見出し画像

ショートショートトーキョー 第5話『水の水揚げ』が公開!!+執筆後記

FANY Storyで連載しているショートショートトーキョー。
東京を舞台に、一話読み切りのショートショートを綴っています。

第1話『口(くち)』は品川
第2話『うびるとさびる』は新宿
第3話『レッツ・スクランブル』は渋谷
第4話『老婆の奇跡』は巣鴨
を舞台に綴ってきました。

ほんとたくさんの人に読んでいただいて嬉しいです!
ありがとうございます!引き続き、ブックマーク+感想もお待ちしています!


東京湾をクルージングする男女が目にしたのは……

第5話『水の水揚げ』の舞台は“東京湾”。
幼馴染みの男友達とクルージング中、主人公はクラゲを大量に網で獲っている漁師を目撃します。

しかしよく見ると、クラゲじゃない!
そこには有名河川が何本も注ぎ込む湾ならではの事情がありました↓↓

過去作はこちらから読めます。

執筆後記

※)本文を読んでから読むのをオススメします!

まさか東京湾を舞台に書くことになるとは、連載を始めた時には思いもしなかったです。
ショートショートトーキョーには掲載できない他の設定(東京である必然性がない)を思いついていて、まだ書けてないのですが、良い設定だな〜と思っていて、
似たようなの書けないかな〜と考え続けていたら、ポッと思いつきました。

いやーーーー良かった。
かなりお気に入りのお話になりました。

思いついてからは、調べることがけっこう多くて全然進まない日々でした。クルーザーのこと、東京湾のこと、網漁のこと、競りのことたくさん調べて勉強になりました。

アイデアだけでも書けたと思うけれど、やっぱり味気ないのでキャラクターを作り込んでいったら、長くなってしまい、泣く泣くカットした部分もあり。

公開してみます↓↓

入らなかった

「渚蔵、ちょっといい?」
 彼はそう言って、私の後ろからそっと私の目を両手で覆った。
「え?」
「いいから」
 目隠し……。彼氏にもされたことないのに。
 何が始まるかわからない甘い緊張感が漂う。
 数十秒すると轟音が響いてきた。音がこちらへ近づいてくると、長谷亀の手がゆっくりと離れた。視界が解放された瞬間、船ごと大きな影に覆われた。刹那、すぐ上を航空機が通過した。
 大迫力。飛行機でっか。飛行機のお腹なんて初めて見たかも。
 興奮と恐怖が入り混じり、心臓がドキドキと早鐘を打った。私の表情がこわばり、また緩んだのを見て長谷亀は笑った。
「羽田すぐそこだからさ。見せたかったんだよ。元気出るかなと思って」
「こんな至近距離で飛行機見たの初めてかも」
「いや乗る時、もっと近いっしょ」
「それはそうだけど。もう。こんなロマンチックなこと、彼女にしてあげなよ」
「この前したよ。腰抜かしてた」
 長谷亀はそう言って、操縦席に戻り、ゆっくりとクルーザーを動かし始めた。飛行機のエンジン音の残響がまだ耳で鳴っている。
 私には彼氏がいて、長谷亀には彼女がいる。
 二人でクルージングなんてお互いのパートナーが知ったら怒るかもしれない。少なくとも私の彼氏は怒る。幼馴染なので、なんとも思ってないんだけど。
「ねえ。あれ、何?」
 私が海に浮かんでいるヨットの帆の形をした建物を指差して叫ぶと、長谷亀はそちらの方角へクルーザーを旋回させた。しだいに建物が近づいてくると、長谷亀はエンジンを落として再びソファにやってきた。
「風の塔。この下にアクアラインが通ってるから、道路の換気してるんだよ」「へえ。この下、道路なんだ。じゃあ、あっちが有名な」
 私は左のほうに見える平べったい建物を指差した。
「海ほたる。あそこから向こう、千葉方面はアクアラインが海上に出てる」「へえ〜。なんでも知ってるね」
「調べたことあるだけだよ」
 長谷亀はタブレットを渡してくれたので、東京湾に浮かぶ施設や島にピンを差して、解説を読んで楽しんだ。その間、長谷亀は二つあるからとサングラスを貸してくれたり、これ使ってと汗拭きシートを用意してくれた。

 去年、脚本の賞を受賞した。IT企業の労務を辞めて、夢だった脚本家になった。テレビ局のお抱えだけど修行中の身で、給与は最低限しか保証されていない。常にセリフや物語の断片が頭にある状態。そのまま帰宅。家でも仕事をしていると、家事がおざなりになってしまい……カップルならよくある喧嘩だ。
 彼氏との衛生観念の差には驚いた。潔癖症とは聞いていたけれど、常に家をきれいに保たないと気が済まないらしい。たとえば洗濯。私は洗濯槽がいっぱいになったら洗濯するタイプだけれど、彼氏は二日分くらいで洗いたいらしい。おまけに普通の洗濯物、乾燥機にかけたくないおしゃれ着、タオル、白いものなど全部分けて洗いたいのだそうだ。おかげで夜は毎日洗濯機が回っている。仕事に追われている身で、そこまで徹底できるわけがない。
 掃除機も。私は床にゴミや埃を目視で確認できたらヤバいと判断してかけるタイプ。彼氏は一日一回はかけたいタイプ。
 ゴミも。私はゴミ箱に設置している大きなゴミ袋がいっぱいになったら捨てたいタイプ。彼氏は家の中にゴミを置いている時間をできるだけ少なくしたいようで、毎日捨てたいらしい。まあ、夏の生ゴミくらいは理解できるけれど、冬にプラスチックを早く捨てたい感情が全く理解できない。
 同棲を始めたときに「気がついた方がやろうね」なんて曖昧なルールにしたから、彼ばかりが家事をしていた。だって、私の中ではまだ汚れてないんだもの。
 彼ばっかりやってるな、と気がついたときには私もなるべく家のことをしていたけれど、やっぱり不満が溜まっていた。
 彼は溜め込むタイプだから、一度ダムが決壊するとどこまでも私を罵倒してくる。私も負けじと反論する。わざと相手が怒るようなことを言う時さえある。

③ 

『私が買ってきたアイスなのに、なんでいつも食べるの?』
『知らねーよ。冷凍庫にあったからだろ。嫌なら名前書いとけよ』
『信じられない。しかも雪見だいふくだよ。二個入りなんだから一つ残せるでしょ。ほんと一人っ子の悪いところ全部出てる』
『育ちは関係ねーだろ。わかったよ、買ってくりゃいいんだろバカ』

いいなと思ったら応援しよう!

ファビアン_ ✍🏻第一芸人文芸部
面白いもの書きます!