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ビリー・ジョエル:ライヴ・アット・ヤンキー・スタジアム 感想&見どころ解説②

曲ごとの解説の続きからです。

7. New York State Of Mind
ニューヨーク地域での公演のハイライトといえる1曲。22日公演ではアンコールで歌われている。個人的にはこの時期のこの曲のアレンジと歌い方はあまり好みではないですが、ビリーのピアノと歌、マークのサックスの掛け合いは素晴らしい。
2回目の「New York Times The Daily News」を「New York Post Newsday Too」と替えて歌うのもこの時期から定番化。
演奏後、デヴィッド・ブラウンとトミー・バーンズの紹介&ミニギターソロパート。ボストン・レッドソックスのキャップを被ったボストン出身のデヴィッドの紹介では会場から大ブーイング。ギターソロ中リバティが調子を伺いにやってきて(笑)最終的にキャップをステージに投げる。

8. We Didn't Start The Fire
ビリーもHAMERのギターを持ってジミヘンばりにフィードバックを起こす。そのまま当時の最新No.1シンルへ。今回のマルチトラックからの再編集によりシュイラーのベースがクリアに聴こえるようになっていてそれが演奏の要となっている。 
勢いに溢れた素晴らしい演奏だが、ビリーは歌詞をミスっている。
終盤ではクリスタルがコーラスを担当しながらステージを端から端までダッシュで走り回る。ビリーはそれを笑いながら観ている。とにかくこのライブのクリスタルは体力があり余っているという感じで終始動き回っている(笑)。

9. Shout
アイズレーブラザーズのカバー。ストームフロントツアーでは必ず演奏されていた。絶好調な高音を交えたビリーと観客の掛け合いのあと「不良仲間と1962年に食べたハンバーガーの味は今も忘れてねぇ」的な喋りから曲へ。 
この曲の聴きどころはやはりリバティが歌うシーン。早いビートを刻みながらビリーが向けるスタンドマイクに向かって一生懸命歌っている(笑)。
キーボードのジェフがビリーのピアノに移動。
「A Little Bit Softer Now」の歌詞で大合唱だった会場が静かになった所で「Uptown!」とビリーが叫び次曲へ。
 
10. Uptown Girl
ここで今作の目玉である未公開のこの曲が登場。ビリーが観客の前まで行って歌うという理由からかカメラアングルが終始落ち着かないが、41歳のビリーは原キーでもまだハイトーンがよく出ている。趣味のカメラを回すクリスティの姿もオリジナルより多く使われていた。
80年代とはまた違った勢いに溢れた好演で、映像で観ることができたのは感動的でした。
これで本編が終了。リバティが雑にスティックを客席に放り投げるのが彼らしい(笑)。
一行がステージを降りる(オリジナル版に見られたアンコール待ち時の舞台下での超見づらい映像はほとんど使われず)。

11. ヤンキー・スタジアム・ストーリー Part2(舞台裏映像)
ここでAllentownのインストをバックに再び舞台裏映像へ。ビリー曰く「ヤンキースタジアムのライブは何回も断られてきたが今回は諦めなかった」。使用料を払ったニューヨーク市からは「グラウンドを汚さなければOK」と言われたとプロモーターが語っていた。
途中セットリストの紙が映るシーンがあり、線が引かれて消されていた曲もあったのでDVDが出たらしっかり確認してみたいところ。
サウンドチェックの様子などが映らなかったのが少し残念だったが、元々撮影すらしていなかったのだろう(その根拠はまた後述)。
 
12. That's Not Her Style
ステージに再び上がりピアノに置かれたブルースハープを持ったビリーはアンコール1曲目に突入。
この曲は22日には歌われていない。
途中客席まで降りたビリーが投げ込まれたブラジャーで遊んだりしているため、この曲の聴きどころの1つであるデヴィッド・ブラウンのスライドプレイがほとんどカメラに抜かれず(笑)。クリスタルがミニスカにサングラスでステージを練り歩く所ではデヴィッドが眉毛をクイッと上げるのが面白い(マニアック過ぎるか…笑)。
ビリーのこういったブルース路線というのはあまり見ないので新鮮かもしれません。

13. Miami 2017
再びピアノに戻り、「ヤンキース」という言葉も登場するこの曲へ。途中客電が点き、一気に会場が明るくなり、そして曲が静かなる部分でまた暗くなる演出が素晴らしい。トミーとシュイラーとマークがステージ前方で演奏。

14. A Matter Of Trust
ピアノのエンディングが終わると間髪入れずにそのままこの曲に突入。その流れが最高にカッコいい。
ビリーはピアノの上に無造作に置いてあったギターを持ち、マークがビリーのピアノへ。
観客がみんな歌詞を口ずさんている所から意外と地味だと思われがちなこの曲も十分人気があると再認識。

15. Piano Man
ステージを去ったメンバーを再び呼び寄せるビリー。
ピアノの上にあったハーモニカを首にかけイントロを奏でる。
このツアーからコンサートの最後の曲として歌われるようになったこの曲だが、今回の上映によってオリジナル版に使われていたのは初日である22日の演奏だったということが発覚した。最も分かりやすい2日間の違いは最後のバースの「It's A Pretty Good Crowd For Saturday」の部分。22日は金曜日だったので「Saturday」の部分を「Stadium」と替えて歌っている。対する23日は土曜日なのでそのまま「Saturday」と歌っている。
今回使われたのは全て23日の演奏だったが、オリジナルやPV集「Ultimate Collection」に使われていて圧倒的に知名度があるのは「Stadium」の方なので、あれが22日の映像だったというのはかなり驚きだった。クオリティ的にはさすがオリジナルにわざわざこの曲だけ別日のテイクを使っただけあって22日の方が高い。
今回採用された演奏も悪くはないが、2日間の最後ということもありビリーがだいぶお疲れモードで、ハーモニカを吹き損じているし、ボーカルも22日の方が安定しているように思えた。
何より最後の観客の合唱パートから演奏が再び入る所でビリーがひと足早くハーモニカを吹き始めてしまい、バンドと噛み合わなくなるという少し珍しいシーンもあった(そのあとのビリーの「やっちまった」というような表情も見もの笑)。
ストームツアー時のこの曲はイントロからバンドが入るのが特徴。さらに観客の大合唱が始まったのもこの頃から。

演奏後、またもやリバティの雑なスティック投げ、観客がステージに乱入などがありながら、最後にお決まりの決め台詞「Don't Take Any Shit From Anybody」を残し終演。
今回この部分の字幕は「堂々と生きろよ」となっていたがこの言葉を翻訳した時のニュアンスとしてはベストだろう。今までは直訳が多くメッセージ性が伝わりづらいように思えたが、ここに来てちゃんとビリーの思いが伝わる翻訳となった。

そしてPrelude / Angry Young Manをバックにエンドロールが流れるが、注目するべきはブライアン・ラグルスの名前。ブライアンは1970年代からビリーの音響を担当している人物で、なんと現在もツアーに同行している1番のベテランスタッフだ。

そしてもう1つ気になったのはエンドロール中に少し挿入されていたAn Innocent Manの演奏シーン。
やたらと遠いアングルからの映像だったので、インサート撮影か何かでたまたま撮れた映像だったのだろう。

そして最後の最後に現れたAngry Young Manの演奏シーン。最後のインストピアノパートの一部だけとはいえ、完全未公開の映像で嬉しい驚きだった。
実はこのヤンキースタジアム、今回使われた14曲以外は撮影されていない。
恐らくエンディングに使われたこのAngry〜のシーンは当日次に演奏されたScenes〜を撮影するために早めにカメラを回した結果偶然曲の終わりだけ撮れていた、ということだろう。追加された唯一の曲がUptown GirlだったのもShoutから間髪入れずに演奏されたからだと推測。
こんなに歴史的なコンサートの全長版映像が残っていないのはすごく残念。

最後に「ジェフ・ショックに捧げる」という文が出ましたが、ジェフはビリーのアーキビスト、ツアーマネージャー、フォトグラファーだった人物。
2017年に62歳で亡くなりました。

ということで、曲ごとに解説を書いてみました。
前半よりだいぶマニアックになってしまいましたが笑、これでだいぶまとめられたかなと思います。

とにかく、このヤンキースタジアムの見どころはStorm Frontからの楽曲の素晴らしさ。やはり新しい曲ということでダントツ気合が入っていて、それ以外の曲が物足りないと感じてしまうほど。
どうしてもイタリアンやピアノマンに注目したくなるのは70年代人気が高いビリーあるあるですが、それらの曲は特別名演というわけではないので、ストームからの曲に注目するのがヤンキーをより楽しむことができる聴き方かと思います。

1つ付け加えるとすれば、オリジナルのヤンキースタジアム映像にスロー編集されて使われていた、ビリーがキャップを被ってボールを投げる仕草をするシーンや水を観客にかけるシーンなどはほとんどカットされていました。やはりトータルとして観た時に余計だと思うシーンは省いたのでしょう。
逆にオリジナル編集にはなかったビリーとバンドのやり取りなど、より当日の雰囲気をできるだけ自然に再現するという点に重点が置かれた編集になっていたと思います。

とにかくカメラアングルや編集が改善されたヤンキースタジアム公演を映画館のスクリーンと素晴らしい音響で体験できる素晴らしい上映でした。   
11月4日のCD+Blu-rayのリリースが楽しみです。