第1話 警官殺し予告
明智 輝帥《きすい》は刑事の中では、ずば抜けて昇進が早かった。
当然、刑事としての功績も多数あり、本来は本部に入るべきだったが、
彼は現場の刑事の道を選んだ。
そして今は難題な事件を数多く解決し、警部補となっていた。
明智は出世欲が無い為、引き際も心得ていた。
自分がこのまま出世街道を登り続けると、誰かが落とされる。
本部に対しても、毛嫌いしている訳では無かったが、官僚社会というものを
明智は幼い頃から見て来た為、どういう世界かを理解していた。
そのためもあって、仲間でもある現場の警官たちを、理不尽な本部の人間から
守っていた。階級こそ低いが、明智に対して、本部の人間でも口出し出来なかった。
ある日、今までに無い程、警察署の電話が鳴りっぱなしで、何事かと思った。
対応を終えた警官に、何があったのか明智は尋ねた。
電話対応した警官も何とも言えない表情を見せていた。
警官は考えてをまとめて話し始めた。
「警官を殺す」と書かれた手紙が、警察関係者以外の元へ来たらしく、消印も無い為
直接、家の郵便受けに入れられたようで、不安がっているようです。
と婦警は明智に説明をした。
明智はそれは確かに不安がるのも無理はないと思った。
犯行には及んでないが、そのような手紙を直接入れられれば、誰もが不安になるはずだと。
翌日、いつものように明智は出勤した。昨日の事のような脅迫はよくあるものだと、知ってはいたが、直接多数の人の家にわざわざ入れた事は気になっていた。
婦警が書類を整理している時に、二、三人がこそこそと何かを話し始めた。
明智は、直接そこまで行き、何かあったのかと尋ねた。
婦警たちは、昨日送られてきたと思われる手紙かもしれないと言った。
明智は受け取り、念のため、手袋をしてその手紙を開封した。
「警官を殺す」と書かれたメモが入っていた。
婦警たちには今は黙っておくよう言いつけてから、警部の部屋へと向かった。
明智が警部の部屋をノックした。「入っていいぞ」と言われ彼は部屋へ入った。
「明智か。どうかしたのか?」滅多に尋ねて来ない明智であった為、
何かしらの問題が起きたのだろうとすぐに分かった。
「昨日の警官殺害予告の手紙が、うちの署にも届きました。今、鑑識に渡してきた所です。婦警三名と私の指紋しかついていません。消印もありませんでした」
「まだ事件になると決まった訳では無い。鑑識から何か出れば知らせてくるだろう。
事件になれば動けるが、今はどうにもできんな」
「はい。報告だけはしておいた方が良いと思いまして」
「ご苦労だったな。下がっていいぞ」
明智は軽くお辞儀をして、部屋から出て行った。
何かは分からないが、嫌な予感を明智は感じていた。
いたずらにしては、やりすぎで、特別何かが起きない限り、
無意味な行動だったからである。
しかし、警部の言葉通り、事件性が無い限り動けないし、
調べるにしても情報があまりにも少なすぎた。
明智は席に戻り、再び仕事に戻った。