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ファジアーノ岡山のJ1元年~2025シーズン~を展望する
はじめに
2024年12月7日土曜日、ファジアーノ岡山はついに・とうとう・悲願の・念願のJ1リーグへの昇格を決めることができました。
岡山の皆さん、おめでとうございます!
— ファジアーノ岡山スタッフ公式 (@fagiano_koho) December 7, 2024
これまでのクラブの歩みに関わってくださった皆さまと一つひとつ積み重ねて、初めてのJ1昇格を達成することができました。
J1、そしてその先も、ともに歴史を積み重ねていきましょう。
泣いて、笑って、最高の夜にしてください!#ファジアーノ岡山全員で勝った pic.twitter.com/kR49EhSHbL
待ち望んだ瞬間✨️
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) December 7, 2024
ファジアーノ岡山
2024.12.7 J1昇格決定!@fagiano_koho#Jリーグhttps://t.co/PK0sR3WgwK pic.twitter.com/jG8lTIFal3
2025シーズンはチームにとっても、クラブにとっても、ファン・サポーターの人たちにとっても、そして岡山県全体にとっても初めてのJ1リーグ挑戦となります。そんなシーズンをファジアーノ岡山がどう戦っていくのか、少し簡単に展望してみたいと思います。
2025シーズンの新体制発表会の動画は下に載せておきます。前社長(現会長)の北川氏もそうでしたが、現社長である森井氏も本当にスピーチが上手いですよね。あと、木山監督が山田強化部長のフォローをするシーンが個人的には面白かったです。
2025シーズンの編成について
まずは2024シーズンオフ~2025シーズンインまでの選手の in/out について見ていく。具体的には下に載せる記事を参照していただきたい。
10人の選手の in と12人の選手の out という、数字で見るとやや大きめな選手の入れ替えのように感じる。しかし12人の選手の out の内実に関しては、若手選手のローン移籍による武者修行や昨季あまり存在感を出し切れなかった選手の新天地挑戦としてのものがほとんどで、昨季の主要メンバーの大半、つまり昇格したチームのベースはほぼ残すことに成功しており、その上でそこにピンポイントで補強を行うことができた。その結果、各ポジションで2枚以上の選択肢を考えることができる、全体の選手層を厚くする狙いを持ったストーブリーグでの編成を行うことができたと言えるだろう。2種登録の選手を含めて34人でのスタートは一般的にはやや多めに感じる(特にアタッカー陣)。ただ、運動量やフィジカル強度の消耗度が大きい今のチームの戦い方(具体的には後述)だったり、一部選手のプレータイムの制限の必要性だったりを考えると、個人的にはこれくらいの人数でちょうどいいのかなと思わないでもない。
昇格した2024シーズンのチームの大半(+α)で初めてのJ1リーグを戦うことができるというのは、チームにとってもベースの維持⇒積み上げというチームビルディングの面で非常に大きいし、ファン・サポーターにとってもチームに対する感情移入がしやすい(⇒チーム、そしてクラブ全体との連帯感を作りやすい)という点で非常に大きい。初めてのJ1リーグを戦うという意味合いで言うと、個人的には「J1リーグを戦うチームに相応しい格を持った大駒」となるような補強をどれだけ行うことができるかどうか、と思っていたが、その点に関しても江坂や立田といった補強を行っている(⇒そういう選手をもう一人くらいは獲得したかったところではある)。そういう意味で今オフのストーブリーグは、「ファジアーノ岡山の規模・格・資金力の中でできる限りの盤石の体制」を整えることができたストーブリーグであったと言えるのではないだろうか。
2025シーズンの戦い方について
新生ファジの戦い方が見えた👀
— VIVA!!ファジ (@VIVAfagi) January 27, 2025
宮崎キャンプTMで鹿島を撃破🔥https://t.co/lq212YEnp2#ファジアーノ岡山 #挑戦の1年 #鹿島アントラーズ #江坂任 #ルカ王 #木村太哉 #佐藤龍之介 #末吉塁 pic.twitter.com/gvGoZ7u31A
見えた!J1仕様の攻撃のカタチ👀https://t.co/zEVZsINb47
— VIVA!!ファジ (@VIVAfagi) February 3, 2025
上に載せた記事から見ても、今季の基本フォーメーションは昨季同様に3-4-3(3-4-2-1)からスタートしていくことと思われる。木山監督体制の初年度となる2022シーズンは4-3-3(⇒のちに4-2-3-1 → 3-5-2と変更)、2023シーズンは4-◇-2(⇒のちに3-5-2に変更)、そして昨年度の2024シーズンは3-4-3と、毎年常に基本フォーメーションを変えてシーズンをスタートさせていたが、今季は現体制では初めて昨季の形を踏襲してスタートしていくことになりそう。初めてのJ1リーグを戦うにおいては中盤を厚くする狙いを持った4バック(IH2枚+アンカー1枚の4-5-1)もアリなのかなとは思ったが、前述したように昨季のチームの骨格をほとんど残すことができた以上は2024シーズンの戦い方を踏襲し、そこから+αをブラッシュアップすることで2025シーズンの戦い方とする方が「初めてのステージで現状の自分達の最大値をぶつけやすい⇒ゲームの中での課題発見⇒日々のトレーニングでの修正⇒チームの積み上げ、のサイクルを回しやすい」という意味でも納得感は強い。
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では2025シーズンのファジアーノ岡山がどう戦っていくのか、2024シーズンの戦い方を振り返りつつ少し考察していきたいと思う。
ハイプレス⇒ショートカウンター or 高い位置でのボール回収
木山監督体制がスタートしてから常にチームの一丁目一番地として強調されてきたのが「前線からプレッシャーをかけていかに自分達が高い位置から守備を行えるかどうか」。この点において昨季のファジアーノ岡山はそれまでの2022・2023シーズンに比べてやり方が整理されており、非常に効果的であったと思う。恐らくこれに関しては今季もしっかりと踏襲されることだろう。
相手のビルドアップ(低い位置からの保持→前進ターム)において、岡山は3-4-3(3-4-2-1)の前線3枚が相手バックラインにプレッシャーをかけていくのだが、ここで重要になってくるのが3トップが ①相手のボールの動きを左右どちらかのサイドに誘導すること、②中央のエリアで相手バックラインから中盤(特にCH)にボールを通されないようにコースを消すこと。そのため、CF(昨季ではグレイソン・一美・ルカオ)はまずボールホルダーに寄せ過ぎずに相手の中盤(CHやアンカー)へのコースを消す立ち位置を取り、シャドー2枚(昨季では岩渕・木村・神谷・田中・早川 etc)が中央へのコースを消しながら相手のボールの動きをサイドに追い込むように二度追い三度追いを辞さないでボールホルダーにプレッシャーをかけていくのが基本的なプレッシャーの形となる。
このようにシャドーのプレッシャーをスイッチにして、①CFからボールサイドのワイド、CH、サイドCBが連動して押し上げることで相手ボールホルダーのプレーエリアを制限→ ②相手ホルダーにとってここに出すしかない状態を作ることでミスを誘う→ ③できるだけ高い位置でボールを回収→ ④そのままショートカウンターという形でシュートなり相手BOX内にボールを入れるなりして攻め切るのが第一に狙っている形。この形がハマりにハマったのが昨季のJ1昇格PO準決勝の山形戦の前半であった。
また、第一の狙いとなるショートカウンターに結び付けることができなくても、前述した形で3トップからプレッシャーをかけて中盤を経由して前進させたい相手の狙いを外し、ボールを縦に蹴らせてこちらのバックラインがボールを回収、そこから自分達のボール保持・敵陣での攻撃に繋げることができれば十分成功となる。
このようなハイプレスを基盤とした守備を成立させるには、①相手バックラインでの保持に対して3トップがハッキリとしたプレッシャーのスイッチを入れること、②3トップから全体のブロックをなるべく高い位置でコンパクトにすることが必要となる。3トップがハッキリとプレッシャーをかけに行けないと中盤以降の選手達もハッキリと押し上げることができずにコンパクトを維持するのが難しくなり、コンパクトを維持できないと相手にとってプレーできるスペースが多く生まれてしまい、バックライン→中盤を繋げられて中央のスペースを経由されて相手に広い展開を許してしまうことになる。昨季の試合で特に上手く行かなかった試合(H大分・A水戸・A甲府)は、こういった現象が顕著に見られた。
そしてハイプレスをかけに行く中で全体のブロックをなるべく高い位置で、コンパクトを維持するためにはボールサイドのワイドの背後にできるスペースをケアできるように、3バックが広いエリアを守る必要がある。この点において昨季の3バック(田上・柳育・鈴木・阿部 etc)は、相手の縦のボールに対する迎撃はもちろん、こちらのワイドやCHの背後のスペースへのケア、自分の背後のスペースのケア、相手FW陣との数的同数を受け入れるマッチアップといったタスクをしっかりとこなしていた。
今季もハイプレスのかけ方自体は昨季と大きく変えることはないと思う。そのため重要になってくるのは
①3トップからのハッキリとしたプレッシャーのスイッチがJ1リーグのスピードにどこまで適応できるか
②3トップからのプレッシャーのスイッチが入ったところで相手のボールの動きを誘導・制限した中で、そのエリアでボールを取り切るためのワイドや中盤、CBの押し上げ、二次・三次のプレッシャーをかけ切れるか
③3バックが広いエリアを守る形を維持できるか
という点になるだろう。
①と②ができなければハイプレスのやり方そのものが成立しなくなってしまうので相手のプレースピードやパススピードには何とかして適応してもらう必要があるし、この部分はそれなりにできるのではないかとも思っている。個人的に一番懸念があるのが③の部分。「3トップがプレッシャーのスイッチを入れてボールサイドを誘導する」ハイプレスの形そのものはできているのに、相手に一気に大きい展開をされたところで3バックが広いエリアを守り切れなくなる現象が起きないかどうか、というところである。3バックのところでボールを回収しきれずとも、少なくとも全体の帰陣が間に合うように時間を遅らせるような守り方ができる必要はある。
ブロック守備の精度・行く行かないのタイミング
当然ハイプレスだけでは前述したようなリスクがかかるだけでなく3トップ、3バックの上下動を中心に全体にかかる体力的な強度や負荷が強くかかってしまう。J2リーグでも平均的なボール保持率が低い戦い方をしてきたので、J1リーグを戦うにあたっては尚更相手にボールを保持されている時の基本的な挙動となるブロック守備の精度をどこまで高めていくことができるかが重要になってくる。
3トップの高さをミドルゾーンに設定するミドルブロックは、両ワイドの高さを最終ラインに下ろす5-2-3が基本的な形になると思われる。昨季もそうだったように、まずは3トップ+2CH(昨季では藤田・田部井・竹内・輪笠 etc)が中央のエリアを閉じるように(⇒中央のエリアで自分達のCH-最終ライン間のスペースにパスを通されないように)構える。ハイプレスの時もそうだが、中央のエリアのコースを閉じること、サイドにボールを誘導することが基本的な挙動・狙いとなる。
自分達が中央を閉じて相手のボールの動きをサイドに誘導できれば、そこからは基本的にボールサイドのワイド(昨季では末吉・柳貴・本山・嵯峨 etc)が相手のボールホルダーとのマッチアップとなるので、ここで簡単にボールを前に運ばれないようにすることでこちらの3トップやCHがボールサイドへのプレスバックや横スライドでボールホルダーをサンドイッチするための時間を作り、サイドエリアでボールを取り切る or 相手にバックパスをさせることができれば理想である。ここが上手く行かなければ(=プレスバックやスライドが間に合わない)、中央のスペースを閉じつつ全体を下げて5-4-1のローブロックで自陣で我慢する守備に移行する形となる。
このように中央への縦パスとサイドへの展開からの前進を上手く防ぎ、相手のボールの動きを横(=バックラインでのパス交換) or バックパス(=サイドに出したが戻すしかない状態)に制限することができれば、そこから全体を押し上げることで相手陣内でのハイプレスの形に持っていくことができる。昨季、ミドルブロックからの守備が最も上手く機能したと思うのがA横浜FC戦。フォーメーションがマッチアップしやすいのもあって、ミドルブロックを設定してからのサイドへの誘導、そこからのサイドエリアやミドルゾーンでの挟撃、相手のバックパスをスイッチにしての押し上げ→ハイプレスからのボール回収で主導権を握ることができた試合であった。
ミドルブロックでの守備で重要になってくるのが、ハイプレスの時と同様に全体のブロックを前線~バックラインまでコンパクトに維持すること。サイドへの誘導→挟撃やハイプレスへの押し上げの際にも重要であるが、コンパクトを維持できていないとそもそも中央のスペースを閉じることができなくなってしまい、自分達にとってより危険なエリアでのプレーを許してしまうことになってしまう。J1リーグでプレーするとなると、自分達にとって危険なエリアでのプレーを簡単に許してしまうとJ2リーグの時よりも失点に直結するので、ブロック全体のコンパクトを維持するためにも「挟撃や押し上げに行く・行かないのタイミング」にはよりシビアな判断が求められるようになると思う。
昨季もミドルブロック→ハイプレスへの移行の流れで押し上げが間に合わなかったり、ミドルブロックで構えている時にコンパクトを維持できなかったりしたところで、5-2-3ブロックの泣き所となる2CHの周辺のスペースに早いタイミングで縦パスを展開されてそこから相手に一気にスピードアップされるシーンは見られていた。5-2-3でのミドルブロックだけでなく、3トップの1枚を中盤に下ろす5-3-2ブロックだったり、ボールサイドのワイドを中盤に上げる4-4-2ブロックだったり、ミドルゾーンの中央に多く受け手を配置するようなやり方といった相手のやり方に応じては、行く・行かないの判断だけでなくミドルブロックの敷き方そのものを変化させていくこともよりシビアに求められるのではないかと思う。
そしてミドルブロック~ローブロックの守備で最も重要になってくるのが
①(特にボールサイドにおける)スペースができたところでのスライドを怠らないこと
②自分のエリアに入ってきたボールホルダーとの球際勝負で簡単に負けない強度を持つこと
この2点になってくると思う。いくらコンパクトを維持できても、形だけのコンパクトではかえって相手にとってプレーできるスペースを与えることに繋がってしまう。昨季のリーグ戦29失点(リーグ2位)、クリーンシート数20(リーグ最多)は決して自陣深くにベタ引きしたからでもないしGKのブローダーセンにおんぶにだっこだった訳でもない(もちろんブローダーセンのハイレベルなセービングがあってこそ)。ミドルブロックでもローブロックでも相手のボールに対してなるべく高い位置でコンパクトに、強度高くプレッシャーをかけて、それでいてファールを少なくしてプレーできていたからこそである。
自陣で回収したボールの運び方
前述したように自陣寄りのミドルゾーンから自陣でブロックを敷いて守る時間が長くなることが想定される2025シーズンのファジアーノ岡山であるが、だからこそ個人的に最も重要になってくるのが「自陣でボールを回収したところでいかに相手陣内にボールを運んで全体を前進させて、ハイプレスをかける形を作りやすくすることができるかどうか」だと思われる。
昨季は自陣にボールがある時は
①サイドCBを起点にワイドにボールを展開してそこからワイドが縦に運んでいく or サイドに流れた3トップと連動して縦に抜けていく形
②サイドCBを中心にしたバックラインから3トップにダイレクトにボールを展開してそこで3トップが収めてボールサイドのワイドやCHと繋がってサイドから運んでいく形
この2つがメインの形となっていた。いずれにしても自陣でボールを保持する時間を長くせずに中盤から展開するというよりもバックラインから割とシンプルに縦にボールを展開するような形がメイン。そしてバックラインからシンプルに縦に展開するからこそ間延びしやすいので、中央を使うというよりはサイドエリアに展開する形が多かった(⇒間延びしやすいので中央でボールロストするとカウンターを受けやすくなってしまう)。そのため3トップにはサイドに流れてもプレーできるような機動力と相手の寄せに対してある程度個人で収められるスキル or 馬力が求められた。
しかしJ1リーグでプレーする2025シーズンは、①の形を出すのがそこまで簡単ではないだろうし、そうなると自陣からシンプルに縦に展開したボールを3トップの選手が何とか個人で踏ん張る②の形ばかりになってしまう。J1のバックラインの強度を考えるとそればかりではフィジカル的にも体力的にもジリ貧になってしまうのは目に見えている。話題となった宮崎キャンプでのルカオ無双は相手に対する脅しとしては十分に使えるが、プレシーズンと公式戦とはまた別物であると考えるべきだと思う。
きょうは鹿島とのトレーニングマッチを取材しました!
— KSBファジクロ (@ksbFAGICRO) January 25, 2025
4点目は ルカオ 選手の突破からのクロスに 木村太哉選手が合わせての 見事な連携でした!
27日(月)のNews Park KSBでもこの試合の模様をお伝えします!ぜひご覧ください! pic.twitter.com/Fg5UYSWA9Y
そこで求められるのが「自陣で保持する時間を作ってから縦に展開する形を作ることができるかどうか」であると思う。「バックラインから縦に展開するエリアをどれだけ相手陣内寄りにできるかどうか」と言い換えても良いと思う。昨季ならバックラインの選手がフリーになれば(≒相手守備の1stラインの周辺スペース)自陣深くでも前線と目を合わせてボールを縦に展開していた形が多かったが、そこで一度バックライン-CH or ワイド間でのパス交換や持ち運びで繋ぎの時間を取って全体を押し上げて、なるべく相手の1stラインを突破した中盤の周辺スペースでボールを縦に展開する形を作れるようにしたいところである。昨季も時間や試合状況の余裕がある時には3バック、特にサイドCBからボールを自ら持ち運んで相手の1stラインを突破する形が見られていたが、J1リーグにステージが上がるからこそそういうシーンも昨季以上に増やしていきたい。
これができれば、バックラインから3トップに展開する距離が近い分、展開するボールがよりアバウトではない形になるので3トップのフィジカルや体力の消耗度を減らすことに繋がる。また全体を押し上げる分、3トップに対してボールサイドのワイドやCHが繋がりやすくなることで、ボールロストの回数を減らして守備一辺倒の時間そのものを減らすことができるようになる。
3トップがボールを収めやすい形を作れるようになれば、前述したようにボールサイドでワイドやCHが3トップと繋がりやすくなるので、全体を押し上げた状態で相手陣内深くにボールを運びやすくもなる。全体を押し上げることができていればたとえボールを失ったとしても、そこからカウンタープレスやハイプレスに繋げる形を出すこともできるようになる。この流れを作ることができるようになれば、J1リーグの舞台であったとしても木山監督の言うところの「できるだけ相手コートでプレーする」というものが表現できるようになるだろう。
セットプレーを増やすための敵陣深くでの工夫
相手コートでプレーする状態を作ることができたならば、そこからはいかにして相手BOX内にボールを供給する形を作ることができるかどうか。昨季はワイドを起点に、ワイド - 3トップの一角 - CH - サイドCBの4枚でサイドエリアを攻略してニアゾーンに侵入してのシュートや折り返しのクロスを狙っていくのが基本的な形となっていた。2024シーズンの後半には、ニアゾーンへの侵入を見せておいてのペナ角起点のアーリークロスや中央を経由しての打開 or 逆サイドへの展開からの折り返しという形も作ることができるようになっていた。
今季の相手コートでのプレーの形は昨季と大きくは変わらないだろう。サイドにボールがある状態をスタートにワイドを起点に3枚~4枚で連動してニアゾーンを取る形をメインにしつつ、そこからいかにして派生形を作ることができるかどうか。その点でやはり期待したいのが今季の補強の目玉でもある江坂である。サイド→中央に入った時に今までだったらワンツーの打開や逆サイドへの展開であったところで、江坂が繰り出すブロックを突破するようなパスやアイデアがチームに浸透すれば全体のクオリティも引きあがるだろう。また昨季は敵陣で押し込んだ形からシンプルなクロスが少なく、その分相手のブロックに防がれるシーンも多かったので、今季はワイドからシンプルにクロスを入れる形を増やすことになるかもしれない。
相手コートでのプレーにおいて、今季特に重要になってくるのが
①カウンターを受けないように攻めること
②CKなどのセットプレーを増やすように攻めること
の2点になってくると思う。①に関しては相手のブロックが敷かれたところで無理に中央にボールを入れたりブロックの前でシュートを打ったりすることでボールが引っ掛かり、それが相手に渡ってカウンターを受けるというシーンが昨季も散見されていた。昨季はその形から失点するシーンはそこまで多くはなかったものの、J1リーグにステージが上がる今季はそういうシーンが増えれば失点するリスクは一気に跳ね上がってしまう。ただこのチームのやり方を考えるとボールが引っ掛かるのはある程度許容する必要がある(⇒それを嫌い過ぎると攻めの形自体が少なくなってしまう)。そのため、ボールが引っ掛かるとしてもそこからの5秒ルールでカウンタープレスをかけに行くことができるように、相手コートで押し込んでいる時の全体のポジショニング、BOX内へのボール・選手の入り方を設計したいところである。
【宮崎キャンプ11日目】「5秒」でボール奪回 守備戦術を徹底:FAGIGATE|ファジゲート https://t.co/gYuA8yBKCp
— FAGIGATE / ファジゲート (@FAGIGATE_web) January 29, 2025
そして②に関しては、今季のファジアーノ岡山の総得点に関わってくるであろう極めて重要なポイントとなる。昨季も特にシーズン後半にかけて、CKを中心としたセットプレーの総数を増やすことで、そのセットプレーを効果的に得点につなげることができていた。J2リーグでもオープンプレーでの得点力がそこまで芳しいものではなかったチームが、ステージが上がるJ1リーグでそこが一気に向上するかと言われれば非常に厳しいところがある。相手コートでのセットプレーを増やすためにも、相手BOX内にボール・選手をどのように入れていくか、相手のブロックが正面で対応できる形ではなく、なるべくブロックの目線を振るような動きや鋭いボールを入れたりシュートを打ったりすることでCKを獲得できるような攻めの形を増やしていきたいところ。①と②は相反する部分があるかもしれないが、そこのバランスを上手く調整したい。
岡山・木山隆之監督「より研ぎ澄ます」セットプレーを入念確認― スポニチ Sponichi Annex サッカー https://t.co/AZdwsHxWFP
— スポニチ・サッカー取材班 (@sponichisoccer) January 29, 2025
最後に
初めてのJ1リーグを戦うにあたって、正直なところ相当厳しい戦いが予想されるでしょう。これまでJ2リーグから昇格したチームで翌シーズンもJ1リーグでプレーすることができたのは最低でも4位以上のチームであり、J2が20チームになってからの初昇格のチームは昨季のFC町田ゼルビア以外、全て1年でのJ2降格を余儀なくされています。
ただ、昇格PO制度が出来上がってからJ2で5位のチームは2024シーズンのファジアーノ岡山より以前は全て昇格POを勝ち抜いてJ1に昇格することができていませんでした。つまりファジアーノ岡山は5位でJ1昇格した歴史上初めてのチームなのです。そして今季のファジアーノ岡山の編成を見ると、半数以上の選手がJ1を経験したことがありません。それは経験不足とも取れますが(というよりJ1リーグの経験不足と取るべきなのでしょう)、言い換えれば「全てにおいて予想できない、未知数のチーム」ということもできます。なので、過去の統計はあまり役に立ちません。というよりそんなもの糞食らえなのです。
J1リーグという初めての舞台で戦う今季、何もかもが初めての経験となる中で相手を必要以上に大きくすることも必要以上に小さくすることも、それはチーム、クラブ、ファン・サポーター、岡山県全体が経験値として積み上げていく上で不純なものでしかないと思います。この大舞台で得られる経験値は、純粋に積み上げていくことができればどう転んだとしても間違いなく大きなプラスにしかならないのですから、2025シーズンに起こる全ての出来事を純粋に楽しんでいきたいところです。
ただ忘れたくないのは、楽しむと言ってもそれは「J1リーグの1年間の観光旅行」としての楽しみではなく、「日本サッカーにおける最高峰の舞台での勝った負けたのヒリヒリ感」としての楽しみということです。2025シーズン、J1リーグを正しく楽しんで、その結果として「J1定着への礎」「新スタジアム」に繋げていけるようにしていきましょう。