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氷点下2°の朝

「何だかいつもより寒い気がする」と思いながら、朝6:40に目が覚めた。テレビをつけるとあながち間違いでもなく、どうやら東京は氷点下2°らしい。

空気中に舞う氷の結晶により、太陽が上下に伸びて柱状に見える神秘的な現象のことを「サンピラー現象」と呼ぶそうだ。北海道以外では滅多に見えないというそれを映像に収めたカメラマンが感嘆の声を漏らす。

はらはら舞う氷の結晶と、まばゆいばかりの陽の光。わたしも心の中で拍手喝采しつつその映像をただただ眺めていた。美しかった。

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※画像はJAFなび様より

昨日、またひとつ歳を重ね、29歳になった。

恋人が「何欲しい?」と尋ねてくれたのだけど何も思い浮かばず、「とにかくおいしいごはんが食べたい!」とだけ所望した。

当日までどこに連れてゆかれるかわからないドキドキ感がおもしろく、裏路地をぶいんぶいんと軽快に進むタクシーに胸を高鳴らせた。まるでインディ・ジョーンズになった気分だ。

到着したのは、とある町のちいさな割烹料理屋さんだった。

「国内では1500本程度しか出荷しない、一本義の純米大吟醸・限定酒」なるものをいただきつつ、店主の柔らかな合図とともに給仕される一品一品をだいじに口にふくむ。

お刺身を眺めては「ひとつひとつお寿司を握ってくれた愛媛のお寿司屋さん、本当に美味しかったよね。あー愛媛に行きたい」。ふきのとうの天ぷらに添えられていた沖縄の岩塩をペロリと舐めては「また沖縄で出会ったあの人に会いたい」「昔はふきのとうって苦くて食べれなかったよねえ」などと談笑した。

杯を傾けながらふと彼の横顔を見ると、嬉しそうに頬を赤らめながら穏やかに笑っていて、こちらまで笑みがこぼれた。ああ、おいしいごはんは今までの思い出だけでなく、未来も見せてくれるのだ。これからも、この人と生きていけたら良いなと強く思った。

ぼんやり幸せに浸りながら遠くを眺めていると、「よろしければ」。すっと盃が差し出される。店主が、粋な計らいで日本酒をサービスしてくださったのだ。りんごのような吟醸香がふわりと漂う。これ以上ないくらいの、格別な夜だった。


夢から醒めるのは、早い。瞳をあければ、そこにはまだほの暗い家の天井がぼんやりと広がっている。

朝が始まる。 誰にともなく「寒い寒い」と言いながら歩く人に出会う。

 わたしも胸のうちで「ほんとうに、寒いですね」と応じながら、いつもより少しだけつめたい街をいま、ひたひたと歩いている。



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