『毒舌』夫婦編 第1話 愛毒者たち
夫婦はずっと一緒にいると、不仲になる。
予期せぬパンデミックにより、なおのこと一緒にいる時間が増えて。
それに反比例するかのように、夫婦間の溝は深まって行く。
今まで仕事に行っていた夫が、ずっと家にいる。
妻にとって、そのストレスは凄まじいもの。
けれども、それは我が家には当てはまらない。
そもそも、彼は自営業というか、自由業。
ずっと、在宅ワーク。
だから、慣れているということもあるけど。
私は彼のことを愛しているから。
むしろ、家から出たら、殺す。
「ちょっと、コンビニ行って来るわ」
「ぶっころ」
「はっ? いきなりどした?」
「あなた、私を置いて行くつもり?」
「じゃあ、一緒に来るか?」
「ぶっころ」
「だから、何でだよ」
「あなた、本当に最低ね」
「何が?」
「だって、こんな……」
首輪にリードをつけて、縛り付けられた私を、置いて行くのも、連れて行くのも、鬼畜なんですけど?
「いや、それお前の自作自演だろ」
呆れたようにため息をこぼす、我が夫、春日光一。
そして、私はその妻、春日桜子。
旧姓は東条。
「自作自演だなんて、ひどいわ。あなたが望むから、こうしたまでよ」
「いや、俺がいつ望んだよ、この変態」
「言葉に気を付けなさい」
「じゃあ、マゾメス」
「ぶっころ」
「でも、お似合いだぞ」
「ズキュン……じゃなくて!」
「何だよ、めんどくせえなぁ。コンビニくらい、サッと行かせろよ」
「……私も一緒に行く」
ベッドに結んでいたリードをほどき、首輪も外す。
「ちょっと待っていて、全裸になるから」
「いや、出掛けるって言ってんだろうが。まさか、またおねだりか?」
「違うわよ。全裸コートで行くの」
「……離婚する?」
「嫌だ、離婚しない!」
「だって、俺こんな変態マゾメスビッチと結婚した覚えないぞ?」
「言い方に気を付けなさい!」
「はぁ~、出会った頃は、凛々しくカッコ良かったお前がなぁ……同級生ががっかりするぞ?」
「だって……しょうがないじゃない……私をこんな風にしたのは……あなたよ?」
「いや、勝手に変態化したのはお前だろうが。結婚してから、加速度的に」
「仕方ないのよ」
「だから、何が?」
「光一は、存在そのものが、ドSだから。どうしたって、目覚めちゃうのよ」
「じゃあ、離婚するか?」
「しない!」
「とりあえず、行くぞ。ちゃんと服を着てな」
「……分かったわよ」
分かっている、自分がイカレ変態マゾメス化していることは。
でも、本当に仕方がない。
夫婦そろってマンションの一室を後にする。
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