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自由エネルギーと感情熱力学(2/2/2025版)


※自由エネルギー原理については、こちらに最新版の解説がありますのでご参照ください。
  自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -1-
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 この考察は、従来のNote記事(熱力学と感情ポジティブ感情サイクルとカルノーサイクルなど)で展開してきた感情作用を熱力学的に理解する試みについて、Fristonの自由エネルギー原理などの情報理論アプローチを援用し、その妥当性を確かめるとともに発展を期するものです。

 当初、変分自由エネルギーとカルノーサイクルの同型性を考えていたが、正確には期待自由エネルギーもカルノーサイクルが同型であるという結論に至った。

 Fristonが提唱した、自由エネルギー原理(FEP)とは、「環境と平衡状態にある自己組織化システムは、その自由エネルギーを最小にしなければならない」という原理である。この原理は「適応的なシステムが、無秩序へ向かう自然の傾向に抗して、持続的に存在し続けるための必要条件」 とされている。(Friston 2010, 吉田・田口 2018)

 ここで注意すべきは、生命などの自己組織化システムは、非平衡開放系であるという点である。平衡状態にとどまるものは生命ではない。生命はその動的過程で自由エネルギー最小化を目指す局面があるが、自由エネルギー最小化は生命の最終目標ではない。また上記の定義にもあるように、生存の必要条件ではあるが十分条件ではない。

 逆説的だが、自由エネルギーを最小化するためには、最小化限界より大きな自由エネルギーの存在が必要である。最小化限界より大きな自由エネルギーの存在こそが自由エネルギー最小化の必要条件なのである。そこで、生命は、最小化限界より大きな自由エネルギーを得るという行動に出る必要がある。さらに、最小化限界より大きな自由エネルギーを得るという行動には、生きていること(生命の存在)が必要である。

 すなわち以下のように必要条件が連鎖する。

生命の存在→自由エネルギー最小化→最小化限界より大きな自由エネルギーの存在→最小化限界より大きな自由エネルギーを得るという行動→生きていること(生命の存在)

 このような条件の連鎖が生命の本質であろう。

 Fristonは後年、自由エネルギー原理を発展させた期待自由エネルギーの考え方を発表したが、ここで、変分自由エネルギーと期待自由エネルギーについて触れておく。変分自由エネルギーあるいは予測誤差最小化は、過去に起点を持ち、過去の原因から現在の結果を推論する際に用いられる。これに対して期待自由エネルギーあるいは能動的推論は、未来に起点を持ち、いわば原因は未来にある。未来から遡って現在の方策(ポリシー)を決定するために用いられる。
 このように変分自由エネルギーと期待自由エネルギーでは、前者が過去から現在(時間順行)、後者が未来から現在(時間逆行)であり、時間軸に関してその向きが逆となる(現在を中心として、対称な関係にある)。従って、変分自由エネルギーを減らすと期待自由エネルギーは増え、期待自由エネルギーを減らすと変分自由エネルギーは増える。

 この期待自由エネルギーの追加は、最小化限界より大きな変分自由エネルギーを得るという行動を説明するものであり、その意味では、期待自由エネルギーの考え方を加えたものが生命の原理であると言えるのではないだろうか。

期待自由エネルギーについては、
自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -4-改訂新版
自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -5-改訂新版 
を参照してください。

以下に変分自由エネルギーの場合のカルノーサイクルとの同型性を図示します。

2022/12/16 一部名称のみ最新版と統一

<参考・引用文献>

Friston, K. (2010): The free-energy principle: a unified brain theory?
吉田 正俊・田口 茂 自由エネルギー原理と視覚的意識 日本神経回路学会  Vol. 25, No. 3, 2018
https://doi.org/10.3902/jnns.25.53
国里 愛彦・片平 健太郎・沖村 宰・山下 祐一 計算論的精神医学 - 情報処理過程から読み解く精神障害 勁草書房 2019
田崎 晴明 熱力学‐現代的視点から 培風館 2000




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