0267:(GaWatch映像編003)『大学での出来事』
『大学での出来事 incident at school』2020年/デンマーク
監督 Jacob Pilgaard
主演 Cecilie Elisabeth Bogo Bach
たまたまTwitterで本作を紹介している人がいた。無料で全篇観ることができるとのことで、クリックした。国際短編映画祭Short Shorts Film Festival & ASIA 2021というイベントページで、エントリーされた多数のショートムービーの中の一作のようだ。観始めた。緊迫の23分48秒、あっという間だった。
舞台は大学の階段教室。カメラは二つの定点に固定され、トラック・パン・ティルトはもとよりズームすら使われていない。ひとつは、映像の始まりと終わりにそれぞれ1分あまり、教室を中央から俯瞰するもの。残り21分あまりは、ひたすら階段教室の机の下に隠れる主人公を間近から撮影している。そして──今これを書きながら気がついたのだが、カット割りがないということは、21分間主役の女優Cecilieによる一人芝居一発撮りということか、すごいな。
物語は大学で銃乱射事件が起きている、まさにその時間をリアルタイムで追っている。主人公は遠くの銃声を聞きながら階段教室に逃げ込み、階段教室後1/3辺りとおぼしき机の下に隠れている。もし犯人が来て通路を通ればすぐに見つかる場所だ。しかし、そこにしか逃げ場がなく、また、そこから動けない。理性的な判断力を奪われた緊急事態であることが伝わる。机の下、並行に固定されたカメラの前で、主人公は電話を使い、警察・友人・母親に電話をかける。また、同じ階段教室に逃げ込んだ他の人物のやりとりに耳を澄ませる。その中で明らかになるのは、犯行に及んだ人物の素性(ネタバレるので書かない)、親しい者が何人も撃たれたこと。死を覚悟した彼女が、疎遠だった母と最後の会話をしようと電話をするが幾度も妨げられ、最後にようやく母と本音を言い交わす。
緊迫の21分固定ノーカットを観入らせる主人公の演技が凄かったなあ。キャンパスの様子、そして階段教室内で起こる惨劇は、他の人の声と音のみで描かれる。主人公はそれを耳にしながら、恐怖の余り声を漏らしそうになるのを必至で抑え、息をひそめ、電話をかける。時にカメラに接近して目を見開き、時にカメラから遠ざかって心を落ち着かせる。そしてラスト、冒頭と同じ階段教室俯瞰の画面──。
キャンパスでの銃乱射事件というとアメリカの印象が強いが、ノルウェーのウトヤ島でキャンプに集まった青年たちをテロリストが襲い69名が死亡した事件も衝撃的だった。この映画が作られたデンマークでも2015年にISISの影響を受けた銃乱射事件が起きているようだ。日本で観るよりも一層のリアリティをもって現地の人々に受けとめられているかも知れない。
うん、いいもん観た。Twitterで見かけなければ観ることはなかったろう。フェスティバルの他のエントリー作品にも面白そうなものがたくさんあるが、あれこれやるべき事がある中で、全部観ようという気にはなかなかなれない。映像作品との出会いもまたご縁、今回は良いご縁をいただいた。
■本日摂取したオタク成分
『その男、意識高い系。』第1話、随分前に録画だけしてた作品を今頃視聴開始。かなり軽いタッチのビジネスコメディだけど、主人公は視聴者の共感を得られるような描き方がされている。『恋のツキ』第3話、恋愛(性愛)の生々しい辺りを描いていて、良いなあ。
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