【事実発掘!FACT JAPAN 47 NO.6】石川県金沢市
ヤッホー!FACTのコピーライター/CMプランナーの澤邊です。
突然ですが、「はじめてウニを食べたあなたはヘンタイです。」
おそらくこれは2014年の新聞広告クリエーティブコンテストに応募された阿部広太郎さんのコピーなのですが、僕は大好きです。いやぁ、しみじみ、本当そうですよね。あんな黒くてトゲトゲの地球外生命体のような生き物をパックリ割ったら出てくる茶色い異形の軟体物質・・・それが美味しいと知らなければ、普通は口にいれてみようとは思いません。
でも、初めて海に飛び込むペンギンのような誰かのチャレンジ精神のおかげで、こうして今日私たちはウニを美味しく食べられている。成長過程で変態するウニに対する、人類きっての異能な才覚を持ったヘンタイによる大いなる挑戦。コピーも、そのチャレンジ精神も、とても素晴らしいですよね。
ヘンタイって良いなぁ。
いきなり何の話かと驚かれたかもしれません。最近ランチでウニを使ったパスタを食べまして、「あーまた新鮮なおいしいウニが食いてーなー」と思いを馳せたところからこのコピーを思い出し、そこから僕の人生においてめちゃくちゃ美味しいウニの食体験をした場所について書こうとふと思いつきました。
今日は、【石川県金沢市】の隠れた事実について、書かせていただきます。
僕が石川県金沢市を訪れたのは、2016年のこと。東京から新幹線「かがやき」に乗れば、2.5時間で着いてしまいます。降り立った時の駅の建築物や醸し出す雰囲気からすでに、アートで名を馳せる金沢らしい素敵な景観が広がります。
新鮮な海の幸が集まる魚市場、歴史を感じる美しい街並み、現代美術の奥深さを存分に味わえる美術館・・・その魅力は挙げるとキリがないのですが、今日僕が書きたいのは、「ヤッホー!茶漬け」についてです。「え、ウニの話じゃないんだ?!」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、はい、ウニについてはそもそもあまり詳しくないですし、調べようとするとグロい画像ばかりが検索でヒットするのでもうやめます。
そもそも、「ヤッホー!茶漬け」とは何なのか。TVでも取り上げられたことがあり、ネットでもそのレビューが細かにまとめられているくらい有名なのでご存知の方も多いかもしれませんが、金沢には、夜22:30〜深夜2:00までの間だけ開店するお茶漬け屋さんがあるのです。「志な野」という名のお店です。正確には「あった」というのが正しく、昨年の2020年10月24日、惜しむらくは閉店されているとのことでした。このお店が有名な理由はお茶漬けの美味しさだけではなく、店内の会話がほぼ「ヤッホー!」だけでなされることにあります。
ここで、「ちょっと何言っているか分かりません」となった方も多いかと思いますが、自分も訪れるまではそうでした。「何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたか分からなかった・・・」状態です。しかし、これは紛れもなく事実(FACT)なのであります。当時、金沢でコピーライターとして活躍されていた西垣強司くんに教えてもらい、一緒にお店を訪れました。
このお店、地元でも有名店で、僕が訪れた際にも入口には行列ができていました。「これから一体どんな体験が待っているのだろう?」と期待に胸を躍らせながら入店しカウンターの席に座ると、おそらくお茶漬けに人生を捧げて来たであろうオヤジさんから、先制の「ヤッホー!」がお出迎え。
事前に得ていた情報のおかげもあり、この挨拶代わりの「ヤッホー!」をしっかりと受け止め、壁にかけられたお茶漬けのメニューを確認し、「さて、何を頼もうかな・・・」と考えていた矢先。突然、目の前にがっつりと具が盛り付けられたお皿が出て来ました。お通しにしても、この量は多すぎる。
何が起こっているのか全く分からず、「これは何ですか?」とオヤジさんに尋ねると、すぐさま「ヤッホー!」のカウンターが飛んできました。そう、このお店では基本的に全てのコミュニケーションが「ヤッホー!」でなされるのです。空手家で「押忍!」だけでコミュニケーションが完結されることで有名な方がいますが、感覚はそれに近いものがあります。
後から分かったことなのですが、基本的に入店して数秒以内に注文をしないと、自動的に「志な野茶漬け」が出てくるシステムなのです。そして、それに関する疑問・質問・困惑、すべては「ヤッホー!」で一発解消。デジタルトランスフォーメーション(通称DX)ならぬヤッホートランスフォーメーション(通称YX)ともいうべき実に画期的なシステムです。
ちなみに「ヤッホー!」の由来について調べてみると、ヨーデルで人に呼びかける時の音の表現で「ホーイ、ホーッ」から由来すると言われているとのこと。また、神様の名前『ヤハウェ!』からきているという話もあるようで、由来については諸説あるそうです。
しかし、なぜこの金沢のお茶漬け専門店で「ヤッホー!」だけですべてのコミュニケーションが完結されているのか?それは誰にも分かりません。あるのは眼前に並べられた美味しそうなお茶漬けと、「ヤッホー!」のみでやりとりされるという、その事実だけです。
また、このお店には、「いくらでもおかわりして良い」という素晴らしいシステムも存在しています(ちなみに7杯以上食べると、壁に自分のサインを飾れます)。美味しくお茶漬けを完食したその時にオヤジさんにかける声はもちろん「ヤッホー!」。目こそ合わせぬものの「ヤッホー!」の声で応え、お茶漬けを出してくれるオヤジさん。奇妙な連帯感が、お茶漬けの味と同じくらい病みつきになります。
ただ、記念に写真を撮っておこうとお茶漬けにスマホを向けたその瞬間、オヤジさんから発せられたのは「食べてぇぇぇぇぇー!!!」の叫びでした。そこは、「ヤッホー!」ではないのです。大変無粋な行為をしてしまったと反省し、「す、すいません!」と言って焦ってすぐにやめました。(写真がブレているのは、そのためです。)そんな大変失礼な行為をしてしまった僕に対してその後も変わらず「ヤッホー」と返してくれたオヤジさんの粋な計らいを、僕はきっと、この先も忘れることはありません。その美味しさと思い出は、やまびこのように僕の心の中でこだまし続けています。
ということで、他のメンバーの記事と比べるとかなり俗っぽい食レポみたいになってしまいましたが、「『ヤッホー!』とともに40年にもわたって最高に美味しいお茶漬けを出し続けてきた名店が、多くの人に愛されながらもその歴史を下ろしていた」という隠れた事実を今日はご紹介しました。
次回は、FACTの新進気鋭のデザイナー、中村心からお届けします。お楽しみに!
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