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2024寮祭企画シネマ上映『空を飛ぶ』①
https://adventar.org/calendars/10340
今年も熊野寮祭の季節がやってきた。去年は『こども』をテーマに5本上映したが、今年は『空を飛ぶ』である。
12月1日夜21時~12月2日朝8時
食堂北開催
風立ちぬ 21:00~22:05
バーディ 23:15~01:15
チェリー2000 02:25~04:05
銀河鉄道の夜 04:20~06:10
ルナ・パパ 06:20~08:10
何度も言うが映画というのはタイパが悪いから、こんなものに付き合ってくれる人は望み難い。しかも自分のお気に入りの映画を見せつけたいだけという自己満足と完全には切り離せない。
だから、それぞれに紹介文を書いてできるだけ多くの人に興味を持ってもらおうと思った。折角書いたので熊野寮アドベントカレンダーにもリンクを置いておく。上のリンクを踏んだら熊野寮アドベントカレンダー2024に飛ぶので、他の寮生の文章も読んであげてね。
これを読んでる人がもしいれば、何かの宣伝になればいいと思うのでnoteにも掲載する。紹介文はパンフに印刷して紙媒体でも配るのでもし熊野寮に来られた方はそちらでも読めます。私を含め四人で立てた企画だが、身内贔屓の欲目かもしれないが是非とも読んでほしい良すぎる文章達である。
というわけでまずは風立ちぬ。これ前に自分が書いたやつをちょこちょこ変えただけなのでちょっと手抜きである。
「風に乗って高く飛び上がるほどに、地面から離れた分だけ落下の代償は大きくなる。地に叩きつけられた後は?片翼を失い二度と飛べなくなってしまったとしたら?
それでも這いずりながら生きねばなるまい。
マンドリンのゆったりとした音楽。静かな夜。眠る少年。この子どもの頭の中にいかなる黒いもやも見いだせはしまいというような安らいだ寝顔。
少年の夢、それは飛行機乗りになる夢である。瓦ぶきの屋根から少年の飛行機が飛び立つと、闇をはらい朝が広がってゆく。目に沁みる緑。街並みと人々の営み。
飛行機乗りになりたくて、英語の飛行機雑誌を辞書片手に読み、下級生がいじめられているのを見過ごせない。道理なき喧嘩はしないがやり合えば強い。泰然とした母とまつわりつく可愛い妹。幼いながら絵に描いたような人格者である。
ところが彼には極度の近視というほとんど唯一の欠点があり、そのために早々に飛行機の設計者へと方針転換することになる。美しい飛行機を作りたい。 始まりは純粋で無邪気なのに、その行く末は罪深い夢というものがある。彼は後に零戦を設計する。飛行機は戦争の道具でも商売の手立てでもない。それは美しい夢である。というのはまさに美しい「夢」、そして彼はずっと夢の国の住人であった。 成長した彼は相変わらず優しく、学を好み、浮世離れしている。当時の一握りの知識階級にのみ可能な騎士道精神の実践。すこし笑わせてくれるのは、就職先の三菱のハヤブサ(一式戦闘機、結局コンペで負けて中島飛行機が受注請負することになる)制作班に向かう途中、廊下ですれ違う女性職員には会釈するのに、男性社員のことはまったく意識にも上らないところである。また仕事に没頭するあまり上司に話しかけられても気付きもしないし、同僚との会話もあんたそのコミュ力じゃあ一般社会ではやって行かれないよというほどにお粗末である。
『牛がいる。』
『新品を飛行場に運ぶんだよ。時速3キロで2日がかりさ。恐るべき後進性だよ。』 (学友で同僚の本庄)
『でも牛は好きだ。』
確かに彼もまた同時代の日本人と同じように吹き荒れる大風、関東大震災や昭和恐慌や満州事変に翻弄される。しかし、彼の生きる世界は重なりつつも微妙にずれ、半分は風が渡り飛行機が飛ぶ広大な草原と融け合ったままなのである。 多分、本庄から見た彼はまったく違っているだろう。本庄は後進国日本が捻りだした金で飯を食っていることを痛感しているからこそ安い憐憫の浄めを良しとしない。
そして夢の涯は落下であり、草原は零戦の墓所となる。いかんせん堀越二郎という実在の人間の名を与えていることや、夢の結晶である零戦が多くの敵味方を死に導いたことからちょっと飲み下しにくい映画だが、しかしあるエゴイストの主観的な世界として確かに美しい。」