がある。仮に予告通り警官殺しなら、最初の
取っ掛かりになるからね。くれぐれも内密に頼むよ。いずれはバレるだろうけど、
出来れば話が漏れる前に逮捕したいからね。清乃ちゃんにもお礼を言っといて」
「わかりました。今後はなるべく夜道は一人で出歩かないようにしたほうがいい。
警官殺しの予告はしてるけど、目撃者を逃がす訳はないからね」
「そうですね。清乃のバイトの日は、僕が送り迎えします」
「二人とも何かあったらいつでも連絡するようにしてね」
「ありがとうございます。清乃にも伝えておきます。それではまた」
「ああ。またね」
明智は少し考え込んで、すぐに動いた。そして書いたメモを佐々木に渡した。
「この辺りに住んでいる警官及び刑事を探してくれ。
あと佐々木と、警官三名を連れて行く。
私は警部に報告だけ入れたらすぐに戻るから、用意を済ませておいてくれ」
明智の悪い予想はよく当たる。そして仮に清乃が見たのが警官ならと思うと
その警官の経歴や逮捕者、金銭面や恨みを買ったのかどうか調べる必要があった。
明智は軽くノックをして、警部が返事をする前に中に入った。
藤田警部はキャリア組でもないのに、その優秀さ故、明智程では無いが
出世も速く、何より切れ者だった。その為、事件の重要性をしっかり理解していた。
「出たのか?」
「いえ。まだ分かりませんが、これから調べに行ってきます」
「明智の勘だと、どう思う?」
「情報から見て、殺されている可能性は高いでしょう」
一瞬が長く感じるほど、二人は頭の中で色々処理して、ほぼ同時に答えを出した。
「仮にやられたのなら、今日もあり得る」
「はい。同じ事を考えてました」
「調べて、マズい結果ならすぐに連絡しろ。犠牲者が出ないよう夜警を増やす」
「分かりました。分かり次第すぐに連絡します」
明智は急ぎ足で出ていき、藤田は最悪に備えて、夜警を事前に増やした。