プルースト 失われた時を求めて 読了記念 7 言及・引用された音楽作品
「失われた時を求めて」の中に言及・引用等があった音楽作品についてまとめます。文学分野、美術分野に比べて 言及・引用されている音楽作品は少なく120程度で(重複を含む)、全14巻で以下のように分布しています。
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言及・引用された音楽作品の上位を占める作者(とその作品)は以下の通りです。
1.リヒャルト・ワグナー:「トリスタンとイゾルデ」「ニーベルングの指環」「パルジファル」等
2.ベートーベン:「弦楽四重奏」「月光」「交響曲3,5,9番」等
3.ドビュッシー:「ペレアスとメリザンド」「夜想曲」
4.ショパン:「ポロネーズ」「ノクターン」「前奏曲」
4.フォーレ:「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」「秘密」
4.モーツアルト:「クラリネット五重奏曲」「魔笛」「ピアノコンチェルト」等
7.ジュール・マスネ:「エロディアード」「マノン」「秋の想い」
7.ボロディン:「中央アジアの草原にて」「イーゴリ公」
7.リヒャルト・シュトラウス:「ヨセフ物語」「サロメ」
7.リムスキー・コルサコフ:「イーゴリ公」「シェラザード」
いくつか気が付いたこと・感じたこと。まず、リヒャルト・ワグナーの作品への言及・引用が全体の4割弱を占め、特に第7巻「ゲルマントのほう III」に集中しています。私は「ワグナーというのはドイツ精神の塊みたいな芸術家だろうから、フランス人の中でも優れて芸術家肌のプルーストはその音楽を好きではないだろう」と(勝手に)想像していたのでちょっと驚きました。
次に、ベートーベンの後期弦楽四重奏曲に対する深い敬意です。第3巻において、「天才の作品がただちに称賛されることが少ないのは、書いた人が非凡で、似たような人がほとんど存在しないからである。そこでその天才の作品自体が、その天分を理解できる稀有な種をまき、そうした精神を育て増やしてゆくほかない。ベートーベンの四重奏曲それ自体が、50年の歳月をかけてベートーベンの聴衆を生み出し、増やしてきたのであり、あらゆる傑作と同様、そのようにして芸術家たちの価値を進歩させたとまではいわないまでも少なくともそれを受容する聴衆を進歩させたのである。その聴衆は,傑作が世に出た時には存在しなかったけれど、今日では広くそれを理解できる人々から成り立っている。」と作者は述べていますが、ベートーベンが生きていてこの言葉を聞いたら、泣いて喜ぶのではないか?と思います。と同時に、プルーストはなんだか自分に言い聞かせているような印象も受けます。
最後に、私としては、バッハに関する引用(2個所、フーガとアリア)がちょっと少なすぎるのではないか?とは思いました。