雑感~J2第29節 ファジアーノ岡山 VS 栃木SC~
途中で記事がブッ飛ぶという事態になってしまい、しばらくの間メンタルをやられてしまっていました。遅い&雑感ベースですがどうか勘弁ください。
スタメン
両チームのスタメンはこちら。
前半
全体的な試合の進め方、特に90分で勝ち点を獲得するという方向性から見たときに、岡山の前半の展開はそこまで悪いものではなかったと思う。それは、岡山がボールを持って攻めるときに栃木の守備を縦横に広げる意図を持ってプレーしようとすることが多くできていたためである。まずは栃木の守り方を見ていく。
栃木の守備は4-4-2。ボールを持つ相手に対しては、まず第一ラインの豊田と有馬、そして中盤CHの佐藤と西谷で中央のエリアのパスコースを消してサイドに誘導するのが第一ステップ。次にサイドに誘導したところでSH(左が谷内田、右が畑)とSB(左が溝渕、右が黒崎) のポジションを上げてボールを受けようとする相手を捕まえに行く形でプレッシャーをかけようとする。プレッシャーのトリガーが第一ラインではなくサイドの選手なのが一つの特徴と言える。4-4-2の全体のブロックをボールサイドにかなり寄せる&中央に選手を残せるので、サイドでプレッシャーをかけて、ボールを取り切ることができれば一気にカウンターに繋げることができるやり方ではある。
そんなように「狭く」守ろうとする(まあそれ自体は守備のセオリーではある。岡山もそうだし)栃木に対して、岡山の第一の狙いは栃木のプレッシャーのトリガーとなるサイドの選手、特にSBがポジションを上げて生まれたスペースを突くような動きであった。特に前半開始からの20分程度、岡山が自陣でボールを回収した直後に栃木はボールサイドで強めのカウンタープレスを仕掛けてきていたので、岡山としてはそれを逆用するように前線の上門や齊藤、SHの木村あたりを走らせるようなボールをCBの井上と安部を中心に出して、そこで起点を作るような形でボールを前進させようとしていた。
そのスペースを埋めに出ていく栃木のCBである柳と乾に対して、競り負けていたとまでは言わないが、じゃあ優勢だったかといえばそうではなかったので、上手く行っていたかと言われれば微妙な形ではあった。ただ栃木としては自分たちの守り方を逆用されている展開が気持ち悪かったのだろう。25分あたりからか、栃木は岡山がボールを持ったときにそこまでプレッシャーをかけようとしなくなっていった。栃木は4-4-2のブロックを中央にコンパクトに構えて守る形をメインにしていった。
ここでボールを持ったときの岡山は、大外のSB(宮崎と河野)を起点にした、横に広げるようなボールの動かし方を中心にしていくようにしていた。GKの梅田も加えた井上と安部の両CBをビルドアップの始点に、CHの喜山とパウリーニョを経由させつつ大外の宮崎や河野に展開することでボールを左右に動かし、中央にブロックを敷く栃木の4-4-2を横に動かそうとしていた。
こうした大外への展開、横の揺さぶりに栃木が付いてくれば、岡山は内側のエリアに入ったボールサイドのSH(白井と木村)や前線から下りてきた齊藤あたりにボールを付けていこうとするし、逆に付いてこなければ宮崎や河野がそのまま持ち出したり、特に左サイドでは木村が大外に流れてボールを受けてそこからドリブルで運んでいこうとしたりしていた。
このように前半の岡山は、空いている(というよりは栃木が空けている)スペースを素直に利用してボールを前進させようとしていた印象が強い。そうなれば前述のように自然と大外からボールを運んでいく形が増えるのだが、その中で左サイドでは木村、右サイドでは河野が自らボールを持ち運んで前進させようとする姿勢がうかがえた。34分あたりで、河野がパウリーニョから「もっと高い位置で大外に張れ!」みたいなハンドサインを受けた直後に井上からのパスを受けて対面の相手をドリブルで剥がしてクロス、逆サイドの木村が頭で合わせたシーンは非常に良かったと思う。
ただ岡山としては、前半のボールの動かし方でスコアをするチャンスを増やすにはもう一手間必要だったのは間違いない。中央のエリアを固める栃木に対して、特にCBを動かすことができておらず、大外からボールを運ぶことができても栃木のSHやCHのスライドによって中央の選手を動かす形を作ることはなかなかできていなかった。それでも最初に書いたように、90分全体を通して考えると決して悪くはない、後半になって前半の形に栃木の中央を動かすための自分たちの動きのスパイスを加えることができれば問題ないと言える展開だったと思う。
ちなみに前半の栃木の攻撃について言うと、思った以上に地上戦の意図を持っていて、特にボールサイドで密集を作って打開していく形を意図的にしているようであった。ターゲットを前線の豊田としたロングボール主体のビルドアップであったのは間違いないが、セカンドボールをCHの佐藤と西谷を中心に回収してからは、下がり目の前線の有馬を含めてSHの谷内田と畑である程度ボールをキープして運ぶことができるので、ドリブルやSBのオーバーラップからボールサイドで密集を作っての崩しからクロスを上げる形を狙っているようであった。
こうなると岡山は栃木の攻撃の初手となる豊田との空中戦で後手を踏んでは厳しい展開となったが、この部分でCBの井上と安部、特に井上が豊田に対して後手を踏むどころかむしろ優勢に立てていたのは良かった点。井上は、滞空時間の長い豊田に対して飛ばせないような競り方をすることで上手く立ち回ることができていたように思う。
後半
後半になってからの岡山は前半に多く見られた左右の横幅を取った、横に広げる意図を持ったボール保持をあまり行わなくなり、攻めるサイドを決めたらできるだけワンサイド~中央で攻め切ろうとするようになっていた。中央を固める栃木に対して、片方のサイド~中央で攻めることで中の人数を最初からある程度確保しておきたい考えがあったのだろうと思う。
しかし岡山のこのやり方の変更は、栃木の守備をわざわざ自分たちで助ける形になってしまっていたと言わざるを得ない。どういうことかと言うと、前半は左右にボールを動かして横に広げることで栃木にスライドを強いて多少なりとも前進することができるようなスペースを作れていた展開だったのが、後半になって岡山の横のボールの動きが少なくなったことで、栃木としてはスライドをしなければいけない範囲が狭まるようになり、より中央を守ることが容易になっていた。そのため岡山は、前進しようとしてもそこからこじ開けていきたいスペースを作ることが難しくなってしまっていた。
岡山の攻撃で何より問題だったのは、前線の齊藤や上門あたりが栃木のCBの柳と乾を動かすことがほとんどできていなかったこと。CBを動かすというのはサイドに引っ張るのもそうだし、背後を取ろうとする動きを入れることで押し下げるというのもそうである。いずれにしてもCBを動かすことができれば、相手のCB-CH間のスペースなり、2枚のCB間のスペースなりを広げることに繋がり、そこからドリブルするスペースやゴール前へのクロス、シュートを狙うコースもできるようになる。
しかしこの試合の岡山はそうやって栃木のCBを動かす形を作れていなかったので、栃木のブロックを動かすことができていなかった。そのため岡山が中央に人数を集めても、そこにボールを入れるスペースはない。結局岡山はボールサイドに必要以上に人数をかけることになってしまって、余計にスペースがなくなってしまう交通渋滞が発生。敵味方問わず大量に人間がいる密集地帯を打開するようなスキルがあるわけではない岡山は、後半になってゴール前にクロスを入れることもままならなくなってしまっていた。
このように後半は全体的にプレーエリアが狭くなったことで、栃木の土俵でもあるボール局面での競り合いがより増えるようになった。これによって栃木の攻撃が格段に増えたというわけでもなかったのだが、少なくとも栃木はミドルゾーン~岡山陣内でファールを奪ってセットプレーを獲得する形を作れるようになっていた。栃木のセットプレーはゴール前にボールを入れての折り返しが基本型だったのだが、栃木の先制点となった柳のゴールに至るセットプレーはあえてその形から外すことで、フリーで途中投入の森がクロスを上げることができていた。
この形を作るために岡山の守備にセットプレーの刷り込みをしていたのだったら、天晴れ栃木、天晴れ田坂監督と言わざるを得ない。
後半の岡山が多少マシになったのは、前線にイヨンジェが投入されてから。絶えず背後を取ろうとする動きを入れることで栃木のCBを押し下げる形を作れるようになり、こちらも途中投入の石毛のキック(⇒狭いエリアでも前を向けてボールを蹴れる)を生かす形が生まれやすくなっていった。石毛をクロッサーとして使うのが良かったのかどうかは別の話。このようにイヨンジェが栃木のCBを動かすことで、ようやくクロスを上げたり中央を使ったりするスペースができるようになったわけだが、終盤は5バックにするほどに中央を固める意志の強かった栃木の守備ブロックを破るには、75分を過ぎて気付くようではあまりに遅すぎた。
雑感
・正直なところ、前半(特に飲水タイム以降)のボールの動かし方をメインにして、その中で前線の齊藤や上門あたりが栃木の最終ライン、特にCBの背後を取ろうとする動きをもう少し増やしていたらスコアすることはできていたし、十分に勝つこともできる試合だったと思う。少なくともこれだけ停滞感の強い後半を過ごすことはなかっただろう。「もっとゴール前の迫力を増やそう」と(おそらく)提示されて、前線のアクションがあまり変わらずに中央の人数を増やそうとした後半の戦い方の変化は悪手だったと言わざるを得ない。
・横幅を積極的に使っていた前半はもちろん、狭く攻めていた後半の振る舞い自体も相手の土俵に上がる狙いはなかった岡山だったが(⇒相手の土俵で戦えていなかったわけではなかった)、この試合で勝ち点3を取れる確率を上げることだけを考えれば、あえて栃木の土俵に上がる戦い方、意図的にロングボールを増やしてタッチライン際でのプレッシャー合戦に持ち込む戦い方(⇒開幕戦で栃木に対してやった戦い方)をしても良かった気はする。