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能動的推論とW型問題解決モデル(自由エネルギー原理解説-展開編-)

 W型問題解決モデル(図1)は、KJ法で有名な川喜田二郎が1966年に著した「発想法」の冒頭に登場する科学のあり方を俯瞰したモデルです。内容については広く紹介されているので割愛しますが、その特徴の一端だけを紹介すると、従来の書斎科学(演繹)、実験科学(帰納)に加えて、野外科学というデータからのアブダクションを体系化したものです。アブダクションによる発想法は、「データをして語らしむ」という、いわば現在注目を集めている「データサイエンス」の魁であります。

図1

 一方、フリストンの知覚-行動ループ(図2)は、自由エネルギー原理において、人間を始めとする自己組織化システム(以下エージェントと呼びます)の生存原理とされているものです。

図2

 川喜田は文化人類学の研究方法をベースとし、フリストンは情報理論をベースとして、W型問題解決モデル と知覚-行動ループは独立に生み出しました。しかし、この双方を比較すると、全く共通しているワードも多く、通底するものがあると感じますので、ここでご紹介させていただきます。

 図3は知覚―行動ループに、ループ内の各時点での「感情」(エージェントの内部状態)を重ねてみたものです(筆者オリジナル)。
 サプライズを「知覚」するとエージェントの覚醒が広がり「興奮」するでしょう。その「興奮」「予測」(推論)がうまく行くと「満足」(安心、充実)に変わります。「満足」(安心、充実)した状態で「行動」し、世界とつながることで、エージェントはリラックスし「解放」されます。「解放」され、予断のない状態(虚心坦懐、open mind) で世界をその中から「観察」(内部観測、棲み込み、内在的観察)することで、未来への「期待」、発想が生まれ「知覚」されます。このように、広い意味での感情(状態)と広い意味での行動(知覚、予測、観察を含む)のループ(「感情-行動ループ」)が形成されると考えています。

図3

 図4は、 W型問題解決モデルに 感情-行動ループの要素を重ねたものです。(筆者考案)これを見ると、「探検」=「行動」、「推論」=「予測」ですから、「観察」を含めて、完全に合致しています。「知覚」は「発想」と同時になされるものなのでこれも合致すると言ってよいでしょう。W型問題解決モデルには感情は含まれていませんが、感情-行動ループから考えると、図のような位置の状態と考えられます。

 また、このように重ねてみると、主として、 W型問題解決モデルの右側は、変分自由エネルギーのループ、左側が、期待自由エネルギーのループになっていることが分かります。

 以上のことから、川喜田の発想法は、約半世紀後にフリストンによって定式化されつつあると言っても良いでしょう。ただし、フリストンのループの起点が「知覚」であるのに対し、川喜田の起点が、問題設定とそれに続く「探検」=「行動」になっているのは興味深い違いだと思います。


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