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FACEができるまで【後編:サイト公開・社外の反応】
富士通のデザイナーサイトとして設立された「FACE」。
設立時のメンバーである平田 昌大さんに、FACEへの想い・きっかけ、企業とデザイナーのあり方として感じていることをインタビュー形式でお聞きしました。
前編では、「FACEができるまで|デザイナーが働く環境に対する想い」をご紹介しました。後編では、サイトのこだわりのポイント、公開後の周囲の反応/効果に関してお話を伺います。
- インタビュイー:平田 昌大
- インタビュアー:小田 彩花
- 撮影:鈴木 祐太郎
【FACEのこだわり】
❶「個」を第一にしたサイト設計
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(小田)FACESITEの中でもFACEの想いを特に表現している、こだわりを持っているポイントというのはありますか?
(平田)ひとつは「主語が個である点」です。
多くの場合、会社の案件やプロジェクトがまずあって、それに紐づく形で人が出てくるという意味ではあくまで「会社が主語」だと思うんですね。FACEはある意味逆で、人がまず先にいて、その次にプロジェクトや作品、想いが紐づくという完全なポートフォリオ型として、個人が語られている点はユニークだと思っています。
各ページのライティングも最低限のチェック体制は設けていますが、基本は各自が自由に編集できるようにしています。
❷複雑多様な自分を表現する
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(平田)もう一つは、「肩書を明記しない点」ですね。
「デザイン」が拡張している中で「○○デザイナー」のような既存の肩書で自分を伝えられないじゃないですか。特に富士通の場合は一人当たりが関わる幅がすごく広い。一人のデザイナーがUI・プロダクト・空間を受け持つ場合もありますよね。
なので、肩書というものはなくして、自分に関する要素を複数のタグにして表現することにしました。自分の中の多様性も含めて、個であるという点を尊重したいと思いました。
また、ポートフォリオ型にすることで、在る言葉に頼ることなく、自分がやってきたこと作ってきたもので自分を証明することができるのもポイントだと考えています。
❸プライベートの案件も掲載
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(平田)最後は、「富士通以外の個人の仕事/作品も載せている点」です。
個の魅力を可視化する・促進することがFACEの一つの目的ですが、
仕事とプライベートは合わせてその人の魅力だと思うんですね。
富士通は副業を容認していて、ユニークな活動をされている方がたくさんいます。ただ、これまでの前提として副業は容認するけど会社とは関係ないとこでやってくれ。というのが基本であったと思いますが、副業でやってることも含めてその人の面白さ・魅力として、すべて掲載可能にしている点が大きなポイントかなと思います。(一番社内交渉でもめた点ですが苦笑)
【DesignShipへの出展・周囲の反応】
(小田)社外に発信していったときの反響・リアクションとかはどうでしたか?
(平田)FACEが公開された2019年の11月の末、DesignShipというイベントにFACEとして出展しました。コンテンツがまだ少なかったので自分たちがやろうとしていることが伝わるか不安でしたし、スタートアップのような若いデザイン会社も多く出ているイベントだったので、FACEのような取り組みは「当たり前」だと言われると思いました。
ただ、実際出てみると沢山の方からポジティブな声をもらいました。
「この仕組み本当にいいですね、うちにも欲しい」「富士通デザインのイメージが変わりました」といった共感と激励の言葉がすごく自信になったというか勇気をもらいました。
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【これからの企業とデザイナーに求めること】
(小田)サイトの中に「個人と企業がともに成長できる」という言葉がありますが、企業とデザイナーの関係性として思うことはありますか?
(平田)これまでの大量生産/消費時代の会社が求めていたことは、同じものを安定的に作ることだったと思います。その場合、同じでないもの、要は多様な個性というものがある意味リスクの時代。できるだけ「均一であるべき」という価値観の中では、個が埋没し、大企業病と言われるような若手の離職、モチベーションの低下などのいろんな弊害を招いていたと思います。
ただ、価格やスペック、機能で差別化できない現代における価値は何かと常に問われています。その問いに向き合うと、会社の一番の資産は「人」に行き着くと思うんですよね。
個が活躍しやすい現代において、会社にいる意味も過去のそれとは異なるものになってきています。そういった時代において会社側は、その多様な個をむしろ可視化・促進して、それをちゃんと会社の利益・成長に繋げていくという循環がすごく大事なんじゃないかなと考えています。また、反対に個もその会社にいる理由や意義を伝えていく必要があると感じています。
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(小田)今後のFACEの未来として目指すビジョンはありますか?
(平田)個人的な理想として思うことは、こういった取り組みが他社や他業種で広まっていったらいいなと思っています。まだまだ個の力は弱いですし、デザイナーの地位・理解度という課題についても富士通というひとつの会社だけでできるとは到底思えない。だからこそ、今回の取り組みをきかっけに広げていく必要があると思っています。
よく日本企業を表現する際にFOMO(Fear of Missing Outの略)という言葉が出てきます。置いていかれることが怖い、他社と違うことをやってるのが怖い。という意味ですが、逆に、前例があることに対しては非常にアグレッシブという側面があると思っています。なので、今回のFACEみたいな取り組みもその踏み台にしてもらって、「富士通ができたなら自分たちもできる」として、どんどん広がっていったらいいなと思っています。
【What's your FACE】
(小田)最後に、平田さんの大切にしていること・想いはなんですか?
(平田)僕はフィロソフィーの部分に、文化と経済の橋渡しになりたいと書きました。「文化」とは、その国・地域・組織の人々がこれまで連綿と過去から紡いできたアイデンティティですよね。ただそれは、普通に仕事をしていると、「企業/経済の成長」が優先される中で、いつの間にか置き去りになることが多いように感じます。
自分はそういったことに寄り添って、経済活動に繋いでいくことができる人になりたいと思っています。
平田 昌大 Masahiro Hirata
長野県上田市出身。法政大学大学院デザイン工学研究科卒業後、 富士通デザイン入社。流通・産業の顧客向けのUI/UXデザイン、新規事業デザイン、サービスデザインに従事。現在はブランディング視点による組織デザインや製品デザインをチーフデザイナーとして牽引する。
■主な受賞歴
・LG DESIGN AWARD 2011 (JAPAN) / シルバー受賞(2011)
・BASF DESIGN AWARD (GERMANY) / 準グランプリ (2011)
・KOKUYO DESIGN AWARD(JAPAN) /審査員特別賞(2013)
・iF DESIGN AWARD (GERMANY) / 受賞(2016)
・GOOD DESIGN AWARD (JAPAN) / 受賞(2016)
・GOOD DESIGN AWARD (JAPAN) / 受賞(2017)
・TOYAMA PRODUCT DESIGN COMPETITION / グランプリ (2017)
・LIXIL IoT Design AWARD(JAPAN) / グランプリ(2018)"