日本の女子大学で「トランス女性」の入学を認める動きが本格化――ただでさえ不平等な女性の地位がいっそう悪化する
by ジュヌヴィエーヴ・グラック
日本の女子大学の女子学生は、トランスジェンダーを自認する男性が「女性」であることを納得させるために、「ジェンダー専門カウンセラー」と話すよう求められている。
日本女子大学は最近、自分が女性であると称する男性の入学申請を認める方針を採用すると発表した。『朝日新聞』が報じたところでは(日本語記事)、現在在籍する女子学生の半数が反対や躊躇を表明しているにもかかわらず、この方針は2024年初頭から実施される予定だ。
この女子学生の懸念を受けて、日本女子大学は2022年6月、教職員が女子学生にジェンダー・イデオロギーに対する考えを改めるよう説得することに努めるといった趣旨の「ダイバーシティ宣言」(日本語版)を発表した。その前書き部分には次のように書かれている。
「これまで本学では、トランスジェンダー女性の受け入れに向けて、ガイドラインやマニュアルの策定、ジェンダー専門カウンセラーの配置、学生対象のダイバーシティ週間を設けるなど、『多様な女性』が共に学べる環境の整備に注力してまいりました」。
日本女子大学の大山聡子教授(社会福祉学)は、同僚たちとともに、ジェンダーアイデンティティ思想を推進するための専用メールホットラインを学内に設置した。また、「ジェンダー専門カウンセラー」と提携し、同大学に通う女性たちに相談の場を提供している。報道によると、大学関係者は「学生の不安を払拭する」つもりであると述べている。
日本女子大の公式サイトには、Y.M.と名乗る匿名の女子学生の証言が掲載されている。「マジョリティという特権を忘れないようにしたい」とY.M.さんは書いている。
「私の大学の学生は、女性として男性社会ではマイノリティでありながら、トランス女性……に対してはマジョリティであると思います。……つまり、私たちは必ずしもマイノリティ/マジョリティのどちらかではないのです」と語る。
トランスジェンダーを自認する男性で、支援団体「Rainbow Tokyo北区」代表の時枝穂(みのり)氏は、女子大学に男性を入学させるためのキャンペーンを広く展開している。2022年1月には津田塾大学でこのテーマで講演も行なっている。
その時枝氏は先の『朝日新聞』の記事の中で次のようにコメントしている――「女子大がトランスジェンダー学生の受け入れを表明することは、当事者にとって、進路の選択肢が増えることだけではなく、大学がアライ(味方)であるという心強いメッセージにもなる。……ほかの学生にとっても、多様性を身近な所で知る機会になるはずだ」。
142年の歴史を持つ日本初の女子高等教育機関であるお茶の水女子大学も、日本の女子大学で初めて2018年にトランス自認の男子学生の入学を認めると発表し、奈良女子大学、宮城学院女子大学がそれに続いた。今年に入り、同じくノートルダム清心女子大学も、2023年から女性自認の男性を受け入れると発表している。
本誌の取材に対し、匿名を希望するある日本人の女性権利活動家は、このニュースに「気が滅入る」と語った。
「すでに女性は〔性差別のせいで〕大学に入るのが難しいのが現状です。......なのに、女子大がこの種の男性を簡単に受け入れていることに、気が滅入る思いです」。「私の娘はまだ大学に入学する年齢ではありませんが、私はストレスを感じています。今後、若い女性たちはいっそう少ない大学入学枠のために戦うことになるでしょう。今後10年で、これらの女子大は進歩的に見えるようにと、トランスジェンダーの志願者を少なからず認めるようになることは間違いないのですから」。
また、彼女は、日本の高等教育制度では女性の受験者への差別が常態化しており、トランスジェンダーの入学希望者が女子大に入る際には、「積極的差別」も影響する〔つまりトランスジェンダーの入学希望者が女性より優先される〕ことになるのではないかと推測している。
数年前、日本の医科大学や医学部が、女性受験者が合格しにくくなるよう、系統的に女性受験者の入試の点数を引き下げていたことが明らかになり、広範な論争を巻き起こした。2022年に入ってから、日本の2つの大学が差別を理由に女性受験者への受験料の返還を命じられ、3番目の大学は現在裁判中である。
順天堂大学の医学部は、男子受験生に有利になるよう入試結果の不正操作が発覚した件で、今年5月、東京地裁判決で、女性13人に805万円の損害賠償を命じられた。その数ヶ月後、今度は東京医科大学も、男子受験者が優先的に合格するよう入試の点数を下げられた27人の女性に対し、総額1826万円の損害賠償を支払うよう命じる判決が下された。神奈川県川崎市にある聖マリアンナ医科大学も現在、性別を理由に入学を拒否された女性受験者が起こした裁判の最中である。
2018年、東京医科大学で入試の点数操作が初めて報道され、日本の文部科学省が調査を実施した。その調査結果によると、合計9つの医学部ないし医科大学が、男子受験者者や卒業生の親族を優遇するために、女性受験者の入試の点数を系統的に下げていたことが判明した。
調査の結果わかったのは、多くの医科大学や大学医学部で、女性受験者の一次試験の点数を下げると同時に、男性受験者の点数を20点以上、上乗せするという入試操作が何年にもわたって行なわれていたことだ。目的は女性医師をあまり増やさないようにすることだが、その理由とされたのは、女性医師は子どもを産むことを選択する可能性があり、その結果、医師としてのキャリアを縮めることになるからだという。いくつかのケースではこの不正は2006年ごろから始まったとされ、政府報告書はこの不正を「深刻な女性差別」だとしている。
政府報告書の結果が公表された後、当時の野田聖子男女共同参画担当相は、「女性医師が病院で勤務するのは問題が生じて困るという思いが医大で共通化しているとすれば、極めてゆゆしきことだ」と述べた。
『ワシントン・ポスト』紙は、日本のトップ大学によるこの露骨な女性差別について大見出しで報じ、エリート学術機関への女子学生の入学が過去20年間、著しく不平等であったことを指摘した。
日本における制度的な女性差別(sex-based discrimination)はよく知られており、一流の学位を取得した女性は後々結婚できなくなるという固定観念があるほどだ。日本の著名なフェミニストである上野千鶴子氏(元ジェンダー研究教授)は、2019年に東京大学の新入生に講演した際、この問題を取り上げ、「学生が大学に入学する前から、すでに隠れた性差別がある」と語っている。
ロイヤルメルボルン工科大学の翻訳・通訳プロジェクトで講師を務めるキャロライン・ノーマ博士は、本誌に対して、日本の女性たちはただでさえ不安定な状況に置かれているのに、ジェンダー・イデオロギーが日本の女性にますます大きな影響力を及ぼしていると語る。
日本女性が直面しているさまざまな問題について幅広く執筆してきたノーマ氏は、大学でトランス自認の男性を受け入れるよう女子学生に強要する最近の動きは、日本の体制がいかに「欧米由来のジェンダーアイデンティティ・プロパガンダに感染している」かを示すものだと述べた。具体的には、人文科学系の学部やNGOセクターを例として挙げている。
「女子大卒業者の就職先は少なく、企業の『虹色』研修で収入が得られる可能性に注目する卒業生も出てきています。最近のエリート大学のキャンパスでは、SOGIアライの活動が定番化しており、その参加者の多くはNGOセクターへの就職をめざしているのです」。
男女共学の大学への女子の入学が意図的に妨げられている問題について、ノーマ氏は、医療業界は高い収入の得られる産業部門であり、そのため、日本の女性が自立して収入を得るための「機会から系統的に締め出されている」ことを強調した。
「企業の採用過程において同じような差別がありますし、またトップクラスの高校では、より多くの女子が入試に合格すると、『男女同数』になるよう入学者の選抜が行なわれています。お茶の水女子大のような一流女子大は、エリート校であるにもかかわらず、女性と称する男子学生の入学を認めるようになっており、若い女性の居場所を奪うことになります」。
ノーマ氏はさらに次のように指摘する。「日本の女性は、女性の権利というリベラルな価値観がまだまったく不十分なまま、今度はジェンダーアイデンティティや男性の確保を理由にした一種のネガティブ・クオータ制のようなものと戦うことを余儀なくされています。医療の現場には高齢女性の患者さんがあふれているというのに、日本の医師のうち女性はわずか25%しかいないのです」。
「日本では無痛分娩はほとんどないし、また男性医師が女性患者を盗撮する事件も後を絶ちません。しかし、こうした状況はいずれも、女性の地位と機会を向上させるべき理由とはみなされておらず、日本の女性の状況を抜本的に改善するための全国的な施策も特に行なわれていません」。
周知のように、世界経済フォーラムなどの国際ランキングでは、日本は常に、女性の政治的代表権と経済的機会の面で、先進国の中で最も不平等な国の一つとされている。
訳:TB