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小栗の椿 会津の雪⑨


第二章 逃避行④
 
 
「よき様!」
 さいが駕籠に駆け寄ると、よきは、真っ赤な目をしてしゃくりあげている。
「恐かったですよね。もう大丈夫ですよ」
 華奢な肩を抱きしめた。敵に命を狙われることも、人が死ぬのを見たのも、初めてだっただろう。よきは、嗚咽を漏らしながら首を横に振った。
「さいさん。面目ねえ。俺が、余計な事を言ったばっかりに……」
 卯吉が、消え入りそうな声で頭を下げる。頬に一筋の血の跡がついている。
「まだ、仲間がいるかもしんねえ。この先の炭焼き小屋に、母堂様も待っているから」
 桂輔が辺りの様子を窺いながら促した。
 男装をして、炭焼き小屋で到着を待っていた母堂は、泣きはらしたよきの顔を見て、その身体をきつく抱きしめた。
『伝さんと俺で、よき様をお守りしていて、伝さんが敵を斬った隙に少し離れて、そこに敵が襲って来たんです。俺の後に隠れるように言って、そいつと戦っていたんですが……』
 ここに来るまでの間に、言いづらそうな卯吉に聞いた話だ。
『よき様が突然逃げ出して、危ねえ目に合うところだったんで……。それで、何で俺の後ろで大人しくしてねえんだ、死にてえのか、って怒鳴って、泣かしちまったんで……』
 泣きそうなのはどっちだと思うほど、卯吉はしょげていた。
「誰一人怪我もなく無事で何よりでした」
 母堂が、よきの肩を抱きながらそう言った。
 小兎の様に目を赤くして震えるよきを見ながら、さいは腑に落ちない気持ちだった。
「よき様に恐い思いをさせてしまい、申し訳ありません。特に、卯吉は、よき様を危険にさらしたばかりか、無礼な暴言を吐いたとか。手討ちにされても仕方ないと……」
「手討ちなど!」
 よきは、母堂の胸から顔を上げた。
「卯吉さんのせいではありません。私が迷惑をかけ、卯吉さんに怪我をさせてしまって」
 二人の言い分が食い違っている。よきが泣いている理由が、さいにはわからなかった。
「よき様。卯吉では、頼りなかったですか?」
 さいは、よきの傍らに座り、顔を覗き込んだ。卯吉は、歩兵の中では最年少だ。さいより年下で、体も小さく、歩兵としての訓練も他の者よりは少ない。
 さいの問いかけに、よきは首を横に振った。
「では、なぜ、お逃げになったのですか?」
「……卯吉さんは、逃げると思ったから」
「え?」
「あんなに強そうな男を相手にしたら、きっと逃げると思ったから……」
 よきが消え入りそうな声で言った言葉に、伝三郎の眉がぴくりと動いた。
「それで、卯吉は逃げましたかねえ」
 兼五郎が穏やかな表情を保ったまま尋ねた。よきは慌てて首を横に振った。
「そうだろうなあ。俺も、やつは逃げねえと思いますよ。誰一人、よき様を置いて逃げようってやつはいねえ」
「どうして?」
 よきが瞳を潤ませたまま聞き返した。
「母上様はおっしゃったの。みな小栗家の元々の家来ではない。命をかけて私達を匿う義理はないって。だから、裏切られても文句は言えないって……」
 伝三郎が額を押さえ、溜息を吐いた。
「忠順が死に、われらは褒美を与える力もありませぬ。みなの尽力には感謝してもしきれない。いつこの身を敵に差し出されようとも決して恨むまいと、話していたのです」
 母堂の言葉には、堂々とした気品があった。だからこそ、孤高の悲しみがあった。
 さいは、和光原での奥方の振る舞いを思い出していた。……誰に対しても丁寧に礼を言い、感情を表に出さず、笑顔を絶やさない。あの方はそんな張りつめた気持ちで難所を超えようとしているのか。
「確かに、褒美をもらえるわけでもねえ。命をかけるのも馬鹿馬鹿しい話だ」
 伝三郎が憮然とした口調で言い出した。それは、どこか傷付いている様にも見えた。
「殿が来たせいで、ならず者達が村に押し寄せ、近隣の村人と殺し合いをするはめになった。殿さえ来なきゃって思っている者もいる」
「ちょっと、伝三郎さん」
 静かな口調ながらあまりの直接的な言い方に、さいは思わず咎めた。
「てんで馬鹿馬鹿しい話だが、俺らはみな馬鹿なんです。それくらい、骨の髄から殿に惚れているんですよ。次男坊や三男坊を家来に召し抱え、陸軍所に通わせ、夜は座敷に上げて学問を学ばせる。国のことを考え、度肝を抜く様なことを思いついて実行する。この方に付いて行けばどこまでも行けると、俺は本気で惚れていやした」
 母堂が袖で目を拭う。
「裏切る様なヤツは、最初から村に置いて来やした。ここにいる者は、褒美なんて期待しちゃいねえ。殿が最後に望んだご家族の身を守るために、命をかけるつもりでいやす」
 伝三郎が藁を敷いた土間に手を突いた。
「俺らを信用してくれやしませんか。よき様がその様にお考えでは、守れるものの守りきれやしやせん」
「……ごめんなさい。みな強くて驚きました。頼りにしています」
 よきが、潤んだ目で伝三郎と兼五郎の顔を見つめ、気丈に笑みを見せた。
「ほんに、忠順は果報者じゃ……」
 母堂が言葉を詰まらせる。
「よき様。卯吉さんにも声をかけてやって下さい。しょげてしまって気の毒なほどです」
 さいが言うと、よきはこくりと頷いた。
「とんだ無礼を働き、申し訳ありやせん」
 呼ばれた卯吉は炭焼き小屋に入った途端、顔を土に着けるほどの勢いで平伏した。
「卯吉さん。顔を上げて下さい」
 よきは卯吉の前に進み膝を付いた。顔を上げ鼻に土のついた卯吉に、よきは笑いかけた。
「ありがとう。卯吉さんが本気で怒ってくれて、嬉しかった」
 卯吉がぽかんとした表情で、目の前のよきの顔を見つめた。
「誰も味方はいないと思っていたのに、本気で身を案じていてくれるとわかって、嬉しかったんです」
「よき様」
「逃げたりして、ごめんなさい。これからも、頼りにします」
 よきが静かに頭を下げた。
「と、と、とんでもねえ。頭をお上げくだせえ。そんなことされちゃ、俺……」
 卯吉がおろおろと慌てふためいた。
 そんな様子を見て、伝三郎がニヤリと笑う。
「よき様に頭など下げられちゃ、今よりも腕を上げねえといけねえな」
「へ、へえ。俺、今に伝三郎さんより強くなるんで、よき様、ご安心くだせえ」
「おめえ。調子にのりすぎなんだよ」
 伝三郎がそう言って睨む。その口元は笑ったままで、顔を上げたよきがくすりと笑う。
「私のせいで怪我を……」
 よきが、卯吉の頬にそっと手を当てた。にじんだ血が乾いて固まっている。
「こ、これっぽっちの傷。掠り傷でさあ。舐めときゃ治りますよ」
 慌ててそう言う卯吉の顔が朱色に染まる。
「……どうやって、舐めるの?」
 よきがきょとんとした瞳で問い、卯吉が言葉に詰まる。 
 その様子を見て、兼五郎や伝三郎が豪快に笑った。母堂も口元を袖で隠した。
「なんでえ。楽しそうじゃねえですか」
 入口から光五郎が顔を出した。和光原で包んでもらったお焼きを持っている。
「腹が減っちゃ戦は出来ねえ。水を汲んできました。飯にしやしょうや」
「光ちゃん、ありがとう。気が利く」
 竹筒を受け取って母堂とよきに手渡す。
「そうだな。ここで腹ごしらえをして、早めに出ましょう。山を越えれば信濃だ。山の中で日が落ちれば野宿になるかもしんねえ」
「野宿など、平気よ」
 兼五郎が眉間に皺を寄せて言った言葉を、よきは遮った。
「こんなに頼りになる仲間と一緒なんですもの。どんな場所でも少しも不安ではないわ」
 その言葉を聞き、いつもは強面の伝三郎も目尻を下げ、卯吉は得意そうな顔ではにかんだ。
 さいは、ほっとすると同時に、凍える様な不安が胸の奥に染み出てくるのを感じずにはいられなかった。
 どこかで小さく獣の鳴く声が聞こえる。
 さいは祈る様に、胸に手を当てた。
 
                  ◆
 
 道なき道っていうのは、こういうのを言うんだろう。秋山郷を目指す銀十郎は、山の中を迷うことなく分け入っていく和光原の人足の後姿を追いかけた。
 ここは銀十郎の知る山とは全くの別世界だった。
 山の天辺が近くに見え、覆い繁った樫の木には熊が鋭い爪でつけた傷跡が残っている。カモシカが驚くほど近くで悠然と葉を食む。上州、信濃、越後の国境のこの山は、人が容易に立ち入れない過酷さがあった。
「清水が沸いております。少し休みましょう」
 和光原を出た時は山駕籠に乗っていた奥方は、急な坂が続く山道では籠に入って背負われていた。
「ありがとう。みなも疲れたであろう」
 三左衛門が竹筒に水を汲んで渡すと、奥方は喉を潤し、男達を気遣った。
 しばらく進むと足場の悪い急な坂道になる。足を滑らせてはならぬと、交代で背負う者達は慎重になって気を張っている。
「すげえな。この世の場所とは思えねえな」
 前を歩く龍作がつぶやいた。うおーんと気味の悪い獣の鳴き声が聞こえる。 
「ああ、魑魅魍魎が出てもおかしくねえ」
 銀十郎はそう言いながら眉をひそめた。
 最初の一里弱は急な上り坂だった。峠を越えると、モウゼン苔の生える湿地になる。澄んだ池を見ながら進んだ一行は、上りよりも下りの方がきついことに気が付く。
 百曲りと呼ばれる曲りくねった難所にさしかかると、歩く速度が落ちた。足を滑らさないように慎重になり、膝に負担がかかる。
 うおーんと、近い所で獣が鳴いた。
「何の鳴き声でしょう」
「ありゃあ、狼だねえ」
 奥方の問いに少しも動揺することなく、人足の一人が答えた。最年長のその人は腕のいい猟師だと聞いた。
「狼?」
 銀十郎と龍作は思わず顔を見合わせた。
「なあに、こんだけの人数でいたら、向こうの方が逃げていきやすよ」
 山を縄張りにする男は、日焼けした顔に皺を寄せて笑った。よく見ると頬に傷がある。何かの動物の鋭い爪にやられたかの様な傷に、思わず銀十郎は目を逸らした。
 川沿いを左へ右へと渡り何とか下りきると、緩やかな上り坂になる。
「暑くなってきたな」
 龍作が首にかけた手拭いで頬を拭いた。
「ああ。けど、日が落ちれば冷えてくるぞ」
「この先にお助け小屋があるで、そこに泊まりやす。さすがに夜狼が来たら困るで」
 猟師の言葉に、銀十郎はほっとした。
 粗末なお助け小屋に、むさ苦しい男ばかりと泊まるのは、奥方には耐え難いものだったかもしれない。しかし、誰もが気をつかう余裕もなく、薄い板壁にもたれる様にして眠りについた。
 翌朝、再び秋山郷を目指して出発した。
 急坂を下る難所は過ぎ、山駕籠に乗せる。一人で背負うよりは正直楽になった。
 お助け小屋のあった渋沢を出て、順調に佐武流山麓から障子峰近くを通行していた。楢や樫の木々が天に向かって伸びる。鬱蒼とした森が延々と続く。
「秋山まで、どのくらいじゃ」
 遠慮がちに奥方が尋ねた。
「へえ。じきに見えてきますよって。今日中には着きますよ」
 人足の言葉に奥方は安堵の表情を見せる。
「奥方様、お疲れなら少し休みますか」
「いや。大事ない」
 三左衛門が気遣うが、奥方は首を横に振る。
 できるだけ早く秋山郷へ着き、奥方を畳の上で休ませたい。その思いで男達は足の疲れに鞭を打った。
 比較的なだらかな下り坂から、急な上り坂道となった。人足達が先導する通りに、斜めに迂回を繰り返しながら上がって行く。坂を上りきると、家が並ぶ里が見えるのではないかと期待をしたが、それは裏切られた。
 見えたのは水量の少ない川でその右岸を下り、岩の上を歩いて左岸に出る。道の代わりに川沿いを下っていくようだ。
「まだ、着かぬのか」
 奥方がうんざりとした声色で言った。
「へえ。じきでがんす」
 人足はそう繰り返す。休んだ方がいいかと三左衛門の顔を窺うが、足元が悪い。奥方が腰を下ろす場所は見つからない。
「先を急ごう」
 三左衛門がそう言った。
 男達はぬかるんだ土に草鞋を取られないように、足の親指に力を込めた。
 坂を上っている間よりも、上りきった直後の方が、汗が滴る。じっとりと首にかいた汗を銀十郎は手拭いで拭きとった。
 湿った森独特の気配が、銀十郎にまとわりつく。
「まだ着かぬのか」
 半刻程して、奥方が虚ろな顔をしてつぶやいた。
「もうじきでがんす」
 だんだん腹も減ってきたが、人足はそう繰り返すだけだった。
「まだ着かぬか」
「へえ。じきでがんす」
「まだか」
「へえ。じきに……」
 だんだんと奥方の尋ねる間隔が短くなる。
 深い森の中に、人足達の荒い息が幾重にも重なった。
「まだ着かぬのか!」
 突然、奥方の問いは叫びになった。
 木の上の山鳥が驚いたのか、ばたばたと飛び立つ。
「お、奥方様。もうだいぶ秋山の近くまできておりやす。もうじきに……」
「おぬしらは嘘つきじゃ! じきにじきにと言いながら、いつまでも着かぬではないか!」
 奥方は怒りに満ちた声を張り上げ、立ち上がろうとする。前後で駕籠を担いでいた龍作と源忠がよろけそうになり、慌てて下ろす。
「奥方様。とにかく、一度休みましょう」
 三左衛門が奥方の肩に手を添えようとするが、奥方は三左衛門の手を振り払い、倒れ込む様に木の幹へ縋り付いた。
「この道は秋山へなど、続いてはおらぬ。地獄へ続く道なのじゃ。おぬしらは、妖怪変化じゃ。この私を、地獄へ売るつもりであろう!」
 小さな体から出たとは思われない大声で、奥方は叫んだ。虚ろな瞳は、真っ直ぐ前を向いているのに、誰のことも見てはいない。
「落ち着いてくだせえ、奥方様」
「忠順様! 忠順様のところへ行きたい……」
 三左衛門の言葉も耳に入らず、奥方は悲痛な嗚咽を漏らし、背中を震わせた。
 銀十郎は背中にツウと冷たい汗が流れるのを感じていた。いつから奥方はこんなにも心を乱されていたのだ。さっきまでは、何事もなかった。弱音一つ吐かず、昨日などは、周りを気遣う余裕さえあった。
『奥方様が妙に落ち着いているのが、気になって。ぎりぎりのところまで我慢をして、どこかでお心が壊れてしまわなければいいけど』
 さいの心配がこんな形になって、現実のものになるとは。
 側にいる三左衛門が、手を肩に添えようとしてためらった。
 ここにさいがいたなら、肩に優しく手を添えるだろう。経験した者にしかわからない身重の辛さを労わるだろう。
 しかし、ここにいる誰もそうすることができない。信頼の篤い三左衛門でさえ、一度振り払われた手を肩に乗せられないでいる。
 シンと静まりかえった深い森の中に、奥方の嗚咽だけが響く。産み月は二月先だが、興奮し過ぎてここで産気づくようなことがあったら……。
 銀十郎は身震いした。
 歩いている間は汗ばんでいたが、標高の高い山の気温は思ったより低い。山駕籠に乗っている奥方は、寒さに震えていたのではないか。
 銀十郎は、人足に預けていた荷物の中から打掛を取り出した。以前須賀尾を出る時に、さいが着ていたものだ。囮になるため打掛に袖を通したさいは、驚く程美しく痛々しかった。
「落ち着きませんと、お腹の御子に障ります」
 何とか宥めようと三左衛門が声をかける。
「おまえ達の言うことなど……、信じられぬ。早く、忠順様の元に連れて行って……」
 縋る様な声を嗚咽の間に絞り出す。
せめて冷たい風を遮ろうと、打掛を背中にかけるために銀十郎が近付いた時だった。
「奥方様。危ねえ!」
 葉を茂らせている樫の木の枝から、縄の様なものが太い幹を伝い下りてくる。頬に傷のある猟師が小刀を手に、猛然と前に出た。
 振り向いた奥方が、迫りくる鋭い刃を目前にし、恐怖で顔が凍りつく。咄嗟にせり出た腹をかばう。
「奥方様!」
 銀十郎は、打掛で奥方の細い肩を包み、幹から身体を引き離した。
 猟師の小刀が、太い幹につき刺さった。頭を貫いた刃に、ぐにゃりと最後の力で巻きつこうとしたマムシが、力尽きてだらりと垂れさがった。
「危なかった! よくやってくれた!」
 三左衛門が猟師を労いの声をかけた。
 目の前の突然の事態に震えている奥方の小柄な身体はすっぽりと、銀十郎の腕の中におさまった。
 こんな時、さいならどう声をかけるだろうか。頭に蘇ったのは、月のない闇夜に決意を語った時の真剣な声だった。
「しっかりしてくだせえ! あなたは母親になるんでしょうが! あなたを母親にするために命をかけようとするヤツもいるんです。自分ができなかったことをあなたに託しているんです」
 銀十郎は奥方の肩に添えた手に力を込めた。
「残念ながら、殿の元へ連れて行く訳にはいかねえんですよ。俺らは、殿からあなたを守るよう言いつかっているんです。殿の忘れ形見の顔を見るまでは、諦めてもらっちゃ困るんです」
 乱れて解れた一筋の髪が、白いうなじにかかっている。見上げた頬にうっすらと赤みが差した。奥方が、打掛を手で手繰り寄せ自らのせり出た腹にかける。
「ひどいのう。我の願いなど、聞いてくれぬと言うか……。この子も、『しっかりせい』と腹を蹴って止まぬのだ」
 ひどいと言いながら、瞳にはいつもの穏やかな光が戻っている。銀十郎は、添えていた手をゆっくりと放した。
「お子様が、励ましておいでなのでしょう」
 三左衛門が、奥方の前にしゃがみ込んで手を差し伸べた。
「腹ごしらえをしましょう。みなも疲れておりますが、なかなか言い出せません。奥方様が疲れたとおっしゃってくれると助かります」
「そうですね。次からは遠慮なくわがままを言う事にしましょう」
 そう言って奥方は、三左衛門の骨ばった掌に、雪の様な白い手を添えた。

⑩第3章「三国峠」①


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