2024 J2第6節 ザスパ群馬 VS ファジアーノ岡山 の雑感
藤枝戦、水戸戦、そしてこのザスパ群馬戦と、3試合続けて複数試合勝ち無しのチームとの対戦となったファジアーノ岡山。だからと言って簡単な試合なんてのは一つもなく、この試合もご多分に漏れず難しい試合となりました。お互いの型がなかなか崩れない我慢比べの中で、それでも自分たちのやるべきことを崩れずに続けた先にあったのは、「ブラジル人のスーパーなクオリティ」というご褒美でした。
スタメン
両チームのスタメンはこちら。
可変する群馬へのぶつけ方
自陣からボールを保持して地上戦で前進させていこうとする意図をJ2リーグの中でも特に強く持っているチームとして挙げられるのが、大槻監督になってからのザスパ群馬。その理由は様々あるのだろうが、個人的には「試合展開をゆっくりにすることでトランジションの連続する展開に持ち込まれたくないから」なのかなと思っている。
そんな群馬はボールを保持、前進させるための工夫としてこの試合の基本フォーメーションである3-4-2-1から選手の立ち位置を意識的に可変させる形を取ってきていた。可変の主役となっていたのは右サイド、右WBの田頭が2CH(天笠・風間)と同じ高さを取って3センター気味となり、右シャドーの佐藤がワイドポジションに立つ。そして左シャドーの髙澤が平松と縦関係の2トップを組むような立ち位置を取るようにしていた。そのため群馬の保持する時のフォーメーションは、3-4-2-1から3-5-1-1(⇒両ワイドの佐藤・川上のポジションはなるべく高い位置を取る)のようになっていたと言えるだろう。なお群馬の右サイドを主体とした可変によるボール保持の形はこの試合特有ということではなく、昨季からも見られていた形ではある。
このように可変を使ってボールを保持してくる群馬に対するファジアーノ岡山であるが、前線のメンバーが一新されたこの試合でも今季ここまでと大きく変わらない守備の方針で臨んでいた。まずはルカオ・田中・太田の3トップで群馬の3枚のバックライン(城和・中塩・大畑)とGKにプレッシャーをかけに出て、そして前線の3枚と藤田・仙波の2枚のCHとで群馬のバックライン→中央(特に岡山のCH周辺のスペース)への直接のコースを消して群馬のボール出しをサイドに誘導する。そしてサイドに出てくるボールに対して岡山のボールサイドのWBないしサイドCBが高い位置を取ってプレッシャーをかけに行く(⇒CHもボールサイドにスライド)といういつもの狙いである。
ただこの試合、岡山の前線3枚がそのまま群馬のバックライン3枚にプレッシャーをかけに出ることは難しいこととなっていた。前述したようにボールを保持する時の群馬は①バックライン3枚に右ワイドの田頭が内側に絞ることで中盤が3枚を確保できていたこと、②岡山の2CHの背後のスペースに髙澤がボールの逃げ道となるようなポジションを取っていたこと、③シャドーの佐藤が内側ではなく右ワイドの高い位置にポジションを取っていたことで、特に岡山の左サイドを担当する選手たち(田中・末吉・鈴木)が前に出るべきか留まるべきかの難しい対応を迫られることになっていた。
シンプルに3-4-3で前からプレッシャーをかける形を取ることは難しい岡山。そのため群馬のバックラインでの右サイドへのボール出し(城和→大畑)ではCFのルカオがサイドに流れてプレッシャーに行き、田中が田頭へのコースを消すようにポジションを取ることが多くなっていた。そしてこの形になった場合、田頭がワイドに流れたら末吉が、佐藤が引き出そうとしたら鈴木がそれぞれ付いて行くことで群馬の右サイドで簡単に前を向かせない形を取るようにしていた。群馬の右サイドにプレッシャーをかけるのが難しくなっていたとしても、運ばれることを容認するのではなく、プレッシャーのかけ方を工夫することで群馬のサイドへの展開→前進の時間を遅らせるようにしていたのはとても良かったと思う。
なお岡山の右サイドの守備は、基本的には群馬のバックラインでの左サイドへのボール出し(城和→中塩)にシャドーの太田がプレッシャーをかけ、左ワイドの川上に対して柳(貴) がマッチアップするという比較的シンプルな対応を取っていた。そして群馬の縦関係の2トップへのボールに対しては平松に田上、髙澤に阿部がそれぞれ対応することがメインとなっていた。そうした岡山のプレッシャーに対しても、群馬はGKの石井込みのバックラインでの保持に加えて中盤を低い位置に下ろすことを厭わないことでボール保持→前進のプロセスを粘り強く進めようとしていた。岡山はそうした群馬のワイドへの展開や髙澤にボールが入る形を何度か許してはいたものの、簡単に前を向かせることなく対応し、適宜5-2-3⇔5-4-1のミドルブロックに移行することで岡山陣内深くへの侵入の時間をかけさせて群馬のバックパスを誘い、そこから再び全体を押し上げていくというプロセスをこちらも粘り強く行うことができていた。
外が難しいなら中央から
前半のボールを持った時の岡山は群馬が3-4-3でマッチアップさせてくることを想定してか、バックラインに藤田が下りて中盤に仙波が残り、鈴木・阿部のサイドCBをサイドに開く形が多くなっていた。ただ群馬は前からマッチアップさせるというよりも、岡山がサイドCBに展開しようとしたらプレッシャーをかけるような守り方をすることがメインとなっていた。この時岡山の右サイドへの展開に対してはWBの川上が、左サイドへの展開に対してはシャドーの佐藤が主に付いて行っていたのが面白かったのだが、おそらく可変時のタスクに準拠してのことなのだろう。
このため群馬のマッチアップを外すための岡山のバックライン-CHでの4-1系でのボール保持であったが、特に自陣深くでは逆に詰まってしまうことも多かった。それでも群馬の守備が高い位置で奪うことをそこまで主眼に置いておらず、岡山が一度自陣深くから脱出して自陣寄りのミドルゾーンでボールを保持した時には群馬は中央~内側を閉じるような5-4-1のミドルブロックを敷くようにしていた。このミドルブロックは岡山のようにそこから全体を敵陣に押し上げようとする、というよりも一度自陣で受けるのを受け入れるような形となっていた。
このように5-4-1のミドルブロックで中央~内側を閉じる群馬に対して、岡山としては両サイドを使って攻撃していきたいところであったが、各サイドともにそれぞれの理由から詰まってしまうことが多かった。まずは左サイドであるが、①起点となるサイドCBの鈴木が藤枝→水戸→群馬という3連戦フル出場による疲労からかボールタッチやプレッシャーを受けた時の判断が少々雑になることが散見されていたこと(⇒末吉も同様であるが、その影響があまり見られなかった。鈴木の現象が普通で末吉が異常なのだろう)、②CHの仙波と田部井のタスクの違い(⇒田部井は積極的に左サイドでの前進に関わるが、仙波はできるだけ中央に留まる。前半は藤田がバックラインに下りることが多かったのでなおさらだった)への順応に時間がかかったことが挙げられる。
そして右サイドであるが、こちらの理由としては起点となるべきサイドCBの阿部がボールを持った時にWBの柳(貴) が低い位置で受ける形が多くなっていた、そのため群馬の左サイドを押し下げるのが難しくなっていたことが挙げられる。こうなった要因としてはCFで起用されたルカオが右サイドに流れて起点を作ろうとする動きが多くなっていたことが大きい。ルカオと太田とが重なるシーンも何度か見られていたほどだったので、柳(貴) としてはスペースを作るために前線の動きを汲んで起こしたアクションと言える。
そのためか、木山監督は30分あたりでルカオと太田のポジションを入れ替えるようにしていた。太田がCF、ルカオがシャドーに入るようになっていたのだが、これは多少なりとも効果があったように思う。右サイドでの前線のポジションの重なりが明らかに少なくなり、右ワイドの柳(貴) がボールを受けたところで阿部が高いポジションに上がるスペースも作れるようになっていた。サイドに流れてそこから馬力を生かして運べるルカオの特性と、ポストプレーと味方のシュートのためにスペースを作れる利他性という太田の特性とを考えると、太田がCF、ルカオがシャドーというのが少なくともこの2人を組ませる時のアンサーなのかもしれない。
この試合のボールを持った時の岡山の振る舞いとしてなかなか興味深かったのが、サイドを起点にした同一サイドでの前進の形が詰まるというのが前述のように多かった分、逆に中央を起点にした縦パスや中央→サイドへの展開で前進させる形を何度か見せていたということであった。これはCHに仙波を起用していることのメリットの一つであり、田上-藤田-仙波の3枚をメインにしたミドルゾーンでのパス交換から前を向いたところで3トップに縦パスを通したり、サイドに展開してワイドの選手が前を向ける形を作ったりするという、群馬陣内深くへの前進のスイッチをサイドからではなく中央から入れることができていた。
サイドからの形を作ることが難しくても、中央からでも組み立て→前進の意図を見せることができていたというのは、今後の試合を考えても非常に大きいと思う。ただこの試合の前半においては、①3連戦の最後であったこと、②ピッチがツルツル滑るようなピッチであったこと、③実戦での合わせが少ない組み合わせであったこともあってかスムーズにボールが前進するシーンはなかなか多く作ることはできなかった。
普段通りへの修正と圧倒的クオリティ
後半になってから岡山はルカオ→グレイソンの交代(そのため太田が再びシャドーに入る)。そしてバックラインからの保持の形として、CB3枚とCH2枚による保持の形をメインにするという変更を見せていた。この変更によってバックラインで横に動かす時にCHの1枚が下りてバックライン4枚で保持を行うのではなく、CB3枚がボールサイドにスライドするような動かし方になっていた。この効果としては、①5-4-1で中央~内側を閉じる群馬に対して岡山がサイドに展開した時にCHがサイドからの前進に関わりやすくなったこと、②サイドCBを低い位置から高い位置に移動する形を取るようにした(≒最初からサイドにいない)ことで群馬のサイドでのプレッシャーに捕まりにくくなったこと、③WBがワイドの高い位置を取ることができるようになったことが挙げられるだろう。もちろん前線で動きすぎない&シャドーの動きを汲んだポジションを取れることで起点となれるグレイソンが入ったことも大きい。
試合の文脈とはあまり関係ない、事故としか言いようがないオウンゴールで群馬に先制を許した岡山ではあったが、CFにグレイソンが入ったことで前半よりもアクションをハッキリと起こせるようになった太田の空中戦を起点にした右サイドからの前進で早い段階で同点に追いつくことに成功する。ボールを失ったところでカウンタープレスの初動となった柳(貴) 、天笠のパスミスを誘う立ち方ができた太田、回収してからのグレイソン→仙波の冷静なスキルとそれぞれ見事な役割を果たした得点であった。
後半になってからの群馬は前半のように低い位置でボールを粘り強く保持して前進するというよりも、バックラインで前を向く形ができたら比較的シンプルに前線にロングボールを入れるやり方を増やすようにしていた。あまり最初から5バックで構えたがらない岡山に対して早い段階で前線にボールを送ることで起点を作り、高い位置を取ろうとする岡山のWBの背後のスペースにワイドの選手を走らせてクロスを入れるという狙いがあったのだろう。これに対して岡山は前半よりもシンプルな3-4-3で高い位置からプレッシャーをかける形で応戦。岡山の最終ラインが守るスペースが増える形となるが、群馬のビルドアップに対して高い位置でWBやCHがボールホルダーを捕まえるシーンは前半よりも多くなっていた。
そして前述した保持時のポジションの修正とグレイソンの投入もあってか、後半の岡山は特に右サイドにおける右サイド起点→同一サイドでの前進の形を増やすことに成功。サイドCB-CH-WB-シャドーによるボールの動きに、中央に留まることの多い仙波に渡しての中央への展開、もしくは自らドリブルで持ち運ぶ形が加わることでよりニアゾーンへの侵入やペナ角へのクロスのバリエーションを持つことができていた。また仙波が逆サイドに展開することで左サイドが起点にならなくても、右→左の展開で末吉が群馬陣内深くでクロスや仕掛ける形を出すこともできていた。
後半は時間の経過とともに岡山、群馬ともに前線へのロングボールが多くなるオープンな展開になっていく。そんな展開で差を生んだのは起点力とそれを妨害する力の差であり、BOX内でのクオリティの差であったと言えるだろう。群馬のロングボールに対しては途中投入の柳と阿部が中心となって迎撃し、たまに入るクロス攻撃に対してもブローダーセンが処理。一方で岡山のロングボールはターゲットとなるグレイソンが高い確率で味方に繋げることで群馬の最終ラインに確実にダメージを与えていた。そして最終盤、群馬が左サイドから乾坤一擲のラッシュをかけようとしたところで、岡山はこちらも途中投入のガブリエル シャビエルとグレイソンがBOX内でのクオリティを見せつけて決勝点を奪うことに成功した。
まとめ
・もう少しサイドを起点にした同一サイドでの前進の精度が上がれば得点機会を増やすことができたと思うのだが、スムーズに同一サイドでの前進→BOX内侵入という流れは前後半通してあまり多く作ることはできなかった。後半は左右どちらもある程度の改善は見られた(⇒右サイドは本文に挙げた通り、左サイドも田部井がいないことを踏まえてのポジショニングの修正が見られていた)のでそれは良かった。
・なかなか自分たちの形を崩さない群馬に対しての我慢比べを強いられることとなった試合。それでも攻守において形を少しずつ調整することで、やるべきことを我慢強く焦れずに実行しようとした振る舞いが最後の結果に繋がったのかなと思う。仮に勝ち点1にとどまっていたとしてもこういった振る舞い自体は良かったと思えるものだし、きちんと評価するべきことだと思う。
・今季初登場となったガブリエル シャビエル。投入されてからしばらくは流石に試合勘が足りないかな、という動きが目立っていたが、時間経過とともにボールを受けて前を向く動きのスムーズさ、前を向いた時のアイデア(⇒木村に出した浮き球のパス)、そしてプレッシャーをかける時のメリハリのある動き(⇒このプレッシャーをかけるところの守備の上手さはグレイソンに通じるところがあるかも)と随所に流石と思わせるプレーを見せるようになっていた。決勝点のコンビネーションがそうであったように、味方と繋がろうとするグレイソンとのプレーのフィーリングが合いそうなのは何よりである。