【超短編小説】 another world
それは突如して目の前に現れた。
薄暗く青を帯びた空だった。
静かな森林の先に目的となる場所があると言う。
これから待ち受けることが私には分からなかった。
忘れてはいけない記憶のようだったが、目をつぶってもそれが何か思い出すことができなかった。
でも、私はここにやって来たのだ。
ある人が言った。
「そこに行けば、君が求めているものが見つかるはずだ」
その場所は、another worldと呼ばれていた。
another worldには古い言い伝えがあった。
その昔、その世界を統治したとされる「夢追い姫」が眠る場所に行けば、一つだけ願いが叶うと言うものだった。
夢追い姫は14歳の若さでこの世を去ったと書かれていた。
私は墓の前に手を合わせ、記憶が戻るようにと願った。
そして、目を開けた瞬間に私は思い出した。
「ここは昔、亡くなった父さんと来たことがある」
そして、自身の名が「青野 優」という名前であることも思い出した。
「そうか、父さんが私をここに連れて来てくれたんだね」
ふと、空を見上げると小さい女の子と男性の影が横切っていたような気がした。
墓前には父の好物のあんパンを供え、私はこの世界を離れた。(完)