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車中生活22日目:迷いの中の光


冷たい風が車の隙間から微かに入り込み、寝袋の中で縮こまりながら目を覚ました。気づけばもう11月も終わりに近い。車中生活を始めてから、朝晩の気温の変化が日々のリズムの一部になりつつある。この狭い空間にもすっかり慣れてきたけれど、心の中には未だに消えない何かがある。


今日はいつもと変わらない1日だった。どこかで仕事を済ませ、また車に戻り、カーテンを閉めてランタンの光を灯す。それだけの繰り返し。頭の中には「夢や目標」といった言葉が渦巻いているが、それが具体的に何なのか、自分でも分からない。


何を目指せばいいのか、どうすれば変われるのか――。


窓に映る自分の顔をじっと見つめる。この車中生活には確かに自由がある。だがその自由は、時として不安や孤独という重たい鎖を伴うこともある。特に夜の静寂に包まれると、心の奥に隠した感情が顔を出してくる。


「こんなじゃダメだ。変わらないと…でも、どうやって?」


その問いは答えのないまま、胸の中に溜まるだけだった。周囲の車の中から漏れる青白いスマホの光や、誰かの話し声がかすかに聞こえるたびに、自分だけが止まっているような気がしてならない。


だけど、そんな夜もふとした瞬間に気づかされることがある。この車中という狭い世界の中でも、小さな「幸せ」は確かに存在している。温かい飲み物を口に含む瞬間や、窓越しに見える満天の星空。それらはまるで、暗闇の中で微かに光る星のようだった。


「今はこれでいいのかもしれない。」


心の中でつぶやく。目の前には見えない道が広がっているのだろう。

今の自分にはその道が霧に覆われていて、どこへ進めばいいのかわからない。それでも足を止めずに歩き続けることが大事なんじゃないかと、そんな気がしていた。


ランタンの柔らかな光に照らされた車内は、僕にとって唯一の「家」だった。静寂に包まれるこの空間で、僕は過去の自分を思い返す。もっと若かった頃は、未来に何の疑いもなく希望を抱いていた。家族がいて、仕事があって、当たり前の日常がずっと続くものだと思っていた。でも今、そのすべてが失われてしまった。


妻と子どもたちの笑顔も、暖かい家のリビングも、過去の記憶にすぎない。それを取り戻そうと努力した時期もあったけど、結局うまくいかなくて、僕はまた一人に戻った。


車中生活を始めたのは、そんな自分に最後のチャンスを与えるためだったのかもしれない。この小さな空間は、僕にとって新しいスタートラインだった。迷いながらでも、ここから少しずつ何かを見つけ出せればいい。


外を見ると、車窓には街灯の光がぼんやりと映り込んでいる。今の僕の心境そのものだ。完全に暗闇ではないけど、明るい未来もまだ見えていない。だけど、そのぼんやりとした光に、ほんの少しでも期待してしまう自分がいる。


「夢や目標がないと、生きていけない。」


その言葉が胸に浮かぶ。僕にはまだ明確なゴールはないけど、この車中生活を通して何かを得たいと心から思っている。たとえそれが小さなものでも、今の自分にはそれで十分だ。


冷え込む夜の空気が窓を曇らせていた。寝袋の中で身体を丸めながら、僕は心の中で小さな決意をする。


「明日もまた、この場所から始めよう。」


狭い車内は僕にとって苦しみでもあり、希望でもある。その狭さの中に、僕の未来のカケラが隠れているような気がするからだ。どんな道になるかわからないけど、少しずつ歩いていこう。それが、今の僕にできる精一杯のことだから。


そして僕は、ランタンを消して目を閉じた。寒さの中でも、どこか心が温かく感じられる夜だった。



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