【ヒトコワ】通勤電車にて
私の体験談です。
私は何度かの乗換えを経て、職場の最寄り駅に向かうのだが、最後の一路線の数駅だけかなり混む電車に乗り込まなければならない。
動けないほどではないが、他の人との距離がないその時間はかなり憂鬱なものだ。
いつものように混む電車に乗り込んだのだが、電車が動き出してしばらくして男の人の怒鳴り声が聞こえた。
「押すんじゃねぇよ」
そんな内容だったと思う。
人の怒鳴り声にびくっとしたが、顔を少し動かし、目線を向けるとどうやら私に向けられた声ではなく、若い男性に向けた言葉のようだった。
私からは怒鳴っているおじさん(おそらく50歳過ぎ)の後頭部と怒鳴られた若者(大学生くらいのように見える)の表情が見えた。
「何押してんだよ」
おじさんはさらに声を荒げていた。
理由は若者が何も答えないからだと思った。
若者は何も言わずおじさんの顔を見返していた。
「なんなんだよ」
反応がないのが不満なのか、おじさんは何度も何度も若者に声を荒げていた。
私もそうだったが、周りは見て見ぬふりをしており、かなり険悪な空気になっていた。
嫌なことに私の降りる駅までは2駅ほどあったので、しばらくこんな状態が続くのか、と最悪な気持ちになっていた。
しばらくすると次の駅についた。
おじさんの罵声は続いていたので、どっちでも良いから降りてくれないかな、と思っていたら、
カシャッ
と、シャッター音がなった。
反射的に音に目をやると若者がおじさんの顔をスマホで撮ったようだ。
その時のおじさんの表情は見えなかったが、若者はそのまま表情を変えずにスッと電車を降りて行った。
おじさんは反応しそびれたのか、それ以降何も言わなかったのだが、車内にはなんとなく嫌な空気が残り、さっきと変わらず早く次の駅につかないかな、と思いながら電車に乗り続けたのだった。
周りもはばからず人を怒鳴るおじさんも、自衛の為なのか何も言わずに写真を撮って去った若者も、どちらも怖いと思った通勤電車でした。
書きながら思ったんだけど、角度的に若者の写真に自分が写っているかもしれないのが、一番嫌な事実かもしれない。