『ヴァインランド』を読んで、ザッパを聴く
『ヴァインランド』を読んでいると、音楽に関する固有名詞が色々と出てくる。フレネシの従妹のルネがフランク・ザッパの顔がプリントされたドレスを着ているという記述があるが、佐藤良明がアトロクに出演したときにピンチョンはロックでいうとフランク・ザッパに似ているところがあると言っていて、podcastで当該部分を聞き直したりした。
フランク・ザッパはとにかく変な音楽だというイメージだけがあって、ほとんど聴いたことがなかったので、これを機にサブスクで聴いている。名盤として有名な『Hot Rats』は、中高生の頃に聴いていたハードロックとかプログレッシブロックの雰囲気に近く、すぐに入っていけた。
冒頭の「Peaches en Regalia」のきらびやかなサウンドを聴くと、目の前に奇天烈な城のようなものが立ち上がってきて、妙な世界に迷い込んだ気分になって面白い。2曲目の「Willie the Pimp」にはキャプテン・ビーフハートがボーカルで参加しているが、中学の時に『Trout Mask Replica』を図書館で借りてきたものの、全然入っていけず、MDにダビングしたっきり聴かなかったのを思い出した。あの頃は小野島大の『ロックがわかる超名盤100』という本を参考に色々と聴いていて、この本からは多大な影響を受けたのだった。
今調べたら『Hot Rats』のリリースは1969年10月10日で、これはキング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』のリリースと全くの同日だ。1969年というのはロックの当たり年で、歴史的名盤が怒涛のようにリリースされた。ジャズの側ではマイルスの『In A Silent Way』が出て、翌年の1970年にはあの『Bitches Brew』(録音は1969年8月)が出る。『Hot Rats』にはエレクトリック期のマイルスとシンクロするようなところも感じられて、そこが自分には入っていきやすいポイントになっている。
『Hot Rats』が良かったので他も色々と聴いているが、やっぱりたしかに雑多なものが混ざった変な音楽で、とっつきやすくはないが癖になるものがる。『Meat Light:The Uncle Meat Project/Object』(『Uncle Meat』のデラックス版のようなものらしい)というアルバムを聴いていたら、何やら聴き馴染みのあるフレーズが流れてきた。それは「Sleeping in a jar」という曲で、Madvillainの『Madvillainy』の3曲目「Meat Grinder」でサンプリングされている曲だった。『Madvillainy』はとても好きなアルバムで、ヒップホップで一番好きと言ってもいいぐらいなのだけど、あれがザッパだとは全く知らなかった。そう言われてみると、そのサンプリングの箇所に限らず、マッドリブの音楽にはザッパに似たところがある気がする。
何かと何かが近いとか似ているとか言って固有名詞を書き連ねてばかりいるけれど、ここで翻って『ヴァインランド』に戻ると、ピンチョンのあのポップで雑多な感じがザッパに近いというのも分かるし、マッドリブのサンプリング感覚にもつながってくると思う。そういう音楽を聴きながら、気分を作りながら、ピンチョンを読んでいく。