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炎628

『炎628』という映画を見た。
第二次世界大戦時、独ソ戦を生きる白ロシアの少年が主人公。必死なお母さんと可愛い双子の妹がいる少年はパルチザンに無邪気にあこがれ、「僕も兵隊さんになるんだ!」とばかり戦死者の装備を掘り返して身に着け旅立ってしまう。その様子を上空から見下ろす独偵察機。
頬がバラ色で目をきらきらさせ勇んで行き…さっそくぼろ靴でぬかるみを行くことになり…爆撃を受け逃げ帰ってきてみたら彼の村は全員ドイツ軍に虐殺されている。たかりまくる蠅。
「男を愛して子どもを産みたいの」「サイドカー付きのバイク」「ドイツ軍を捕虜にしたら、女たちに好きにさせよう」
挙句逃げ込んだある村の人ともどもドイツ兵につかまる。
民族の憎しみって何なのだろう。子どもたちは焼き殺されるし、女性は強姦される。それはゲルマンとスラブという血に流れる憎悪で、ドイツ軍は徹底的にスラブの血を絶やし・汚す。(おそらく逆もまた同様の憎悪を)
「男を愛して子どもを産みたいの」強姦されて足の間から血を流す彼女は、たぶん敵の子どもを産む。その後敗残したドイツ軍のサイドカー付きバイクが映り、女性たちは武器を手に無言で捕虜のドイツ兵を取り囲む。そんな願いの叶い方は惨い。
どこまで遡って敵の血を絶やせばよかったのだろう。
ヒトラーがモスクワ侵攻したときに彼を殺せていれば?ポーランド侵攻?チェコスロバキア併合?ナチ党党首になった時?美大受験に落ちた時?…彼が生まれた時?
こんな狂気の瀬戸際で赤子のヒトラーを撃たない主人公は冷静すぎる。よくそんな理性的態度を保てるな。
スラブとゲルマン(広くはノルマン)の確執は私のような極東の島国で生まれ長らく国境を接する外敵というものを持たなかった者には真実分かりえないのだろうと思う。ギリシア正教とカトリックの対立とか、タタールのくびきによって何世紀も凍った泥炭に沈んだ奴隷とルネサンスを経験し文化が花開いた都市民の差とか。
その後で見た「血と砂」は、もちろん面白かったけど、それ以上に「炎628」の民族ごと殺してやろうというほどの憎悪が日本―中国にはないことに妙に納得していた。『炎628』において血まみれの口に笛を咥えていた少女は強姦されていたのに。捕虜の中国人は横笛によって日本兵と心を通わせる。何という違い。
あの何億人もがレミングのように(映画中では「まむしのよう」という形容であったが)ぞろぞろ湧いてくる、華夷秩序の頂に君臨する帝国の人民を一人残さず殺せるとは、(かつてその下位に位置し平伏していた)日本人として、とても思えないしする気も起きない。
(南京大虐殺があるではないかという批判もあるだろうし、それをなかったというつもりは全くないけれど、基本的に当時の日本政府の方針は「アジアは一家日本は柱」だから殲滅ではなく属国化することが目的だったと思っている。)
しかしドイツはソ連に対してそれをした。
どんな経緯があってそんなに民族全体を憎むのだろう?

↑まあ悲しかったですという話。皆他人の属性が分からなくなれば争いも起こらなくなるのかなあ。例えばあの人は○○人だとか、○○主義者だとか、性別はどちらだとか全部非公開情報になればみんな仲良くなれるのかなあ。
少し前skyというオンラインゲームにはまっていた。自分のアバターは服、髪形、身長変更魔法などを手に入れることで自由にカスタマイズできる。ほかのプレイヤーの性別や年齢、国籍は分からないし、ジェスチャーによってしかコミュニケーションは行えない。
掲示板を見ると平和とか、優しい人しかいないとか肯定的なコメントであふれていた。でも一方で、自分では何もせず他人にただ乗りしてクエスト報酬を貰っていくプレイヤーへの不満とか、ゲーム内で仲良くなった人が他の人と仲良くしていて嫉妬したり喧嘩したりといった読んでいて苦しいコメントも結構ある。こんなに属性が削ぎ落とされたゲームなのにね。

ただ、実はskyはほかのプレイヤーとおともだちになることについて段階があり、おともだちになりたいほかのプレイヤーに複数回「ろうそく」(ゲーム内通貨)を捧げればチャットできる。またおともだちになった時点で相手に名前を付けることができ、以降おともだちがオンラインかどうかを確認できるし、おともだちのアバターの上には名前が表示されるからすぐに識別できる。その意味で完全に個性や言語を排したゲームではない。
もし各人を識別できず、会話もできない仕様であれば、ゲームは完全に一期一会(その時居合わせたプレイヤーとその場限りの関係を楽しみ、いつか会うかもねとバイバイする)である。こちらの方が諍いが生じないということはあるのだろうか、試せるものならやってみたい。
でもこれでは堂々巡りしている。運営側にしても、本来もっと仲良くしてほしくておともだちのシステムを作った筈である。
どうしてなのだろう。

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