【小説】ジェラピケ探偵
まえがき
昔、即興小説というお題が出され、制限時間内に小説を書くサイトがありました。そこで私が書いた文章を加筆修正したものです。色々あるので、お暇つぶしにどうぞ。
ジェラピケ探偵
お題:赤い殺人 必須要素:予想外の展開
「あなたはここで死にました」
男はもこもこのパーカーを着た少女から聞かされた。
机の下に糸が切れたかのように新原真悟が倒れていた。後頭部が真っ赤な血に染まっていたが、間違えなくそれは自分自身だった。
では今の視点は誰だ?
そして、目の前にいるピンク色の髪の少女は誰なんだ。と、彼が考える間もなく少女は言葉をつづける。
「わたしはカタリといいます。わたしはあなたが生んだ幻ではありません。わたしは確かにここにて、あなたの助けが必要なんです!」
カタリと名乗った少女は母猫捨てられそうな子猫のように目をうるうるさせた。
そして両手を顎の前で柔らかく組み、新原へ聞いた。
「あなたを殺した犯人を教えてください!」
彼はそれに答える。
「久保だ、久保が俺を殺した」
新原はすべて見た。
友人の久保義治と口論になり、というかもとから俺を殺すつもりだったらしい。
勢いがついた久保はカバンからナイフを取り出して正面から俺を刺した。
だから犯人は久保。
「すべてはあいつの逆恨みで、あいつは日常的に景子に暴力振った。俺は彼女に日々相談を受けて――」
カタリはつまらなそうに前髪を爪先でいじっていた。新原の視線に気づくと、にっこり笑ってふわふわとした口調で言う。
「そういうのはいいです~。凶器のナイフはどこにありますか?」
バッサリと話を遮られた新原は彼女の遠慮のなさに驚いたが、答えた。
「意識がなくなる前にぽちゃんと音がしたから庭の池に投げたと思う」
「ありがとうございます~」
そこから新原の意識は飛び、集められた人々から久保を指さすカタリの姿が見えた。いや、自分はカタリ自身になっていた。
否定する久保。証拠を突き出すカタリ。そして泣き崩れながら自供する久保。
事件解決。少なくとも殺された俺以外は。
「あっ、まだ新原さんの意識が残ってたんですね~、大丈夫ですよ。もうすぐ消えますから」
「消えるって」
「新原さんの魂はわたしの体を使って考えているんですよ。降霊術みたいなやつです! でも事件が解決したからもう新原さんの意識はいらない。ポイッです~。」
何を言っているんだ?
新原は後ずさろうとしたができなかった。体はカタリのものだった。まるで一人称視点の映画のように視界が自分の意志とは関係なく、移動していく。
そして、少女の思考が混じり込んでくる。頭も使ったし、イチゴパフェでも食べようかな~。違う! 俺は景子が好きで――
あれ、俺って誰だ?
自分が侵食されて自分でなくなっていく、とてつもない不快感と恐怖に新原の魂は雄たけびを上げた。
俺は俺だ!
「あなたがあなたである、と思うことは世界にとって大した問題じゃないんですよ~」
カタリは指先でスマホをタップしながら答える。画面に美味しそうなスイーツが写るたび、新原の思考はそれに引っ張られる。
「知ってますか? 人間は体が動いた五秒後に考えているんですよ。意識は肉体のおまけにすぎません。それに新原さんは肉体的にも社会的にも死んでいるのに意識だけのこるのもヘンですよね!」
俺の意識は消えるのか? 俺は二度死ぬのか?
「そういう意味ではそうですね〜。2回目だから慣れたもんですよね!」
いやだ! 死にたくな――
新原の意識はテレビのスイッチを切るかのようにその時消失した。