運転手が語りかける
朝、いつもの時刻に家を出て、いつものように自宅最寄り駅で地下鉄を待ち、ほぼ定時にやってきたので乗ったら、天井のスピーカーから運転手の肉声が聞こえてきました。
「車内換気のためラインデリアを動かします」
すると、天井に埋め込まれているラインデリアが動き出しました。ラインデリアといったって専門用語に近いようなものだし、動いていても止まっていても説明しない運転手が多い中、わざわざ「動かす」と言うところが珍しく思いました。
でも、この運転手は、そのあとも語りかけるように車内放送をしたのでした。
自宅最寄り駅を発車して、おおよそ2分で次の駅に到着し、停車してドアとホームドアを開けたら、再び天井から語りかけてきました。
「車内、大変込み合っております。お立ちの方は中へお詰めください」
運転手はブレーキ操作で車内の込み具合がわかるらしいのです。その感触で込んでいるとわかったのでしょう。そう言われても中へ詰めない人が多いので、あまり効果がありませんでした。とはいえ、何も言わない運転手が多いので、やっぱり珍しいと思いました。
で、毎日乗っている自分からしても、今朝の地下鉄車内はいつもよりも込んでいる感じがしました。そのためか、乗り降りにもわずかながらも時間がかかっているようで、ドアが閉まるまで十数秒程度長く感じました。
ドアとホームドアが閉まって発車し、次の駅の自動放送が終わったあと、運転手はまた天井から語りかけてきました。
「2分程度遅れて運転しております。お急ぎのところ申し訳ございません」
地下鉄が遅れること自体珍しいうえに、遅れていることを明言しているのはもっと珍しく、貴重な体験をしたような気分になりました。
結局、地下鉄を降りるときも2分遅れは引きずったままで、出社時刻も2分ほど遅れました。まあ、2分遅れても全体朝礼には余裕で間に合ったので、全然問題ありませんでした。
この運転手、自宅最寄り駅で入線したときに一瞬見えた印象では、50代後半のようでした。車内から聞こえる声もややしわがれていたから、きっとたぶん、20年以上運転のベテランなのでしょう。その経験が語りかけるような口調とか、遅れまで細かく言うことにつながっているのかもしれません。
ほんと、運転手にも、いろんな人がいるものだ。
(お読みいただきありがとうございました。内容に共感していただけたら心付もお願いします)
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