第15話 止められない愛
そこには女性が驚いた表情で立っていた。すぐに隠したが、
チラッと見えた。ナイフのような鋭利な刃物を持っていた。
「久しぶりだね。覚えているかな? 北見の友人の明智です」
「明智さん。お久しぶりです」
静寂の中で二人に会話は無かったが、お互いの心は分かっていた。
「あの人がよく、あなたの話をしてました。いつも迷惑をかけてると」
「今となっては懐かしい良い想い出だけどね」
「わたしを逮捕しにきたのですね」警戒している様子をして問いかけた。
「そんな気は全くないですよ」そう言って明智は手錠を手渡した。
明智は上着のポケットからディスクを取り出すと、彼女に手渡した。
「何か飲み物もらえるかな? 汗だくで喉もカラカラなんです」
彼女は、冷蔵庫から麦茶を取り出して、コップに入れて手渡した。
「ありがとう」その言葉に彼女は笑みを浮かべた。
「俺はここにいるから、そのディスクを見て欲しい。
私に託された北見の最期の遺言だ。あとこれも取って来たよ」
封筒を手渡した。
彼女はその封筒を見た瞬間、涙が落ちた。
落ちた涙の上に、涙が落ち続けた。
「ここの事は誰にも言ってないから、安心して、それを見て欲しい。
出来れば他の部屋で見て欲しい。あいつと君の為にも」
彼女は奥の部屋へ移動して、ドアを閉めた。
暫くして、彼女が一枚のドアの向こうで、号泣しているのが分かった。
明智も先ほど見たのを思い出し、瞼が熱くなった。
涙が止まるまで泣き続けた彼女は、ゆっくりとドアから出てきた。
今度はナイフを隠さずに、そのまま出て来た。
「明智さん。ありがとうございました」彼女は涙をこぼしながら言った。
「北見は親友だった。今まで時間がかかってしまい申し訳なく思ってる」
「あの人がわたしだけには話してくれていました。いつでも出世できる
立場なのに、その話をすると、『保険のようなものだ』と言っていたと」
「わたしはあの人が事故で死んだと聞かされた時、わたしの為に殺された
とすぐに分かりました。本当はすぐにでもあの人の元へ行きたかったけど
我慢してあの人の仇をうつまでは死なないと決めて婦警にまでなりました」
「分かってます。あなたのお辛い気持ちは痛い程わかります」
「ではわたしのわがままも聞いてくれますか?」彼女の言葉に一瞬迷いがでたが、止めてもやめないだろうと思い、言葉を飲み込んだ。
「私は信心深くないので、分かりかねますが、あとの事はお任せください」
「私は少し風に当たってきます。誰も私がここに来た事を知りません」
明智はドアを開けようとした時、「あの、もうひとつだけお願いしても
よろしいでしょうか?」
「何でも言ってください」
「あの人の遺灰と位牌はここにあります。遺灰はこの中に入れてください。
そして位牌と並べてくださいませんか?」
「分かりました。心置きなく何なりと言ってくださいね」
「十分です。本当にありがとうございました」
彼女は深々と頭を下げて礼をした。
明智はそのまま外へ出て行った。
彼は負い目もあった。あの時、事件に行かなければと、考えても考えても
答えは見つからなかった。
十分な時間が経過した頃、明智は警察庁長官である父親に電話を入れた。