「車中生活19日目――小さな空間に宿る幸せ」
冷えた空気が頬を刺す朝だった。車窓を流れる曇った空の景色をぼんやり眺めながら、僕は寝袋にくるまったまま深呼吸する。エンジン音が遠くから聞こえる。周りの車は寒さをしのぐためにアイドリングを続けているようだ。
けれど、僕はエンジンをかけない。ガソリンがもったいないという理由もあるけれど、それ以上に、この静かな空間を壊したくないのだ。冷えた車内で過ごすのは決して楽じゃない。けれど、そんな中でぬくもりを見つけるのが僕の日常の一部になっている。
今日はふと考えた。車中生活が始まって、もう19日目。わずか19日なのに、ずっとこうして生きてきたような感覚さえある。時間の流れは不思議だ。これまでの僕の人生も、振り返ればあっという間だった。
人は慣れる生き物
最初は不安だらけだった。この狭い空間で暮らしていけるのか、寒さや暑さにどう耐えればいいのか、何度も自問した。でも、今では慣れた。窮屈だと感じることも少なくなり、むしろこの小さな空間に安らぎを見出している。
一つ思うのは、「車」という存在のありがたさだ。雨風を凌げるだけでなく、カーテンを閉めればプライベート空間も確保できる。それがどれだけ心の支えになっているか、想像するだけでも胸が温かくなる。
街中で本当に路上で寝泊まりしている人々を見ると、僕は思う。自分はまだ幸運なのだと。この車があるだけで、自分はまだ守られているのだと。
幸せを見つける目
こんな生活でも、不思議と幸せを感じられる瞬間が増えた。夕方、車中泊の場所に車を停める。カーテンを閉め、ランタンの柔らかい光が車内を満たす。手にしたカップの温かさが、冷えた指先をじんわりと温める。これだけで心が満たされる。
昔の僕なら、こんな小さなことで幸せを感じるなんてありえなかった。もっと大きな家が欲しい、もっと贅沢な生活がしたい、そんなことばかり考えていた。けれど、失うものが増えるほど、人は目の前の些細なものに感謝するようになるのだろう。
「これでいい」と思える日々
今の僕は、家がないことを悲観していない。むしろ、この状況に誇りを感じてさえいる。何もかも手放して、車という小さな空間に落ち着いた僕には、やっと自分のペースが見えてきたからだ。
そう、自分の幸せは誰かが決めるものじゃない。自分が「これでいい」と思えるかどうか。それさえあれば、人はどんな状況でも前を向けるんだと思う。
冷えた夜、寝袋に潜り込みながら、僕はそっとつぶやいた。
「今日も一日、ありがとう。」
どんな寒さも、この温もりを知るための一部に過ぎないのだから。
この記事は車中生活のリアルな描写に、小さな幸せの物語を重ねました。この生活を通じて何かを感じてもらえると幸いです。