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論文紹介:日本人の高齢者の慢性腎臓病有病率に関して

今回は腎臓病のことに関して記載します。
今度数百人規模の方に対する腎臓病の講演の準備を今しているのですが、
その一部を抜粋して記載します。


腎臓病が原因で亡くなる方は年々増え続けている

腎臓病による死亡は2016年では全体死因の中の第16位に位置する
それが、2040年には第5位になることが予想されている
(1位虚血性心疾患、2位脳卒中、3位肺炎、4位肺気腫)
以前より高齢になるほど、慢性腎臓病の方がふえることは指摘されていた。
今回は2024年時点の最新データにもとづいて、日本において、高齢者のどれくらいが慢性腎臓病を有するか調べたものである。
それでは、早速論文の概要を記載する。

Estimating the prevalence of chronic kidney disease in the older population using health screening data in Japan

背景

日本を含む高齢化社会では、慢性腎臓病(CKD)の有病率が増加すると予想される。しかし、多くの患者が無症状のため診断されず、実際の有病率は過小評価されている可能性がある。本研究では、日本の高齢者におけるCKDの実態を明らかにするため、健康診断データを用いてその有病率を推定した。

方法

研究デザイン:
横断研究(cross-sectional study)
データソース: 2014年4月から2023年3月にかけて、日本健康保険協会(Japan Health Insurance Association)の健康診断データを利用。

対象者:
65〜90歳の高齢者(約298万人)
・腎機能評価のため、推算糸球体濾過率(eGFR)および尿蛋白検査を受けた人々を分析。

CKDの定義:
・eGFR < 60 mL/min/1.73m² または
・尿蛋白 1+ 以上(試験紙法)

結果

1. CKDの推定有病率
・CKDの全体有病率は 25.3%(4人に1人がCKD)。
・年齢が上がるにつれ、CKDの有病率も上昇:

  • 65〜75歳 の有病率:11.8%

  • 75歳以上 の有病率:34.6%

  • 85〜90歳 では 49.4% に達する。

年齢毎の慢性腎臓病の有病率

2. CKDの重症度別分布
・CKD患者のうち、多くは軽度(G3aA1:eGFR 45〜60 mL/min/1.73m²かつ蛋白尿陰性) に分類される(16.6%)。
・CKDステージG4(eGFR 15〜30)は0.7%、G5(eGFR < 15)は0.06%と低い割合だった。

3. CKDと合併症
高血圧の合併率:CKD患者で 66.8%(非CKD群では54.8%)
糖尿病の合併率:CKD患者で 18.2%(非CKD群では13.9%)
BMI(25以上の肥満率):CKD患者で 31.8%(非CKD群では23.0%)

4. CKDの重症度と年齢の関係
75歳以上では、G3aA1(軽度腎機能障害で蛋白尿なし)が最も多い(23.9%)
・加齢による腎機能低下が臨床的に有意かどうかの判断が重要。


考察

1. CKD有病率の上昇傾向
・15年前の日本のCKD有病率推定値は 約13% だったが、本研究では 25.3% であり、年齢の影響を考慮すると有病率は上昇している可能性が高い。
・高血圧や糖尿病などの生活習慣病の増加が背景にあると考えられる。

2. 日本の高齢者におけるCKDの特徴
・高齢者ではeGFRの低下が生理的な加齢現象としてみなされる場合もある。
・**G3aA1(軽度腎機能低下+蛋白尿なし)**の割合が高く、すべてのCKDが臨床的に問題になるわけではない。

3. CKD診断基準の見直しの必要性
・従来のCKD診断基準では、高齢者の生理的な腎機能低下と病的な腎疾患を区別しにくい。
高齢者に適応したCKD診断基準の必要性が示唆される。
・CKD患者のうち、どの層が治療対象となるべきかを慎重に検討する必要がある。


結論

  1. 65〜90歳の高齢者におけるCKDの有病率は約25.3% であり、年齢とともに増加する。

  2. 多くのCKD患者は軽度(G3aA1)であり、臨床的意義が不明な部分もある。

  3. CKDの診断・管理において 年齢に応じたアプローチ が求められる。

本研究の結果は、日本の高齢者におけるCKDの現状を把握し、適切な医療介入を検討する上で重要な示唆を与える。


今後の課題 ・CKDの進行リスクや心血管イベントとの関連を解析し、治療介入の必要性を明確にする。
・高齢者に適した新たなCKD診断基準の確立を目指す。

この研究は、日本の超高齢社会におけるCKD管理の基礎資料として、大きな意義を持つ。


この論文を読んで思うこと

実際腎臓病外来の患者さんは高齢者が多い。90歳を超えて外来受診している方は多数おられる。確かに慢性腎臓病をかかえてはいるものの、重度というよりは、ある程度悪いが、増悪も軽快もせず、そのまま推移するといった方が多い印象をうける。
血圧や蛋白尿といった腎臓に負担がかかっている状態があれば腎機能はさらなる低下を認めることが多い。できるだけ早期に腎臓病を発見し、適切な介入を行うことで、透析予防を行うことを引き続き心がけていく。


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