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七不思議のふしぎ~大場の七不思議

七不思議と聞くとどんなことを思い浮かべますか?
学校の七不思議など、恐い話、怪談を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

私の住む群馬県東吾妻町の大柏木地区にも、大場の七不思議という伝説の地があります。
幼い頃、亡くなった祖母から七不思議の伝説を聞かされて育ちました。
祖母が若い頃は活性化で草刈りをしたとか、七十代・八十代の方は小学校の時遠足で行ったとか、地域で大切に守られた場所です。
けれど、大柏木地区に住んでいても、知っている方はだんだん減っているように思います。
大場という場所は、今はだれも住んでいない山の中で、数年前に八ッ場ダムの工事で地形が変わってしまいました。
伝説の場所のいくつかも埋まってしまったらしいですが、この七不思議の伝説だけでも残したい、いつか物語にしたいとずっと思っていました。

大場の七不思議伝説とは、昔京から美しい姫君が道ならぬ道に身を落とし、乳母と共に大場に住み、そこで若君を産む。若君は成長して剣の達人となり、最後には天狗になるという話で、その姫君と若君の縁の七つの実在する場所のことをいいます。

それらは、確かに不思議な場所です。
①かじかが京(かじかがきょう)若君の産湯にした池。ここに住む白い魚を獲ると大雨になる。
②蒔田の松(まきたのまつ)若君が剣術の相手とした松の古木。この松に蝉がたくさん鳴く年は豊作になる。
③上臈が平(じょうろうがたいら)年老いた母君が亡くなった場所。女性が身を清めてここに登ると官女の霊に出会う。
④お乳が窪(おちちがくぼ)亡くなった乳母を葬った場所。ここにはえる草を植えれば乳の出がよくなる。
⑤乙鳥岩(つばめいわ)一人になった三郎が住んだ洞窟。大ツバメが食べ物を運んできた。高位の人がここを訪れると、大ツバメが来るといい、源頼朝が訪れた際にも来たと伝わる。
⑥独呑の井(ひとりのみのい)水がなくて苦労した若君が、神に祈ると岩の窪みにひとり分の水が湧き出していつも涸れないでいる。
⑦めくら神(めくらかみ)夜な夜な琵琶の音と共に旅人を苦しめた悪霊を三郎が退治して葬った場所。眼病の人が祈ると治ると伝わる。

ざっくりですが、詳しくは「坂上村誌」に載っています。
中学生の頃、祖母から聞いていた伝説に興味を持ち、「坂上村誌」を読んだのですが、その時に違和感を覚えました。
⑦以外の話はたいして怖くないのです。

その違和感が納得に変わったのは、中世文学を研究していて、天狗を調べているという友だちの言葉がきっかけでした。
その友だちに「坂上村誌」を見せたところ、しきりに不思議がっていました。
七不思議としては珍しくないのだけれど、おそらく中世から伝わる話を、江戸時代以降に文字におこしたのではないか。なぜなら、「坂上村誌」には、七つの場所の説明と和歌がそれぞれ載っている。(例えば「かじかが京」なら、「水ぬるむ鄙は都も及びなきかじかが京にそだつ白魚」など)口伝えで残った伝承なら、そこまで和歌まで正確には伝わらない。だから、江戸時代以降の誰かが調べてまとめたのではないか。和歌はその時に詠んだのではないか。

七不思議に怪談的要素が加わったのは、江戸時代以降だそうです。
それまでは、常識では説明できない不可思議な場所や事柄を表すことが多かったとか。七は仏教的に大切な数字(初七日とか四十九日とか)で言われるようになったらしいです。
七不思議と言われる伝説が実は六つしかないとか、八つあるとか、八つ目を知ると悪いことが起こると言われるものありますね。

だから、最初に私が覚えた違和感「七不思議のくせに怖くない」は、鎌倉時代より前にできた伝承なのだから当たり前のことだし、突然最後の七つ目にだけいきなり怪談的要素が加わっているのは、文字におこした作者または編者が江戸時代以降の方だったという推測が成り立つのです。
少なくとも、江戸時代から「坂上村誌」の編集された昭和四十年代までのだれかが、大場の七不思議を後世に残そうと筆を取ったのでしょう。
そこには多少の創作も加わったかもしれません。
大場の七不思議の伝説は、恐いというよりは、ご利益があるので訪れて欲しい観光案内的な要素もある気がします。
きっと何百年もの時の流れの中で、伝説が忘れられそうになった時代が何度もあったのでしょう。その都度、伝説を守るために努力した人がいたのかもしれません。

八ッ場ダムの工事で埋れてしまった大場の七不思議伝説の地。
今まさに伝説が忘れ去られようとしている危機なのかもしれません。
令和4年6月3日よりマイロックタウン東吾妻のホームページで連載が開始する「マイロックタウン~天狗と私の千年の恋」は、東吾妻町に点在する奇岩と、ロックな偉人たちを、この七不思議の天狗伝説でつないでいく町おこしファンタジー小説です。
「作家×町おこし」で、少しでも私の住む町が元気になればと思い、お手伝いさせていただきました。
*現在は天恋小説特別サイトで全話無料で読めます。

東吾妻町のおいしい食べ物もたくさん登場します。
小説を読んで、東吾妻町に遊びに来ませんか?

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