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CTOの哲学~"コントロールできることに焦点を当てる"

起きたことに、どう対処するか。

FabeeeのCTO、杉森由政さんは「自分がコントロールできることに焦点を当てる」と語ります。

家の事情で学校をやめたとき。
会社の業績が悪化したとき。

どう考え、どんな選択をしたのか。
経験で培った哲学を聞きました。

撮影場所:SPACES新宿

ー杉森さんは大学を2回変えています。

杉森:
最初の大学で経済を専攻しましたが、学びも生活もギャップを感じて1年で中退しました。その次は宇宙物理学。漫画の『宇宙兄弟』がきっかけです。主人公が宇宙に行くという夢を叶えにいくストーリー。僕も宇宙という、不思議でロマンチックなものが好きだったのを思い出しました。天体の動きなど、物理学が宇宙でどう作用しているのか、構造を学んでみたい、と。

厳しかったです。大量のレポートが出るし、必修科目を一つでも落としたら留年。でも知的好奇心が刺激されるテーマがたくさん。学生の熱意も高い。この分野で研究を続けられたら、と思い始めました。

3年生の時、公立高校を受験した弟が不合格になって、家族会議が開かれました。僕の大学の授業料と弟の私立高校の学費を両方出せる余裕はない。弟の高校と僕の大学とどちらを諦めるか。「高校に行く方が圧倒的に大事だから」と、僕が大学をやめました。

大学にいたらどうなっていただろうと、今も思うことがあります。でも研究職に就くには博士号が必要で、少なくともさらに5年かかる。奨学金を借りて頑張ったところで、なりたい仕事に就けるのか。社会に出てから、将来を考えるほうがいいのではないか。そう考えての選択でした。

コントロールできることとできないことがある

撮影場所:SPACES新宿

杉森:
話が飛びますが、「シュレーディンガーの猫」という思考実験があります。
すごく簡単に言うと、毒ガスが一定確率で吹き出す箱の中にいる猫を引き合いに「箱を開けるまで猫が死んだかどうかは確定しない」(観測するまで物事の状態は確定しない)という、量子力学の不可解さを指摘したものです。
これ、僕が物事を対処するときの考え方に通じるものがあると思っています。

ふたを開けない限り、実際の状態は分からない。ならば、未確定のことを条件だけで決めつけず、良い結果が出るかもしれないし、悪い結果が出るかもしれないという両方の可能性を考慮する。自分でコントロールできることとできないことがある。だからコントロールできないことを嘆いても意味はない。失敗の確率を下げるために、何かが起きたら自分がコントロールできることに焦点を当てるべきだ、と。

大学をやめると判断したことも、その後のことも、そうやって対処してきました。

泣きながら学んだプログラミング

撮影場所:SPACES新宿

ー3年生の2月に大学を退学、その2か月後にシステム会社に入社しました。

杉森:
どう食べていくか自分なりに考えました。衣食住のインフラ業種なら不況にも強そうだ。ただ、自分はそのどれにも関心が薄い。しかもひどい人見知り。知らない人とも毎日話さねばならない仕事は向いてなさそうだ……。
その頃、iPhoneがはやり始めていて、第4のインフラとしてインターネット産業の存在感が強まっていました。プログラミングなら人見知りの自分でもできそうだ。エンジニアを「未経験可」で募集している会社を受け、最初に内定が出たところに就職しました。会社の良し悪しなんて自分には判断できない。ならばそこに心を砕くより、チャンスをくれたところで学べるだけ学ぼう、と。

最初の研修で3か月間、プログラミングを学びました。ホテルの予約サイトを仕様書に沿って作り、工程が一つ進むたびに上司からフィードバックをもらって修正する。これをひたすら繰り返しました。

プログラミングで使うソフトは何かから学び、何が正解なのかも分からない。その日学んだことをメモに残し、家で再現する。そんな訓練を半年ほど続けましたが、最初の1ヶ月は1人で涙を流しながらやってました。

中退の中途入社で、泣き言を言える会社の同期や大学の友人もいません。自分で何とかするしかないと、相当追い詰められていたと思います。クビになることが、ただただ怖かった。

「モノづくりのリスペクトが強い会社」でプロダクト開発

撮影場所:SPACES新宿

ー就職2年目の2017年、勤務先が業績悪化する中、職場の先輩から転職を誘われます。

杉森:
「転職先で研究開発をさせてもらえることになった。お前も来ないか」と。それがFabeeeです。当時は企業のシステム受託開発が事業の柱でしたが、ディープラーニング技術などを使って、自社プロダクトの可能性を探るラボのような部署もありました。

僕も先輩と、プロダクトの開発や大学との共同研究を担当しました。佐々木淳CEOが僕たちに語る「こんなものを作りたい」というアイデアを、プロダクトの試作品に落とし込みました。「そうそう、こういうのが欲しかった」と言ってもらえるのが、すごくうれしかった。

佐々木さんはエンジニア出身でない分、アウトプットへの肯定感やエンジニアへのリスペクトは非常に強い。会社自体、そういう、物作りに対するリスペクトが強いところです。当時も今も。

探究するという僕の性分は研究職に向いていたと思います。一方で、費やされた時間と費用に見合った成果をきちんと出す、という責任感が強まりました。常に他にできることを探る癖が、この頃培われたと思います。

社員の動き次第で組織は良くもなるし悪くもなる

撮影場所:SPACES新宿

ー2018年、CTOに就きます。

杉森:
Fabeeeに転職してしばらくたって、会社の業績が厳しくなりました。佐々木さんが1人1人と面談して状況を説明し、「頑張って自力で現状を打開したい」と語っていたのを覚えています。そこまで言うなら僕もそれに応えないと、と。「会社に必要なことは全部やります」と、研究開発のチームから離れ、他社に派遣のSIerの業務に入りました。

退職しようとは思いませんでした。佐々木さんと一緒に働く方が大切でした。僕は、たいていの仕事にやりがいや面白さを見つけられる。でも、人との出会いは自分でコントロールできないから。

業績悪化は、それまで会社の仕組みをしっかり理解していなかった自分を変えました。小さい組織であるほど、一人ひとりの社員の動き次第で組織は良くもなるし悪くもなるのだ、と。そう気づいたら、課題も見えやすくなって、機会を見つけては佐々木さんに伝えました。そんなことをしているうち、CTOに打診されました。

CTOに就いてから、自分の提案を具体化していきました。その一つが、推奨の開発言語の切り替え。PHPからPythonに変え、フレームワークもPythonで使えるものにしました。

Pythonの方がライブラリが豊富で柔軟に対応しやすいし、データの取り扱いが今後発注の必須条件になるだろうから、今のうちにデータ処理に有利な言語を切り替えないと、受注できる案件の幅が狭まってしまうのではないか、と。

佐々木さんと2人で企業を回った時期もありました。佐々木さんが営業を担当し、開発の話は僕。

本当は何を求めているのか、なぜ求めているのか、顧客が言葉にしていない部分も自分なりに探りました。顧客はAを欲しがっているが、中長期的にはBが適しているかもしれない。せっかく作るのだから、しっかり使われるものを作らないと。大事なのは何を達成したいのか、そのために何が最も効率的で価値のある解決策かを見極め、提案することだと。それが自分の性分だし、役割でもあると思ってました。

バンソウDXと次世代のエンジニア

撮影場所:SPACES新宿

ー2024年、バンソウDXがFabeeeの主軸事業となりました。

杉森: 
バンソウDXに重点を変えたことで、DX専門のコンサルティングファームに近いプロジェクトが増えてきました。ただ、この事業を拡大させるにあたり、仕事の定義や価値観の言語化には、もう少し時間をかけることが大事だと思っています。言語化や整理のフェーズは、2024年いっぱいは続くでしょう。

適切な人員配置や役割をさらに明確化して、属人的な能力だけに頼らない、業務の効率化や仕組化も求められます。来期の1年間は試行錯誤しながら、「バンソウ」の名の通り上流から下流まで一気通貫の支援の手法を構築し、数年後には「FabeeeのDXは非常に価値があり、成功率が高い」という認知が確立されているのが理想です。

ーCTOとして、どんなエンジニアを求めているのでしょうか。

杉森:
これからのFabeeeでは、指示に正確かつ迅速に対応できるエンジニアだけでなく、課題解決に適切なツールや手段を、技術の立場から提案できるエンジニアも、より求められていくだろうと思います。

システム開発もするし、Salesforceのようなクラウドサービスを使いつつ、スクラッチでプログラミングもする。そんなハイブリッド型の技術力も必要になってきます。

エンジニアの仕事は論理的思考力の塊ですが、一方で事業開発のような、クリエイティビティも求められる領域は、論理の積み重ねだけではゴールに達しません。いろんな方面から柔軟にディスカッションする、そんなマインドも大事になってくると思います。

こうした次世代のエンジニアをどう模索し、確立していくかが、今Fabeeeで、僕たちに求められています。あたらしい像を作りたい人や自分なりの次世代エンジニア像を目指せる人たちに来てもらいたいですね。

もう一つ言うなら、明確な「欲求」を持ってきてほしい。マルチに活躍したい欲求なら、僕たちが技術面で支えます。一つの部署でスキルをひたすら磨いたっていい。ビジネスやコンサルの領域にもロールモデルがいます。「この人にここを聞きたい」「余裕があるから、仕事を回してください」「こうしたらよいのでは」と積極的に声を上げられる人を歓迎します。口も手もよく動かす、そんな存在感と実力の両軸があれば最強。誰もが協力してくれると思います。

撮影場所:SPACES新宿

【略歴】
杉森由政:
東京理科大学中退。在学中は宇宙物理学を専攻。2016年システム会社に入社、エンジニアとして行政システムやSNSサービス、ゲームの開発などを担当。2017年Fabeee入社。Pythonを用いたIoTプラットフォームの設計開発から機械学習・ディープラーニング分野のプラットフォーム開発まで牽引。2018年同社CTOに就任。


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