マルコフ・ブランケットとクラインの壺(自由エネルギー原理解説-研究編-)
フリストンの知覚-行動ループ(図1)は、自由エネルギー原理において、人間を始めとする自己組織化システム(以下エージェントと呼びます)の生存原理とされているものです。フリストンによれば、エージェントと世界の間は、知覚と行動がマルコフ・ブランケットとなって区切ることができるとされています。つまり、エージェントは、世界からの知覚と、エージェントからの行動があれば、それ以上の追加情報なしに、世界を知ることができるという考え方です。(乾訳 2022 能動的推論p.45-46)
しかし、北大CHAINの田口教授が、「捻れたループ」と表現していますが、人は世界内の存在であり、かつ、その内側にフリストンの言う生成モデルとして世界を包摂しています。これが田口教授の言う「捻れたループ、相互包摂関係」です。田口教授は「メビウスの輪」とおっしゃっていましたが、外と内が入れ替わるという意味では「クラインの壺」でしょうか。この様子を フリストンの知覚-行動ループに付け加えたものが、図2です。
人と世界が交わる「知覚」と「行動」がマルコフ・ブランケットになります。「知覚」も「行動」も、人と世界の両方がなければ成立しません。そして人の中には、生成モデルとして世界が含まれており、この世界に対して「予測」推論が行われます。この推論は、世界を外側から推論する外在的なものになっています。また同時に、人は世界内の存在として世界を(内部から)観察します。内部観測というのはこれにあたると思います。また棲み込み(dwell in)や内在的理解と言われるものも、世界内にいる人が行う、世界の観察と言えるでしょう。
さらに、図2に「能動的推論とW型問題解決モデル」で紹介した、「感情-行動ループ」(図3)を付け加えたものが、図4となります。
参考資料
マガジン:自由エネルギー原理をめぐる冒険
Thomas Parr, Giovanni Pezzulo, Karl J. Friston (2022) Active Inference( 乾 敏郎(訳)能動的推論 (2022) )
SpringX 超学校 シンギュラリティサロン@SpringX
「意識の考え方」を考える──北大CHAINの挑戦 (1h35min頃)