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2021年の「ミクノポップ」についての考察 FAIOの場合 #39pop

はじめに - 2021年における「ミクノポップ」とは何なのだろうか?

1970年代に誕生した「テクノポップ」、そして2007年に誕生し今や日本を代表するポップ・スターとなった「初音ミク」。「ミクノポップ」はこの二つを掛け合わせた造語として現在も使われています。「ミクノポップ」というタグが登場したのは最古の動画から考えると2007年の9月。そう、初音ミクが誕生してから間もないタイミングです。テクノポップと初音ミクの持つ未来的なイメージが見事に調和した結果として、このタグは14年経つ今でも使われ続けています。音楽の歴史から見ると14年というのは短いものですが、現代の音楽は機材の進化速度や情報伝達速度の高速化により、短い期間で何度も変化が起こるようになりました。ミクノポップもそうして変化し続けたジャンルの一つではないでしょうか。今回は、その「ミクノポップ」を源流となる「テクノポップ」や主要楽器となる「シンセサイザー」、そして「初音ミク」の面から見つめ直し、最後はプレイリストの形で再編を試みようと思います。少し長い文となりますがどうぞお付き合い下さい。

テクノポップとシンセサイザー

現在は2021年。テクノポップと強い関わりを持つ楽器、シンセサイザーが誕生してから半世紀以上が経つ今、その立ち位置は大きく変わっています。当時のシンセサイザーは非常に高価で、サイズも大きく「タンス」と呼ばれる事もあったほど。一部の限られた人しか手に入れる事ができませんでした。しかし、現在では値段の低下、ソフトウェア・シンセサイザーの登場、コンピューターの普及、さらにはスマートフォンの登場により手のひらサイズで動くものも登場するなど、非常に手軽で身近な存在になっています。また、シンセサイザーの仕組みも様々なものが登場する様になり、今では非常にリアルな楽器の音やはたまた想像のできない様な音、そして人間の声までも再現する事が可能となりました。

さて、進化を重ね身近な存在となったシンセサイザー。すると「テクノポップ」のあり方というのも大きく変わってきました。

テクノポップのクラシック、といえばやはりYellow Magic Orchestra(以下、YMO)のRYDEENではないでしょうか。1979年に発表された楽曲ですが、今聞いても色褪せることがありません。印象的なメロディにシンセサイザーの奏でる美しい音色は今聴いても近未来的な印象を与えてくれます。細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一(敬称略)の三人で構成されるYMOはバンドとしての要素が強く、その精神性においてはロックに近いものがあるとも評されています。元を辿るとテクノというジャンル自体、デトロイド州の黒人が中古の安い機材で作り始めた音楽と言われています。とても治安が悪い、荒廃と絶望に包まれていた中でも、希望や未来を機械に込めて作り出された音楽であるデトロイドテクノ。その精神性は今でもHyperpopなどのジャンルにも継承され、生き続けている様に感じます。

さて、時は進んで2000年に入るとシンセサイザーだけではなく音楽の制作方法も大きく進化しました。コンピューターを使った音楽制作、DTMが一般化したのです。勿論それまでにも、MTR(マルチ・トラック・レコーダー)などを用いて重ね取りをしたり、エフェクトをかけたり...という機能は存在していました。ですが、コンピュータ上で動くDAWというソフトウェアはそれらの機能は勿論、プラグインの形でエフェクトやコンピュータ上で動作する楽器を後から追加、さらには直感的なインターフェースで楽曲の制作手法を根本から変えていきました。前述のYMOなども自動演奏を用いた楽曲制作を行なっていたそうですが、そうした試行錯誤をどんなユーザーでも行えるようになったというのは革命と言っても過言ではないはずです。

前置きが長くなってしまいましたが、中田ヤスタカ氏はまさにそんな環境の中で「テクノポップ」というものを押し上げた功績者の一人とも言えるはずです。彼がプロデュースを務めるアイドルユニットのPerfumeは、まさに今の私たちが思い浮かべるような「テクノポップ」の姿ではないでしょうか。煌びやかなシンセサイザーの音だけではなくギターサウンドが入ったり、80年代のテクノポップに比べると非常に豊かなサウンドになっています。また、ボーカルにもオートチューンといったエフェクトがかかり、近未来的な印象を与えてくれます。そして、何よりも大きいのはそのサウンドを見事にJ-POPに落とし込んだことではないのでしょうか。これまでのテクノポップとの大きな違いはこの一点にあると言っても過言ではないはずです。そしてこれは現在のテクノポップ、そしてミクノポップのベースとも言える事でしょう。

さらに時は経ち2010年後期。コンピューターはさらに入手しやすくなり、またインターネットによるコミュニケーションが当たり前の時代になると、音楽をはじめとした情報やカルチャーは時代や国境を超えてどんどん拡散していきました。その結果として、snail's houseのようにゲームボーイのサウンドや日本のアニメカルチャーを取り入れたkawaii Future Bassや、100gecsのようなあらゆるポップカルチャーを混ぜ込んだhyperpopなどのジャンルがどんどん生まれるようになりました。(そしてhyperpopのプレイリストにはPerfumeすらも入っています)Future Funkなどはまさに80年代の日本のポップスを現代の視点で再解釈したものとも言えるでしょう。一体何がポップスであるのか、それはその時の時代背景に大きく左右されるので正しく定義することは困難です。ただ言えるのは、その時にはその時の人々が求めているポップカルチャーがあり、同じくテクノポップというのもその時のテクノロジーとポップカルチャーによって変容していくものであるということです。しかし、その根底には必ず「未来志向」があることだけは忘れてはいけないことでしょう。

少し駆け足になってしまいましたが、ここまでテクノポップとシンセサイザー、そして音楽制作の変化とそれに伴う音楽の変容について触れていきました。ここからはいよいよ初音ミク、そしてミクノポップについて触れていこうと思います。

初音ミクとミクノポップ

2007年8月31日、初音ミクは歌声合成エンジンVOCALOID2の音声ライブラリとして販売されました。VOCALOID2とあるようにこれまでにもVOCALOIDの音源は販売されていたのですが、その中でも初音ミクは異例の大ヒット。販売元のクリプトン・メディア・フューチャーも想像しないほどの売れ行きとなりました。しかし販売からしばらくの間はカバー曲やネタ動画といったものが多数で、オリジナル楽曲は少なかった状態でした。しかし、その中で初めて初音ミクのための楽曲、いわゆる「イメージソング」が登場しました。それがOSTER projectさんの「恋スルVOC@LOID」。この楽曲を皮切りに、オリジナル楽曲や初音ミクをテーマにした楽曲がどんどん投稿されるようになります。

そんな初音ミクのイメージソングの中で今においても「ミクノポップ」を代表する楽曲といえばこの曲ではないでしょうか。livetune kzさんの 「Packaged」です。初音ミクの未来的なイメージとシンセサイザーの煌びやかなサウンド。未来志向のイメージを内包しているこの楽曲は正しく「テクノポップ」と呼べることでしょう。この楽曲には「ミクノポップ」のタグはついてはいないのですが、その点でこの楽曲を上げさせていただきます。

さて、前述の通りミクノポップはニコニコ動画のタグの一つとして存在している訳ですが、今回はここまで説明してきた「テクノポップ」というのを前提にした上で、タグに関係なく「ミクノポップ」と言えるような楽曲をVOCALOID音楽カルチャーとの関係性を絡めた上で紹介していこうと思います。

コンピューター、そしてインターネットの発達は楽曲の制作スタイルの変化だけではなく、そのままでは埋もれていたクリエイターを発掘する役目も果たしました。Equationx**の作曲者である椎名もたさんはまさにその一人でした。恋と計算式をテーマに電子音を掛け合わせたこの楽曲は、明るい印象とともに切ない印象をも与えてくれます。近年ではスマートフォンでも本格的な作曲が行えるようになり、そこでもシンセサイザーは活躍しています。作曲活動が手軽になった今の世代はどんな「未来」を提示してくれるのでしょうか。

携帯電話の音をサンプリングして製作された楽曲。音色は昔のものなのにまるで未来の音のような、不思議な印象を感じる楽曲です。そしてこの楽曲では初音ミクが「未来の存在」として用いられています。人間ではない、合成音声だからこそできる立ち位置。「未来」が名前の由来となっているだけあって、テクノポップとの相性は抜群だと思えます。

ここ数年で勢いを増している「ボカロエレクトロ」。同人サークルであるNEXTLIGHTやOn Prism Recordsなどが中心となって広がりつつあるこのジャンルは、ミクノポップに変わる新たなジャンルとなる可能性をも秘めています。Rebuild!はそんなボカロエレクトロの代表曲の一つです。未来への希望を歌うこの楽曲は前に進もうという気持ちにさせてくれます。こうしたテーマはきっと、VOCALOIDという存在だからこそ歌える楽曲なのかもしれません。

テクノポップが生まれた当時では最新だった、スペースインベーダーなどのドット絵で構成されるゲーム。今から見ると古い存在ですが、逆にそれをレトロフューチャー的な観点や、デジタルというのを表現する際によく使われるようになりました。「デジタルガール」はそんな昔のゲーム機の音とドット絵で初音ミクを表現することによって未来の存在、というのを表現している楽曲です。ゲーム機の音を音楽に使うというのは、最初に取り上げたYMOが「コンピューター・ゲーム」という楽曲で、それこそテクノポップ黎明期から試みている表現です。それが今でも生き続けているというのは、それだけそのサウンドに魅力が詰まっている証拠なのかもしれません。

まとめ

さて、今回は「ミクノポップ」というのを解釈する上で源流となるテクノポップから辿り、その上でいくつかの観点からミクノポップと言える楽曲をピックアップ、解説していきました。しかし今回あげた楽曲の他にもミクノポップと言える楽曲はたくさん存在しています。そこで今回は上記の楽曲をも含めたSpotifyプレイリストを作成しました。初音ミクとシンセサイザーが織りなす数々の音楽を楽しんでいただければ幸いです。ここまで読んでいただきありがとうございました!

参考文献

テクノポップの起源

〈トランスマット〉である必然性──デリック・メイを魅了したHIROSHI WATANABEの作品をハイレゾで

真性テクノアイドル(グループ編)

「アナログシンセ」衰退と復活の歴史

テクノって何?

電子音のグルーブにロックの精神を宿したYMOの『Yellow Magic Orchestra』

これまでのDTMの歴史をゆるりとまとめてみた

“Kawaii Bass”って何? 今からでも間に合う“Kawaii Bass”入門

【コラム】What is 「HYPERPOP」? by tomad

リズムから考えるJ-POP史 第5回:中田ヤスタカによる、“生活”に寄り添う現代版「家具の音楽」

初音ミク、ユーザーが生んだ人格〜奇跡の3カ月(1)

批判や精神不安定からサバイブした、椎名もたの漫画みたいな人生

「初音ミクの現在と未来」


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