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「孫子の兵法」を喧嘩仕様に訳したらやばかった 1.始計篇

🌟始計篇① 兵法で一番大事なこと

■【原文】
「孫子曰く、
兵は国の大事にして死生の地、存亡の道。
察せざるべからざるなり」

●【訳文】
「孫武先生は言いました。
もし自分が誰かにケンカを売るとしたならば、
当然、相手もこちらにやり返してきてよいということになります。
そうすれば自分も損害を受けたり、大ケガをすることにもなります。
だから、浅はかに人にケンカを売るようなことをしてはいけません」



🌟始計篇② ケンカしないためにこの5つをしっかりやる

■【原文】
故にこれを測るに五事を以てする。
一に曰く道、
二に曰く天、
三に曰く地、
四に曰く将、
五に曰く法なり。

●【訳文】
ケンカにならないために、
次の5つの事を普段から意識します。
5つの事とは、
①筋が通っているか。
②今、必要な戦いか。
③周囲の状況は自分に有利となるか。
④気持ちで負けていないか。
⑤感情や行動をコントロールできるか。
です。

▼【解説】
「孫子」の戦い方では、
戦わないことを最善としています。
それでも戦わなければいけないときは、
まず守りを固めます。
そのために必要なことが、これら「5事」です。


🌟始計篇③ ケンカに勝つ5事の1「道」

■【原文】
「道とは、
上と意を同じくし、
これと死すべく、これと生べくして、
疑わざらしむるなり」

●【訳文】
「①筋が通っているか」ということは、
ケンカの理由が、人々から支持されるかどうかということです。
そのケンカに正しい理由、
人々が納得する理由があることが大切です。


🌟始計篇④ 5事の2「天」

■【原文】
「天とは、
陰陽、寒暑、時制なり」

●【訳文】
「②今、必要な戦いか」とは、
戦うべき時期やタイミングは適切か。
機は熟しているか。
よい機会かということです。

▼【解説】
原著では、季節、天候、昼夜など
軍隊を進めるための時間という要因を指していますが、
ここではそれだけにこだわらず、
相手の出方や、時間が経過していく中で
変化していく状況における
最適な機会という意味合いを強くしました。

🌟始計篇⑤ 5事の3「地」

■【原文】
「地とは、
遠近、険易、広狭、死生なり」

●【訳文】
「③周囲の状況は自分に有利となるか」とは、
場所の問題です。
敵が多いか、味方が多いか、
人目があるかないかなどで、
その場所が自分に有利か不利かが変わってきます。
自分に有利な状況が作れる場所を
自分で選べないといけないということです。
自分が悪い人なら、
相手を人気のない密室に連れ込むほうがよいだろうし、
自分に正義があれば、
傍観者が多い場所で戦うほうが有利でしょう。

▼【解説】
原著での意味は、軍隊を進めるにあたって、戦う場所が近いか遠いか、地形が険しいか平坦か、広いか狭いか、高いか低いか、というような物理的な意味だけなのですが、個人のケンカの場合は、その場所に、人がいるかいないか、いたらそれがどのような人かという、人が作り出す状況のほうが、地形よりも重大な要因になると思います。
地形にこだわらず、その場所は自分にとって有利かということです。
※死生とは、高低のこと

🌟始計篇⑥ 5事の4「将」

■【原文】
「将とは、
智、信、仁、勇、厳なり」

●【訳】
「④気持ちで負けていないか」とは、
メンタルの問題です。
気持ちが弱ければ、必ず負けるから、
それならば戦うなということです。

▼【解説】
原著では、軍隊を統率する将軍に必要な、知謀があるか、信頼されているか、仁愛をもっているか、勇敢か、威厳があるかという才覚について触れられているのですが、ここでは、根本的に絶対に負けない強い気持ちを持っているか、ということにしました。
ケンカにはそれが必要で、それがあれば他の才覚を補うことになるでしょうから。

🌟始計篇⑦ 5事の5「法」

■【原文】
「法とは、
曲制、官道、主用なり」

●【訳】
「⑤感情や行動をコントロールできるか」とは、
自分を律することができるか、
自制の能力があるかということです。

▼【解説】
原著では、軍隊の編成や支度、統率に関することを挙げています。
個人に置き換えると、感情や行動をコントロールできているかということになると思い、自制心があるかと改訳しました。

🌟始計篇⑧ 5事を知る者は勝つ

■【原文】
「この5者は、
将は聞かざることなきも、
これを知るものは勝ち、
知らざる者は勝たず」

●【訳文】
いま挙げた5つの事は、
誰でも知っているような、ありふれたことと思うかも知れないが、
これをよく理解している者が戦略的に勝利をおさめることができ、
ただ知っているだけの者は最終的には勝たない。

▼【解説】
この5つの事を高めていけば、勝てると言っています。
本当でしょうか?
戦力が多かったり、強力な武器を持っていたり、野蛮で冷酷な人間であるほうが、戦争やケンカで勝ちそうだと思いませんか?
それに比べて5つの事は努力しだいでできそうなことばかりです。
『孫子』は、読んだ人さえも油断させて欺こうと嘘を書いているのかとも思ったのですが、人間の社会には、自分と敵だけではなく、たくさんの人々がいます。それぞれに様々な考え方を持っています。
この第三者の人たちがどう動くかということにも思いを巡らせているのだと思います。
『孫子』は、大国であっても小国であっても通用できるように書かれているはずです。
小国にとっては、5つの事を高めていくことで、大国から簡単に攻められない、防衛の意味を持つこととなります。

∞【リンク】

🌟始計篇⑨ 勝ち目があるかを比べる7計

■【原文】
「故にこれを比べるに、計を以てして、その情を求む。
曰く、
主 いずれか有道なる。
将 いずれか有能なる。
天地 いずれか得たる。
法令 いずれか行わる。
兵衆 いずれか強き。
士卒 いずれか習いたる。
賞罰 いずれか明らかなる、と。
吾れ、これをもって勝負を知る」

●【訳文】
自分と相手、
どちらがケンカで勝つかを知るためには、
次の7つの計りで比べるとよいでしょう。
①どちらの筋が通っているか。
②どちらのほうが勝利への気持ちが強いか。
③時間と場所、周囲の状況はどちらに有利か。
④どちらが法的に正しいか。
⑤どちらの腕力が強いか。
⑥どちらの身体能力が高いか。
⑦どちらが公明正大か。

▼【解説】
人格と武力と時節が大切ということが述べられています。
しかし現代でもそうだけれど、
2500年前の中国の戦国時代ならなおさらのこと、
野蛮なほうが勝ちそうに思うが、
そうではないと説いているのは意外だと思いませんか?
ここまででは、
正しい道理とよく訓練されているほうが強いと『孫子』は言っています。
次からは、実戦のことで敵を騙す必要性を説いています。

🌟始計篇⑩ 『孫子の兵法』を使えば必ず勝つ

■【原文】
もし我が計を聴かば、
これを用いれば必ず勝つ。
ここに留まらん。
もし我が計を聴かざれば、
これを用うると言えども必ず敗れる。
これを去らん。

●【訳文】
わたくしが書いた『孫子の兵法』を正しく使うなら、
絶対にケンカに勝ちます。

▼【解説】
孫武が、呉の国の王と謁見している状況でのセリフです。
絶対に勝つと言い切っています。
逸話の部分だし、さすがに大げさに書かれているのだと思いました。
私が書いた小説、『ケンカの神』は、学校でいじめられている生徒(つまり最弱)が、いじめっ子(つまり最強)に勝つ方法を書いていますが、それは『孫子』を元にしています。その通りにすれば、ケンカであれば、私も孫武と同じように、最弱のいじめられっ子でも最強のいじめっ子に絶対に勝つと思っています。
だから私は、これが逸話や大げさに書かれたことだとは思いません。『孫子』を使えば、子供と大人ほど違わないかぎりは、本当に勝てるのです。
※孫武自身ではなく、将軍を起用する場面でのセリフとも解釈されている。

🌟始計篇⑪ ケンカも機転が大切 (理論と実戦)

■【原文】
計、利として以て聴かるれば、
則ちこれが勢を為して、以てその外を助く。
勢とは、利に因りて権を制するなり。

●【訳】
先ほどの、7つの計りでみて、
こちらが勝っていたらケンカに勝てるだろう。
ただし実戦においては、
道理が正しいとかルールを守ることにこだわらずに、
その場の状況に応じて、
自分が有利となることができるように機転をきかせることが必要で、
さらに自分が勝ちやすい状況を作っていかなければいけない。

▼【解説】
勢とは、臨機応変に動くことで、主導権を握っていくということです。先の5事7計では、人格や訓練、公明正大さが大切だと説いていましたが、いざケンカとまみえればルールや道義に縛られずに、勝つために有利となる行動することが必要だと述べています。そして、次の「兵は詭道なり」に続きます。

🌟始計篇⑫ 喧嘩は敵の裏をかいて勝つ

■【原文】
兵とは詭道なり。
故に能なるもこれに不能を示し、
用なるもこれに不用を示し、
近くともこれに遠きを示し、
遠くともこれに近きを示し、
利にしてこれを誘い、
乱にしてこれを取り、
実にしてこれに備え、
強にしてこれを避け、
怒にしてこれを乱し、
卑にしてこれを驕らせ、
佚にしてこれを労し、
親にしてこれを離す。

●【訳】
ケンカでは、敵の裏をかいたり、
敵を騙さなければ勝てません。
例えば、できるのにできないように見せかけたり、
必要なことを不必要に見せかけたり、
近づくと見せかけて遠ざかったり、
遠ざかると見せかけて近づいたり、
利益と見せかけて誘い出し、
混乱につけこんで奪い取り、
敵の強い部分に当たるのは避け、
怒らせて疲れさせ、
低姿勢に出て信用させたり、
ムダなことをするようにしむけたり、
敵同士を疑心暗鬼にさせる。

▼【解説】
5時7計では、まじめなことを言っていた『孫子』も、
実戦に入ると、戦いとは敵の裏をかくこと(相手を騙すこと)だと断言しています。
非道だとか感情論や批判的な意見もあるようですが、
相手がミスをしないと勝てないという、戦いの法則があります。
そして、早く終わらせないといけないのです。
戦争やケンカの場合は、相手も騙してくるでしょうから、
それを非難してもあまり意味はありません。
勝つことより尊いものはないのです。
戦争やケンカは、観客を喜ばすスポーツや格闘技とは違うものなのです。
当然ながら、喧嘩をしていない相手をだますようなことをしてはいけないでしょう。
それをすれば喧嘩の意志があると相手に思われることになります。
騙すことを、全ての人間関係に乱用してはいけないことは、読むときに注意しなければいけないと思います。

∞【関連語句】
勝つべきは敵にあり(軍形篇)
できるだけ正しい側にいなければいけない(『君主論』)
戦争に博愛主義を持ち込むことは危険である(『戦争論』)


🌟始計篇⑬ ケンカのセンスがある人が理解できること

■【原文】
その無備を攻め、その不意に出ず。
これ兵家の勢にして先には伝うべからざるなり。

●【訳文】
つまり、戦いとは、
相手が備えていないところを攻撃して、
相手の思わぬ所を攻める。
これこそが実戦で勝つために必要なことであるが、
こういうことは、その場に応じて臨機応変に対処することで、
あらかじめこうだと決めておくことはできない。


🌟始計篇⑭ 勝ち目ができてからケンカする

■【原文】
それ未だ戦わずして、廟算して勝つ者は、
算を得ること多ければなり。
未だ戦わずして、廟算して勝たざる者は、
算を得ること少なければなり。
算多きは勝ち、算少なきは勝たず。
然るを況や算なきにおいてをや。
吾れ、これを以てこれを観るに勝負現る。

●【訳文】
私が勝てると言うのは、
先に言った7つで測り比べてみて、多かったときです。
勝てないというのは、
それが少ないときです。
ましてや、ひとつも当てはまることがないとすれば、
始めから勝ち目はないでしょう。
私はそこを見て
ケンカの勝敗を予測しています。



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(始計篇①)兵法で一番大事なこと
(始計篇②)ケンカしないためにこの5つをしっかりやる
(始計篇③)ケンカに勝つ5事の1「道」
(始計篇④)5事の2「天」
(始計篇⑤)5事の3「地」
(始計篇⑥)5事の4「将」
(始計篇⑦)5事の5「法」
(始計篇⑧)5事を知る者は勝つ
(始計篇⑨)勝ち目があるかを比べる7計
(始計篇⑩)『孫子の兵法』を使えば必ず勝つ
(始計篇⑪)ケンカも機転が大切 (理論と実戦)
(始計篇⑫)喧嘩は敵の裏をかいて勝つ
(始計篇⑬)ケンカのセンスがある人が理解できること
(始計篇⑭)勝ち目ができてからケンカする


「始計篇 まとめ」

戦いは、
正義とか間違っているとか関係なく、
強いほうが勝つ。
戦いに勝つことは大切なことだが、
その後のことも考えると、
戦うことそのものが善いこととは限らない。
その上で、戦わなければいけない場合、
勝ち目ができるまで戦ってはいけない。
戦うときは、ルールなどない。
勝つことが最優先される。


『孫子』を解読しました。→『ケンカの神』









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