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どんな状況になろうとも望みが潰えることはない〜『KEEP OUT THEATER』を視聴して〜

 2021年01月05日
 YOASOBI初の配信ライブを開催するという告知は、これまでにない方法でのお知らせだった。
〔https://twitter.com/YOASOBI_staff/status/1346382752854073344?s=20〕
 この日は1月4日に行われたイベントに引き続き、ある電話番号に掛けると限定のメッセージが聴けるというものが行われていた。しかし、一つだけ異なる点があった。それは21時〜22時の間、Ayaseさんとikuraさんが電話前で待機していたことである。YOASOBIのお二人と直接話すことができる上に、スペシャルミッションまで課されるということで、何度も電話を掛けた人もいたことだろう。この時、運良くお二人との電話が繋がった方々に託された任務こそ、オンラインライブの告知だったのだ。


 02月14日
 18時から見逃し厳禁の配信ライブが幕を開ける。
 はじめに映し出されたのは、天井の配線が剝き出しの状態で床にはカラーコーンが置かれているという無機質な空間だった。そこからエレベータへ乗り込むメンバー達。階層を上がっていく狭い箱の中で、円陣を組みライブに向けて士気を高めていた。
 その姿は、まるで昨年のYOASOBIの状況を表しているようでもあった。20年1月に「Spotify」の日本バイラルチャートで1位を獲得したことをきっかけにしてテレビ番組で特集が組まれると、瞬く間に人気となった。大晦日には紅白歌合戦に出場し、テレビ番組での初パフォーマンスを披露。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで2020年を駆け抜けた。


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 01月18日に放送された『CDTVライブ!ライブ!』2時間SPにおいても見せていたルーティンと思われる、少年マンガの主人公とそのライバルが互いの健闘を祈るかのように拳をぶつけたシーンでは、これから始まるライブにワクワクが止まらなかった。


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 開始の合図は、黄色の大きな「YOASOBI」のイルミネーションライトを背にして息を吸い込んだikuraさんの、〈夜の空を飾る綺麗な花〉というアカペラだった。そこにバンドメンバーが加勢してきた瞬間、一気にギアが上がるのを感じた。
 バンドの背面に映し出されるプロジェクションマッピングの花火と相まって、素晴らしいパフォーマンスである。
『あの夢をなぞって』〔https://youtu.be/sAuEeM_6zpk〕

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 YOASOBIの楽曲ではじめて聴いたのが『あの夢をなぞって』だった。
伸びやかに音をひろげながらも、胸を締めつけるようなどこか儚さすらも感じさせる美しい歌声に惹きつけられたのを、今でも鮮明に思い出す。


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 1曲目が終わると、
「YOASOBIの1stライブ『KEEP OUT THEATER』へようこそ。画面の向こうの皆さん、ぜひ一緒に盛り上がっていきましょう」とikuraさんが視聴者に呼びかけ、次の演奏へ。
『ハルジオン』〔https://youtu.be/kzdJkT4kp-A〕

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 2曲を終えたところで一息、MCタイムへ突入。
 ikuraさんからライブがはじまってみての感想を訊かれたAyaseさんは、掌を握ったり、開いたりしながら「緊張の感じが、ちょっとほぐれてきた」と応える。

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 YOASOBIとしての1stライブであり、この日のために半年間かけて頑張ってきたことや、新しい劇場を建設中の新宿ミラノ座跡地で演奏していることなどを話した後、ライブ配信であることを示すためチャットを確認。そこに寄せられていたコメント「オシャレやん」に笑みをみせ、衣装について説明した。
 今回の衣装は、前日に自分たちがスプレーでよごしを入れ、思いおもいのオリジナルのデザインにして遊び心を添えたようだ。

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 ikuraさんのMCを支えるかのように、Ayaseさんが「他は、コメント」と促し、お兄さん的存在である様子もうかがえる。
 そこにインターネットの接続が途切れるというトラブルが発生。しかし、慌てることなく「たくさんのコメントをリアルタイムで見させてもらってます。嬉しいね、こうやってホントに同じ時間をいま過ごしているわけですから。この時間をいただいているわけですから」と笑顔でコメントとし乗り越える。

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 いろんな視聴の仕方があるという話から、ライブ会場は工事現場ということもあり夜風を遮る壁がなく、ほぼ外で行っているので寒いという話題へ。ここで、ikuraさんの「お家でぬくぬくと見てくれると思うんですけど」という衝撃的な発言がとびだし、すかさず「煽ってるやん」とAyaseさんがつっこむ。
 ikuraさんは、先ほどの発言に対して切り取られることを心配しながらも、「お客さんと仲良くなりたいのよ。砕けたいのよ」と笑みを浮かべていた。

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「ずっと同じ部屋で過ごしてきた二人の別れの朝を描いた曲になっています。聴いてください『たぶん』」という紹介が入り、次の曲へ。

『たぶん』〔https://youtu.be/8iuLXODzL04〕

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 ステージはあたたかなライトで照らされ、ikuraさんが一つひとつのフレーズを編み込みように演奏へのせていく。

つづけて、『ハルカ』〔https://youtu.be/vd3IlOjSUGQ〕を披露。

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先ほどとは一転、ステージが寒色系に染まり花びらのようなライトで彩られる。

 ikuraさんが「今、お届けした『ハルカ』という曲なんですけれども、「月王子(ハルカと月の王子さま)」という小説が原作となっておりまして、マグカップが一人の少女の人生を追い続ける愛のお話なんですけれども、ということで、(バンドメンバー)それぞれの思いおもいのマグカップを用意しておりますので、乾杯をしましょうか」と述べる。
 そこに、Ayaseさんが「ぜひ、画面の前のあなたも何かお飲み物を用意してくださいというお話です」と補足した。
 視聴者が飲み物を準備している間で、バンドメンバーの飲み物を訊いてまわっていると、ikuraさんは自分の飲み物が何なのかを知らなかったようで、おもむろにマグカップを持ち上げ少量を口に含んだ。間髪入れず、Ayaseさんに「飲むんや。乾杯前に」と言われ、自身の失態に気づくという天然な一面ものぞかせた。

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「次の曲は、アニメの主題歌に起用していただいた。書き下ろしさせていただいた曲になっておりまして、原作となる物語では、自分の中にある本能と戦い続けながら、それでも大切なものを守りたくて、心にあるものを解き放っていくような曲になっておりまして。きっと画面の向こうにいる皆さんも、何に対してでもそうですけど、周りの人に言えないような悩みだったりとか、葛藤だったりとか、夢を追う中での迷いだったりとか。そういうものは、きっと皆さんも抱えているんじゃないかなと思うんですけれども、そんな皆さんも中からさらけ出せるような、背中を押せるような歌を届けられたらなと思います」と紹介。
『怪物』〔https://youtu.be/dy90tA3TT1c〕

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 ガラッと雰囲気が変わる。どこからともなく現れた煙幕に覆われてたステージは、異世界感が増した。そして、早々と切り替わるカメラワークには、本質にたどり着くことは簡単じゃないのだよ、というメッセージが込められていたように感じた。
 疾走感とともに憂いをひそめた楽曲で、YOASOBIとしての新たな一面を魅せる。
 モチーフとなったマンガ『BEASTARS』は擬人化した草食動物と肉食動物が共存している世界のお話なのだが、Ayaseさんの物語に込められた想いやメッセージを読み解き、楽曲に昇華させる力には脱帽である。
 この楽曲を聴いてしまえば、他の曲をオープニングテーマにすることなんて考えられないと思わせるほどに物語へフィットしており、唯一無二の存在がある。

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 真っ暗闇の中に木漏れ日が差し込むような空間にキーボードでSEが奏でられる(お恥ずかしながら、のちに「カツセマサヒコさんのライブレポート」を拝読して知ったことだが、1stEP『THE BOOK』に収録されている『Epilogue』だった様子)。
 シリアルな空気感の中で「毎日、怯えるような日の中で、こうやって皆さんと画面の向こうを通して繋がり合う事ができて、ホントに幸せです。明日も明後日も音楽が鳴り続けますように」というikuraさんのMCに誘われる。

『アンコール』〔https://youtu.be/vcGbefQBvJ4〕
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 絞り出されるような繊細な歌声に、それを昇華させる素晴らしい演奏。この一曲を聴けただけで、今回のライブを視聴した意義があったとさえ感じさせる。


 ライブも終盤へと差し掛かり、ikuraさんは一年を振り返る。
「ホントに、今日という日を迎えるまでに、すごくたくさんの人の力をお借りして、支えていただいて。そして、私たちもこの日のために毎日を過ごして、今日で終わってしまう事が寂しいぐらいな感じですけれども、この一年ていうのが、私たちにとって大きく変わった一年である事は間違いないですし、私はYOASOBIという活動が始まってから、どんどんどんどん追いつくのに必死だったというか、振り落とされないように必死にしがみついていく感じで、その時はまだまだ怖さがすごくあって、でもこの日を迎えて、一人じゃないんだなって思って(中略)、だって私たちなんて、最初はあの一曲から、ネットに配信したところから始まったから、そこからこんなに多くの人に見ていただける日がくるなんて思ってもみてなかったので、今は怖さよりもこれからのワクワクに繋がっているというか。ホントに感謝していますということです。この場に立てていることも、こうやって音楽を続けられる事も幸せだなってライブが始まってから、ずっと噛み締めています」

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 AyaseさんはYOASOBIが始まってからを振り返り、
「最初はホントにね、僕と、ikuraちゃんと、屋代、山本(お二方ともにプロデュースを担当するソニー・ミュージックエンタテインメント)の4人で始まり。ずっとこの4人だけで、駆け上がってきたというか。しんどい事もたくさんあったし、自分たちもどうなるか分からない状況の中でやってきて、そこに新しいスタッフさんが入ってきたりとか、バンドメンバーが来てくれて、こんだけ大勢のスタッフさんに囲まれて、ライブができて、ホントにコタツでPCで作った曲から始まったことが、これだけおっきな事になっていく実感がね。今もしっかりあるっていうと、そうでもないとは思うんだけど、ホントに幸せもんだな僕はと、周りに恵まれているなと、ホントに日々感じています。なので、僕らにできる精一杯の音楽を画面の向こうのあなたにもしっかり届けられたら良いなと思います」と締めくくる。

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 終わることが寂しいと語りながら、始めたことで終わってしまうのを惜しみながら、今までの準備してきたことのすべてを出し切るため次の楽曲へ。
「次の曲はですね。私たちをずっとデビューから引っ張り続けてくれた。大切な大切な曲を歌いたいと思います」

『夜に駆ける』〔https://youtu.be/x8VYWazR5mE〕

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 一瞬、この世からすべての音が消えたかのような静けさからYOASOBIの原点へ。
 YOASOBIと言えば、この曲を思い浮かべる方も多いだろう。2020年の日本に生きた人々ならば一度は耳にしたことがあるのではないかと思われるほどに有名となった1曲。

代表曲を歌い終えたikuraさんが視聴者に向けて感謝を述べた後、今回のライブを支えたくれたバンドメンバーを紹介する。
Dr. 仄雲
Ba. やまもとひかる
Gt. AssH
Key. 禊萩ざくろ

そして、最後の曲へ。
『群青』〔https://youtu.be/Y4nEEZwckuU〕

 ikuraさんがバンドメンバーに寄り添ってツーショットで歌っていく。
 合唱パートではメンバー同士で一体感が生まれ、聴いていて心地良いハーモニーとなっていた。今回はオンラインでの開催になってしまったが、実際のライブでは観客とともに盛り上がり、会場のボルテージを最高潮にすることを容易に想像させる。

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建設中ということで落書きのように描かれたエンドロールが流れ、幕が下りた。柱に「YOASOBI」とお二方のサイン。下に目をうつせば、『KEEP OUT THEATER』と書かれており、階段の段差を使った演出には驚かされた。

 2021年02月14日。それは、YOASOBIがはじまりの終わりを告げた日。一体、今年はどのような活躍を見せてくれるのか。
 YOASOBIという物語の1ページをともに捲れたことをとても嬉しく思う。
Ayaseさん、ikuraさんをはじめ、バンドメンバーの方々。そして関わったすべてのスタッフの皆様へ。今回のライブを開催してくださいまして、心より感謝を申し上げます。

(※Ayaseさんとikuraさんのコメントについては、当日の発言から可能な限り書き起こして掲載している)
(※掲載している写真については、ライブ中のスクリーンショットを使用)

追記
夜に駆ける(ver.THE HOME TAKE )
〔https://youtu.be/j1hft9Wjq9U〕

群青(ver.THE FIRST TAKE)
〔https://youtu.be/NyUTYwZe_l4〕

#YOASOBI #YOASOBI初ライブ #KEEPOUTTHEATER

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