1062:包み込む手
今日実家に、母のかんぽ生命の生存確認書類が届いていた。母は30km離れた私の自宅近くの施設に入所中で、実家にはいない。入所費用は公的年金のみでは足りないが、若い頃に掛けていたかんぽ生命終身保険を合わせることでどうにか賄えている。戦前に生まれ壮年期に高度経済成長を迎えた人の人生設計はきちんと帳尻が合っている。
ともあれ書類に本人のサインが必要だ。17時に施設を訪れると、母は自室ではなく食堂で、一人ぼんやり壁に向かって座っていた。寝ているわけではなく、目を半眼にして起きている。最小限の燃焼効率で生命の微かな炎を保っている、老いの静けさとでもいうべきものを感じた。
「お母さん」と声をかけると、「おお、○○か」とすぐに返事がある。認知症は主に短期記憶の困難に顕れていて、親族の顔を忘れていないのは有り難いことだ。書類を示して説明し、部屋から日めくりカレンダーに括り付けられたボールペンを持ってくる。カレンダーには毎日妻が届けている牛乳の受け取りが本人の字で記録されている。書類にサインをもらう。若い頃に書道の師範であった彼女の字は、年齢相応に老いている。
面会時間は15分以内。じゃあ帰るね、と手を振ると、握手を求められた。母の手は温かい。「ああ、冷たい手だねえ。よしよし」と、母は小さな両手で私の大きな手を包み込んでくれる。母92歳、息子58歳。いくつになっても、母は母、子は子だ。
いつかその日は必ず来る。それまでどうか、疫病にも戦争にも天災にも無縁で、幸せに、安らかにいて欲しい。
--------以下noteの平常日記要素
■前回以降の小説進捗
【やくみん第2話現在5,495字】
5,495字から773字進んで6,268字。ようやくみなもの採用試験まで辿り着いて次の場面に入った。うん、ここまでの描写、ダメだな。2/3くらいに簡潔に削らないと。でもまあそれはドラフトから先の話。
■前回以降の法律学習ラーニングログ
【学習時間1h39m/リセット後累積91h55m/リセット前累積330h42m】
特別の法律関係周りのテキスト読みと演習。実は公務員周り、いろいろ判例があってすっきり頭に入ってないな。でもここで足踏みしてちゃ前へ進めないから、今は弱点意識のみ記憶しておこう。
■前回以降摂取したオタク成分
『ダンジョン飯』第3話、なんか絵柄がちがう? でもおもろい。『うる星やつら』第25話、淡々と愉しむ。『ティアムーン帝国物語』第2話、順調におもしろい。『イチケイのカラス』第1~3話、先日映画版をやったので、以前録画した本編から観始める。うわっ、面白いな。警察・検察・弁護士が主人公の作品は枚挙に暇が無いけれど、裁判所は内情を知る人が少ない分だけ例があまり思い浮かばない。ちゃんとお役所としての裁判所機構を描いていて、公務員モノとしても面白いよ。『光る君へ』第2話、なんかラブコメ路線? 大河というより朝ドラのテイスト。『メタリックルージュ』第1話、おおっ出渕裕か。説明を控えた不親切な作りがかえって世界構築の硬度を際立たせる。『葬送のフリーレン』第17話、原作でもこの辺りはHUNTER×HUNTERっぽいなと思ったんだ。『ラストマン』第4話、あっ、これもよい。前回刑事コロンボみたいだったのでその路線に行くのかと思ったらちゃんと違った。
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