◇東野 圭吾の傑作 『十字屋敷のピエロ』レビュー

 東野圭吾ひがしのけいご、誰もがその名を知るベストセラー作家


 代表作は、やはり『ガリレオ』シリーズだろうか?


 同作に関しては、おそらく原作よりも、福山 

雅治が主演を務めたドラマを見た人の方が多いだろう。


 恥ずかしながら、僕もそちらの人間だ。


 僕は圭吾さんを敬愛しながらも、読んだ作品の数は片手で足りるほど。


『十字屋敷のピエロ』


『魔球』


 この2作品だけである。


 もしかしたら、他にも読んだかもしれないが……


 『魔球』に関しては、正直に言って、荒かったイメージがある。


 乱歩賞の最終選考作に残るくらいだから、優れた作品であることに違いはないだろうが。


 やはり、『十字屋敷のピエロ』


 これがあまりにも傑作すぎた


 作品に一切の淀みがない


 登場人物の心情はドロドロしているが


 流れに一切の無駄がない


 美しい、この一言である



 僕がこの傑作と出会ったのは、大学4年生の1月〜3月ころ、いや、そのもっと前だっただろうか?


 ただ、ちゃんと読んだのは、大学卒業を控えていた頃合いだったはず。


 ただ、この傑作を買って読む、読み切るまでには、時間を要した。


 僕は本格ミステリをあまり読んだことがなかった。


 大好きな東川 篤也ひがしがわとくやさんの、ユーモアミステリーは好んで読んでいたけど。


 もちろん、それだって、しっかりと本格的なミステリー作品ではあったけど。


 圭吾さんのピエロは、初手からズラッと登場人物が多数箇条書きされており、さらに舞台となる十字屋敷の図が掲載されていた。


 この段階で、まず読むのを挫折した。


 当時、アニオタ全盛だった僕は、すっかり脳みそをラノベに侵食されていたため、その敷居の高さにあっさりと撤退をしたのだ。


 しかし、それからしばらくして、また手を取り、読み進めることが出来た。


 その要因は、竹宮佳織たけみやかおりという、車椅子の美少女の存在だ。


 彼女は、主人公の竹宮水穂みずほの従姉妹である。


 そのオタ心をくすぐる美少女、いや20歳の頃合いだから、美女か。


 とにかく、その存在によって、ようやく重いページを繰ることが出来た。


 そこからは、あっという間だった。


 もちろん、謎が幾重にも重なり、読み応え抜群。


 そう、とてつもなく面白いから、あっという間だった。


 圭吾さんの文章は、村上春樹《むらかみはるき》のそれに比べると、簡素というか、そこまで描写にこだわりは見られない。


 でも、だからこそ、読者は読みやすい。


 それに、決して貧相とか、貧弱というか、スッカスカではない。


 ちゃんと必要は情報を読者に与える描写力。


 そのうえで、ミスリードを混ぜる技巧。


 これを執筆した当時、31歳。


 やはり、末恐ろしい才能だ。


 解説の人もそう語っていた。


 このピエロが面白いのは、登場人物の魅力にもある。


 主人公の水穂は快活で’活発な女性。


 車椅子美女の佳織ちゃんは、決して弱々しくなく、母親ゆずりの聡明さと気丈さを持ち合わせている。


 青江あおえという、十字屋敷に下宿する大学院生は、とてつもなく賢く、クール。


 けど、佳織にご執心で、相手にされていない。


 悟浄ごじょうという、人形師。この物語の表題にもある、ピエロは彼の父親が作ったもの。


 『悲劇を呼ぶピエロ』と呼ばれるそれを回収するために、十字屋敷を訪れる。


 水穂、青江、悟浄、この3人が主な探偵役だ。


 主人公の水穂は前述の通り、快活でさっぱりとして魅力的だが、やはり青江、悟浄はその上を行く、エキセントリックかつ紳士的な魅力を持つキャラだ。


 とにかく、『十字屋敷のピエロ』が傑作たるゆえんは、



・スッキリ淀みのないストーリー

 ただし、コクと深みは半端じゃない


・魅力的なキャラクターたち

 かっこよくも切ない彼ら彼女らの生き様



 だろうか。


 とにかく、大好きな作品だから、おいそれとまとめることが出来ない。


 先月、たまたま書店で、新装版を見つけて、昨日の晩にようやく読み終えてから、あの時のように興奮が冷めやらない。


 この傑作に出会えただけでも、我が人生はほまれ高い














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