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「売れ続けるCX-5」という、マツダのゴルディアスの結び目

 過去に何度か書いたことがあるが、マツダは今、あまり聞いたことのない種類の苦境に立っている。それはCX-5の売れ過ぎ問題である。(冒頭写真はこの11月にCX-5に追加された「20S Black Selection」 写真:マツダ 以下同)

 普通に考えれば「売れていて何の問題があるの?」と思うところだが、CX-5の場合はちょっと困ったことになっている。


 初代CX-5は2012年にデビューした。マツダがクルマまるまる1台をSKYACTIV化(※)した車両の第1号であり、フルラインSKYACTIVとなった第6世代マツダ車のトップバッターである。

2012年デビュー時のCX-5、色はマツダを象徴するソウルレッドメタリック

※SKYACTIV:スカイアクティブは、一括企画と混流生産を前提に成立するコモンアーキテクチャーである。エンジン、シャシー、ミッション、デザインなど車両を構成するすべての設計に共通の基礎モデルを採用。完全に固定して高い性能を担う部分と、車種ごとに自由に変動して個性を発揮する部分を組み合わせて、車両群を一括設計する手法に対するマツダの呼称。それぞれの要素を取り入れたクルマは当時すでに登場していたが、全て「SKYACTIV」化されたのはCX-5が初めてだった

快進撃を続け「6.5世代」にバトンタッチ

 CX-5は戦略的な価格と、トルキーな直4 2.2ターボディーゼルを備え、国内のSUV黎明期に登場。今なお続くSUV人気の火付け役となった。大ヒットを飛ばしたCX-5は、第6世代の中で、唯一同世代モデルチェンジを敢行。2017年にマツダ自身が「6.5世代」と説明した「同世代新型車」という、ややこしい2代目にバトンを渡した。

 今になってみると、第6世代と第7世代の違いは、シャシーとサスの考え方である。

 第6世代ではダイアゴナルロールを軸として、外側前輪に荷重を乗せることで曲げるスポーティーさが理念だった。技術というものは大抵がトレードオフになっているので、外側前輪に荷重が乗せやすいということはすなわち、内側後輪から荷重が抜けやすいということでもある(6.5世代はどうかといえば、乗った感触は完全に第6世代のものだった)。

 この2代目CX-5の試乗会のことはよく覚えている。最初に旧型に乗せられて、「いやこれはこれで十分いいクルマだよ。これをどう改善するつもりなのか」と思ったあと、乗り換えた新型は、本当にモデルチェンジするだけの価値を加えられていた。

2017年発売の、2代目(6.5世代)CX-5。キープコンセプトで中身をしっかり充実させた

 一番大きなメリットは直進安定性の確かさだった。といっても、別に初代がそこに弱みがあったわけではないし、不満なんて感じたことがなかった。にも関わらず、乗って最初に「あ、レベルが上がった」と思った。走り出してすぐ思わず笑ってしまった。なんだこれ? 古き良き時代のベンツみたいじゃないか。

 試乗会は箱根の山道で、旋回中のクリッピングポイントあたりに窪みのうねりがあるコーナーがあり、旧型はそこでリヤタイヤが鳴いた。横力が大きくかかったところで路面が窪んで抜重されるのだからまあ当然と言えば当然なのだが、新型はそこを何もなかったようにスルリと曲がる。タイヤも鳴かなければ進路も乱されない。足の伸びがスムーズになったということだろう。

走りが一段と磨かれた二代目(写真は北米仕様車)

 ということで元々良かったクルマがさらに良くなった。多分近年の中で、マツダの未来を最も薔薇色に感じたのはあの時だったと思う。「第7世代で全部がこうなっていくとしたら、マツダの未来はスゴいことになる」。筆者はそう感じた。

第7世代の足回りへ辛めの世評

 そして第7世代のスモールが登場する。マツダ3と、そのSUV版のCX-30である。

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