全体的にはポジティブ~J2第32節 FC琉球 VS ファジアーノ岡山~
スタメン
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前半
岡山と琉球のマッチアップでありがちなのは、ボールを保持して後方から前進させていこうとする琉球に対して岡山が4-4-2のブロックをセットして琉球のボールを引っ掛けてのカウンターを狙う、という展開。ただこの試合では、立ち上がりから攻勢を強めていたのはむしろ岡山の方であった。立ち上がりの岡山の攻撃の軸となっていたのは、スタートからの組み合わせとしては初めてとなったデュークとイヨンジェの2トップであった。
立ち上がりの岡山はパワーのある前線2枚をシンプルに使って、早めに高い位置での自分たちにとっての起点を作ろうとしていた。後方でボールを持っても、特に安部や梅田の狙うところは前線へのロングボールが最優先となっていた。後方からのボールを受けることが多かったのはデューク。岡山は2トップが横並びになるのではなく、イヨンジェが縦に抜けようとする動きで琉球の最終ラインを後ろに引っ張り、そこでできたスペースでデュークが受けるという形を取るようにしていた。前節の秋田戦と違ってロングボールに対してデュークが相手のCBに潰されるシーンが少なかったので、岡山としてはSH(上門や石毛)やCH(喜山やパウリーニョ)がセカンドボールに対してミドルゾーンから高い位置でプレッシャーをかけて、ボールを回収しやすくなっていたのも大きかった。
ただ、立ち上がりの15分ほどを過ぎると、試合展開は徐々に本来の展開(⇒琉球がボールを保持する展開)に移っていくようになる。琉球は2CB(福井-岡崎)とCH(上里-富所)の1枚が下りてバックラインを3枚にして後方からボールを保持しようとするのだが、これに対して岡山の第一ラインのデュークとイヨンジェの2枚は、ボールホルダーを追いかけるのではなく中央へのパスコースを切ることを優先に守っているようであった。岡山が第一ラインをあまり動かさないようにしていたのは、ボールを持たない状況でデュークとイヨンジェを動き回らせて、いざボールを回収したときに前でポイントが作れなくなるのを避ける狙いがあったのだと思う。
第一ラインから琉球のビルドアップに対して噛み合わせるような守り方ではなく、琉球の受け手に対してプレッシャーをかける守り方を選択した岡山。そうなるとポイントになるのが、4-4-2を組む岡山の第一ラインの背後のスペースに入ってきて後方からのボールをピックアップしようとする琉球の選手をどう捕まえるか、ということになる。このエリアを狙っているのはCHの片割れだけでなくSHの風間や武田、さらにトップ下の池田が下りてくることもある。ここで琉球の選手にボールを受けて前を向かれると、今季の琉球の一つの狙いである「中央に引き付けての大外への大きな展開→クロス攻撃」という形なり、本来琉球が得意とする狭いエリアでのドリブルとワンツーでの打開という形なりを出されてしまうので、岡山としてはどうにかして避けたいところである。
岡山は第一ラインのデュークとイヨンジェが細かく動いて中央のパスコースを切り、琉球のビルドアップを外回りにさせることはできていたが、前述した第一ラインの背後のスペースに下りてくる琉球の選手をどうするかについては曖昧な対応が続いていた。その対応が良くなったのは、前半の飲水タイム開けから。それまでは4-4のラインを比較的動かさないようにしていたのだが、琉球のCHが動けば喜山が、琉球のSHが下りてくれば上門なり石毛なりボールサイドのSHが付いていくことでプレッシャーをかけるようになっていた。こうしてミドルゾーンで琉球のビルドアップにプレッシャーをかけやすくなった岡山は、琉球のサイドを限定して最終ラインの選手が前向きにボールを回収できる形を増やしていった。
ボールを回収してからの岡山の振る舞いについて、前線のデュークまたはイヨンジェに縦に付けるボールが第一優先なのは立ち上がりから変わっていなかったが、時間の経過とともにCB-CH間でボールを落ち着かせて横幅を取るSB(徳元や河野)に展開させる形も増やしていくようになった。ボールを持たないときの琉球は4-4-2のブロックをセットして早めに中央のスペースを防ぐことを最優先にしていたので(⇒結果として大外への展開に対する優先順位は下がる)、岡山がSBへの展開を起点に大外から前進させていくのはそう難しくはなかった。
岡山はCB-CH間でのボール保持をある程度落ち着いて行うことができていたので、大外の高い位置にSBを押し出して起点にすることができていた。これによってSHの上門や石毛が内側のエリアにポジショニングしやすくなっただけでなく、ボール保持のために必要以上にポジションが下がりすぎるということがなくなり、前線に入ったボールに対して関わりに行きやすくなったり、ボールサイドでのSBやサイドに流れた前線とのコンビネーションでサイドを切り崩す形を出しやすくなったりしていた。
特に後者の形については、左右両サイドともに、左サイドは上門のキープから、右サイドは石毛のフリックやパスから大外の選手をフリーにしてのクロス、それに対して前線の選手だったり逆サイドのSHだったりがペナ内に入り込む形でチャンスをいくつか作ることができていた。しかし琉球のGKの猪瀬を脅かすシーンはあったが得点までには至らず。前半はそのまま0-0のスコアレスで折り返すこととなった。
後半
後半になってから動きを変えてきたのは琉球。前半は多く見られていた、自分たちがボールを持つときに岡山の第一ラインの背後にボールを入れようと探っていたアクションが後半になって少なくなり、福井や岡崎、上里といった選手から早い段階で大外にポジショニングするSB(沼田や金井)への展開を行うようになっていった。岡山としては琉球のボールホルダーにプレッシャーがかかりきっていない状態で展開を許してしまうことになっていたので、大外に展開されてもボールサイドのSHが行きにくくなっており、一度4-4のブロックを下げて自陣深くに撤退せざるを得なくなっていた。
後半になってからの岡山のボールを持たないときの対応が難しくなっていたのは、前述したような琉球の変化のためだけではなかった。前半は非常に良くこなせていた、第一ラインのデュークとイヨンジェによる中央のパスコースを消す動きがなかなか連続して行えなくなっていた。これによって岡山は中盤の第二ラインから押し上げて琉球のビルドアップにプレッシャーをかけに行くことが難しくなってしまっていた。逆にビルドアップに人数を割く必要がなくなった琉球は、岡山の4-4のライン間に選手をポジショニングさせてそこにパスを入れる形を増やして、岡山のペナ付近に人数をかけて崩そうとしていた。
そんな展開が変わったのは、62分に岡山がイヨンジェに代わって木村が投入されてからであった。なおイヨンジェの交代に関しては、負傷明けということもあり60分前後という時間制限があったのだろうと思う。この交代によって木村が左SH、上門がポジションを上げることになったのだが、上門が第一ラインに入ったことで岡山は第一ラインから琉球のビルドアップにプレッシャーをかけることができるようになった。
上門が第一ラインに入ってからの岡山の守備は、上門が琉球のボールホルダーにプレッシャーをかけに行き、デュークは中央のパスコースを切る役割を継続するようにしていた。この上門の動きによって、岡山は全体を押し上げて高い位置でボールを回収するためのプレッシャーのスイッチが入るようになっていった。第一ラインから琉球のビルドアップのサイドを限定するように動き、それに合わせてボールサイドのSHなりCHなりがスライド、最後に最終ラインの選手が押し上げてボールを回収する形を再び出せるようになっていった。
後半の琉球は左サイドからボールを運ぼうとする動きが多かったので、右サイド~中央のエリアでボールを回収してからの岡山の動きは、中央の喜山やパウリーニョを経由することで逆サイドに上手くボールを逃がし、徳元や途中投入された木村をオープンスペースに走らせることでボールを前進させようとしていた。中でも左SHの木村は左サイドでドリブルなりキープなりで起点を作り、上門やデュークのシュートチャンスを演出することができていた。
そして74分の岡山の得点シーンは、ここまで書いた上門の動きをスイッチにした高い位置からのプレッシャーと回収後のCHからの展開がまさに奏功した形となった。琉球のビルドアップを左サイドに追い込んで、喜山と河野でサンドイッチしてボールをこぼさせると、中央のパウリーニョが残っていたデュークに縦パス、ワンタッチで上門に落としてそのまま右サイドでフリーになった石毛に展開、ダイレクトで上げたクロスにデュークが頭で合わせるまでの得点の一連は非常にスムーズで良い展開であった。逆サイドのSHの木村がちゃんと飛び込んでいたのも良かった。
久しぶりの先制点を挙げた岡山は、濱田と白井を投入しての5バックシフト(5-4-1)に移行。上原や古巣戦となった清水を投入して大外からのクロス攻撃をさらに増やしてきた琉球に対して、全体のブロックを下げて自陣ゴール前の強度を高めたことと、ボールを回収してからの木村と白井の縦の推進力によるカウンターでほとんど問題なく時間を進めることができていたのだが、後半のATに入る直前、左サイドの福井からの対角への大きな展開に金井がペナ内に抜け出すと、金井の動きに対して明らかに出遅れてしまった徳元が後ろから当たって金井を倒してしまった(ように見えた)ことで琉球にPKを与えてしまう。このPKを富所が決めて1-1の同点。その後はスコアが動くことはなく、試合は1-1の引き分けでフィニッシュ。岡山は3試合続けての1-1というスコアとなった。
雑感
・この試合までで4連敗中だったという琉球のバイオリズムの悪さは考慮する必要はあるものの、それでも対琉球戦においてここまで決定機を作らせずに守ることができたのは多分初めてだったと思う。デューク-イヨンジェ、デューク-上門というそれぞれの第一ラインの組み合わせに応じた相手のビルドアップに対する全体でのプレッシャーをかけに行くことができたこと、数少なかったもののやはり動きに鋭さのあった阿部や池田のオフボールに対しての井上や安部の対応が良かったことはポジティブに捉えて良いと思う。だからこそ無失点で終わらせることができなかったのが悔やまれるわけだが、最後のPKを与えたシーンは申し訳ないが徳元一人の完全なミスだったと思う。あの時間帯は5-4-1で構えていて特に最終ラインの5枚が担当するエリアはハッキリ決まっていた(⇒スライドする範囲も狭い)ので、あそこで金井の動きを見落としてしまうのはちょっと厳しい。
・岡山がボールを持ったときの動きについて、個人をフォーカスすることになるのだが、CHの喜山の「オープンな視野を確保できる」ようなボールの受け方、角度の付け方はやはり非常に参考になる動きだと思った。相方のパウリーニョもそうなのだが、そういう動きができるからこそ中盤でボールを広く展開したり相手のプレッシャーから逃がすことができたりするようになると言える。井上やGKの梅田あたり(⇒試合に絡めていないが疋田やユヨンヒョンあたりもそうだと言える)はボールを扱うスキルは十分にあるだけに、こういう生きた教材としての喜山の動きをどんどん盗んでいって欲しいなと強く思う。