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SUNRICH COLORFUL感想(一部再掲)

 今さら!?!?!?!?!???!?・

 って思われてそうですね。そにっぴーです。
 2022年7月9日・10日に行われた念願の765単独ライブ"SUNRICH COLORFUL"、実は終了直後に全曲のレポートを書いていました。ただ、そのうち一部を私が主催メンバーになっている天海春香学会の同人誌「春香ジャーナル」に寄稿したため、ひとまず表に出さずに温めておりました。

 夏コミで頒布しましたが、他の本ともども多くの方にお手に取っていただけました。本当にありがとうございます。それから2か月ほど経ち、在庫も通販でだいぶハケてきたので、そろそろと思い今回ブログに掲載いたします。頒布したジャーナルでは、紙面の関係で天海春香役中村繪里子さんが登場した曲のみ掲載しました。せっかく全曲書いたので、ここでは全部載せちゃいます。ブログで自然に読めるように加筆修正は施しましたが、書き方の時系列等々がおかしいところはご愛敬ということでご容赦ください。あと、一部の楽曲だけクッソ長いのもご了承ください。

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 2022年7月9日・10日に行われた765プロ単独ライブ、「THE IDOLM@STER 765PRO ALLSTARS LIVE SUNRICH COLORFUL」。私はというと、初日はライブビューイングで、そして2日目は幸運にも現地で参加することができた。もちろん天海春香学会の運営として触れずにはいられない。これを書いているのは未だ興奮冷めやらぬライブ直後。早速レポートにまとめていきたい。
 観覧した際の記憶を基に書いているため、正確性を完全には担保できないことをご了承いただきたい。というか諸事情により私の主観まみれだ。あくまで、ひとりの春香Pがどのようにこのライブを感じ取ったか……その熱に触れていただければ幸いである。

【初日】

 7月9日、土曜日。私は現地チケットを持っていなかったが、会場であった幕張イベントホールに近い映画館のLVを確保していた。いわゆる「現地LV」である。早めに現地に到着した私は、天海春香学会もう一人の運営であるスタントンさんと合流したり、知ってる人・知らない人、たくさんの人と挨拶したりして賑やかな時間を過ごしていた。

私「緊張しすぎて動悸がヤバいです」
スタントンさん「ドキドキ動悸フワフワ不安」
私「君からダウンロード」

――緊張するとすぐに『キミ*チャンネル』の歌詞を引用するオタク

 なんで私がこんなに緊張していたのか。端的に言えば、「4年半ぶりの765単独ライブ」という事実があまりにも大きすぎたからだ。これはライブに参加された人の多くが同じ気持ちだったと思う。4年半は決して短い時間ではない。その間に積み重なった色んな出来事や思いが、今日というこの日に一気に解放される……それだけで開演の何時間も前から心臓をバクバクさせるには充分だった。
 ただ、私にはもうひとつ緊張の材料があった。私は「天海春香の『笑って!』担当P」なのだ。『笑って!』をこよなく愛し、様々な場所で『笑って!』の魅力を発信してきた。つまり、本公演で『笑って!』をやるのかどうか……そしてやるとしたら、現地チケットを握れていない土曜日なのか、無事現地に行ける日曜日なのか。それが気になって仕方なかったのだ。

スタントンさん「ところで私、両日とも現地握れなくて配信なんですけど」
私「ごめんなさいね~~~日曜日現地で!!!」
スタントンさん「今日『笑って!』歌ったら爆笑してやりますからね」

――普段人様に勝てるものがないので、ここぞとばかりにマウントを取る哀しい人間

 そんな殴り合いやり取りもしつつ、私はユナイテッドシネマ幕張のLV会場に向かったのだった。

 それでは、そんなフラグのようなやり取りをした結果どうなったのか。初日のセトリを1曲ずつ振り返っていこう。
 ちなみに本公演のLVにおける新型コロナウイルス対策として、声援禁止の他に着席での観覧となっていたことを付け加える。

凡例:
曲順 曲名 キャスト名(50音順, 敬称略) コメント

1.We Have A Dream(全員)

 まさかのスロマス曲。正直予想できておらず、会場の方々から驚きの声が漏れ出ていた。サビ前の「We Have A Dream!」や終盤の名物「(月火水木金土)日曜日!」のコールができないのが残念で、その分ペンライトを握る拳にパワーを込める他なかった。歌詞を振り返ると“アイドルマスターらしい”とも言うべきフレーズが並んでおり、ライブの1曲目で会場のボルテージを高めるにはとても良い選曲だったのではないだろうか。「私たちのこと知らなくてもこれから覚えてよね」から始まる4年半ぶりのライブ、正直「やりおるな」と舌を巻いた。
 直後にはMCを挟んだのだが、繪里子さんの「整列しよう!」の声を受けてステージ上に765プロアイドルのキャスト全員が一列に並んだ。全員が、一列に。あの一瞬息が詰まるほど大きな感動を覚えた。釘宮さんが「リハで『月火水木金土』の後に『木曜日』って言っちゃった」というエピソードを話しており、心が和んだ。

2.サニー(下田麻美、たかはし智秋、中村繪里子、沼倉愛美、若林直美)

 開演前の映像からして夏を意識したライブになることは想像できていたが、まさに直球で夏を歌った曲が来た。下田さんと繪里子さんはプロデューサーミーティング2018で「あみまみあまみ」としてこの曲を歌唱して明るく元気なパフォーマンスを見せてくれたが、今回は5人でさらに賑やかな感じに仕上がっていた。繪里子さんが掛け声を元気に発声していたり、間奏で「楽しい~~~!!!」と言っていたりしたのが印象的だった。

3.スマイル体操(仁後真耶子)

 ハッチポッチフェスティバルやミリオン6th仙台公演のカバーがあったためか最近多く披露されている印象があったが、仁後さんソロ歌唱はご無沙汰だった。元気いっぱいの歌唱はまさしく明るく咲き誇るヒマワリのようで、夏らしいライブとして会場のテンションを高め続けた。それにしても、年齢を重ねるにつれてこういう曲で泣けるようになってきたのは私だけではないだろう。

4.アプデ(長谷川明子)

 満を持して最新CDシリーズのひとつ、MASTER ARTIST4からの選曲である。失恋曲や勇ましい曲を多く歌唱する美希にとって久々に与えられたキュートなラブソングであり、「好き」の気持ちにまっすぐな美希らしい曲と言えよう。観客に背を向けてチラッとこちらを振り向く仕草など、いじらしく可愛らしい振り付けが多く見られた印象だ。

 なお前述のとおりこの『アプデ』がMA4の曲なのに対し、直前の仁後さんが歌った『スマイル体操』はMA2の曲となっている。初星宴舞と同じく様々な年代の曲を歌唱することがわかり、今後のセトリの予想がますます膨らんだ。

5.自転車(平田宏美)

 まさに爽やかさ溢れる1曲。初星宴舞で平田さんは「『自転車』やると思ったでしょ」と言いつつ『チアリングレター』と『迷走Mind』をチョイスしていたため、人によっては念願の披露だったのではないだろうか。本公演にて平田さんは、2日目のMCで「もみあげを切りすぎた」と言っていたくらい髪を短くしており、曲の爽やかさ、かっこよさに拍車をかけていた。このかっこよさでプロデューサーのみならず多くの同業者を虜にしてきたんだよなあ……。

6.Slapp Happy!!!(今井麻美、釘宮理恵、仁後真耶子)

 筆者が本気で泣いた曲その1。というのも筆者が大好きな“明るいけど優しくてちょっと泣ける”曲だからだ。オリジナル版はアニマスのブルーレイの特典CDに収録されており、少々影が薄い曲であることが否めない。8thライブで仁後さんソロが披露されたっきりになっていたので正直もう聞けないかと思っていたが、今回オリメンでの初披露が叶って思わず取り乱してしまった。コールができないこのご時世にあって、クラップの要素を全体的に取り入れたこの曲のありがたさと言ったら! 3人とも笑顔で歌っていたのが今でも目に焼き付いているが、きっと現地にいるプロデューサーたちのクラップがちゃんと演者に届いたのもあるだろう。そう信じたい。

7.恋するミカタ(若林直美)

 これもMR ST@GEを除くと長らく披露がなかった曲で、イントロで思わず歓声を漏らしてしまった。少年漫画原作アニメのOP曲のように元気溌剌なこの曲を、若林さんは全力で歌った。たとえバテようが全身全霊で歌ってくれるのが若林さんの魅力。それを存分に感じられるパフォーマンスだった。なお若林さんやダンサーは“旗”を持って踊っていたが、これはこの曲に応援歌の要素があることのみならず、律子のいとこの秋月涼がSideMにて“F-LAGS”として活躍していることが関係していると思われる。律子も涼も紆余曲折ありながら今を輝くアイドル、なんとも熱いエールだった。

8.芽吹の季(浅倉杏美)

 浅倉さんはMA4曲の披露となった。この日の浅倉さんは第2子を出産されてからあまり日が経っておらず、まずは無事ステージに立っていただけたことが嬉しい限りだ。『芽吹の季』は雪歩の穏やかさと力強さの両方の性質を持つ雪歩らしい曲であるが、本公演では爽やかな新緑を思わせるステージ映像や西洋建築風のステージも相まって、曲の清涼感がより強化されていたように思える。

9.セクシータイフーン(下田麻美)

 レトロな歌謡曲を思わせる『セクシータイフーン』は真美のMA4曲。ライブにおいて歌い方で遊びまくることに定評がある下田さんだが、この曲は一周回って原曲に忠実に歌っている印象を受けた。そのため歌謡曲としての実在性の高さを感じることができた。双海真美のアイドル活動はまだまだ幅を広げられそうだ。

10.マジで…!?(釘宮理恵、たかはし智秋、中村繪里子、仁後真耶子、長谷川明子、若林直美)

 冒頭の太鼓が聞こえた瞬間「キタキタキタキタ!!!!でもコール禁止レギュで来るな!!!!」と情緒不安定な顔つきになった。しかもLVは着席なので拷問もいいところである。太鼓の達人で使われているショート版はさておきMA4ではソロ音源しか無いため、念願の複数人披露でもある。演者は本公演のグッズであろう法被を羽織っており、ソーラン節を思わせるような和風かつ激しい振り付けも相まってこの曲の勢い良さが極まっていた。途中、あまりにも全力でパフォーマンスし過ぎてバテてしまった若林さんを気遣う繪里子さんの姿も見られた。繪里子さんがパワーを注入するような仕草をした後、今までより激しく踊り始めた若林さん……もう笑うしかない。あなたたちのパワーこそ『マジで…!?』である。

11.99 Nights(浅倉杏美、原由実、平田宏美)

 MA3にフル音源が収録されているのは原さんのみであり、そういった意味ではスペシャルユニットである。いつか春香(繪里子さん)のフル歌唱を聞いてみたい曲では5本の指に入るため、たいへん羨ましい。こういった切ない曲に平田さんがいるのってめちゃくちゃ良いな、と思った。

12.VELVET QUIET(たかはし智秋)

 MA4のあずささんの新曲で、もしライブで来たらクラブミュージックを地で行く衝撃のメロディを智秋さんがどのように歌い上げるのかに注目していた。しかしその着眼点は良い意味で裏切られた。ステージ上の智秋さんは、Vi・Da・Vo全てで観客を圧倒したのだ。ダンサーを従えて激しく妖艶に踊る智秋さんの姿には、個人的に初星宴舞における沼倉さんの『Next Life』に匹敵するほどの衝撃を受けた。この初星宴舞で智秋さんが歌ったのは『隣に…』と『9:02pm』で、いずれもどちらかというと“聞かせる曲”だった。したがって本公演でここまでダンスで魅せるパフォーマンスになるとは思っておらず、私のみならず多くのプロデューサーの度肝を抜いたことだろう。たかはし智秋、恐るべしステージの支配者。

 そういえば、ステージ正面に扉があった。そのことに気づいた瞬間聞こえたイントロは、予想外だったけどとてもよく知っていて、その後に聞こえた声はやはり予想外だったけど、ずっと、ずーっと、待ち望んでいたものだった。

13.翼(滝田樹里)

 おかえりなさい……! 筆者が本気で泣いた曲その2。MOIW2015以来ライブへの出演が無かった音無小鳥役滝田さん。直前にコミック「朝焼けは黄金色」の最終巻特典として、小鳥さんが歌唱する『翼』と『想い出は永遠に』の2曲が新たに制作・収録されたため、本公演に滝田さんがサプライズ登場することを期待する声は少なくなかった。いざこうやって私たちの前に伸びやかに歌う滝田さんが登場すると、もう嬉し涙をこらえきれなかった。「夢見たなら願ってごらん 自由に素直になればいい」という落ちサビの歌詞が特に印象に残っており、感極まりながらも心がスっと軽くなった。
 さて、このまま早速サプライズ登場の滝田さんを挟んでMCへ……とはならなかった。

14.空(滝田樹里)

ああ……。

 筆者が本気で泣いた曲その3。小鳥さんの最新曲『翼』を披露してから、最初の曲『空』を披露すること……これにはちゃんと説得力がある。『翼』の歌詞には「本当の翼 私にあれば どこまでも飛んでみたい」「描いた未来へ虹が架かってく」とあり、対して『空』には「空になりたい 自由な空へ 翼なくて翔べるから 素敵ね」「始まりとお終いなんて 繋がって巡るモノ」「繋ぐレインボー」とある。『翼』と『空』は本質的に繋がっているのだ。なお作詞のyura氏は、ライブ後に7月12日のツイートで「空を綴る際に琴美さんの事を思って、1つ作詞してから空を綴りました。それが『翼』です。空があって翼を綴ったのではなく、時系列通り翼があってから空があります」と語った。

 まさにそのことを本公演にて体現したのだと思うと、心が震える。しかも曲の最後には、キャスト全員がステージ上に登場した。色とりどりの衣装がそこに揃い、高らかに歌われる「繋ぐレインボー」の歌詞。音無小鳥が765プロにとってどれほど大切な存在であるか、それを説明するために、もう言葉は要らない。

15.KisS(沼倉愛美、長谷川明子、原由実)

 泣く子も黙るオリメン、プロジェクト・フェアリーによる歌唱である。ここで特殊イントロが流れ、KisS冒頭の独特の“焦らし”のメロディを生かしてオリメン歌唱が分かった瞬間のカタルシスを高めていた。原曲からして妖艶さが際立つ曲であるが、3人の演者のパフォーマンス込みで見てみると、その色気が何倍にも増幅されるのを感じる。最近だと「リスアニ!LIVE 2020」において長谷川さん・沼倉さんによる『KisS』の披露があり、私もそれを見ていたのだが、そこに妖しく貴音を演じる原さんが加わって正統進化を遂げたと言えるだろう。

 ところで、ひとつ気がかりなことがあった。ライブで先陣を切ってソロ曲を歌うことが多い繪里子さんの出番がまだ来ない。先ほどのMCで「最終ブロック」と言っているにも関わらず、だ。基本的に、ライブの終盤で歌うことが多いのはバラード調の曲。そこから導き出される答えは……。私の動悸が速く、速くなり、手に次第に力が入らなくなっていくのを感じた。

16.inferno(今井麻美、浅倉杏美)

 それはそれとして、驚いた。『inferno』は雪歩を前任の長谷(落合)さんが演じていた頃の曲で、浅倉さんに交代してから『inferno SQUARING』というアンサーソングが作られていたため、『inferno』の方はもうやらないものだと勝手に思い込んでいたのだ。これは「オリメン」なのかどうか、私の口からは語らない。しかしそんなことは今重要ではない。熱く、鋭く、会場を割くような圧倒的パフォーマンス。迫力ある間奏のセリフパート。心が燃えていた。

17.ソナー(釘宮理恵)

 ロックかつオシャレ、不思議な感じなのにストレートに刺さるメロディの名曲。釘宮さんの歌唱はかわいらしさを前面に押し出しているものも多いが、本公演での『ソナー』の歌い方からは「透明感」を強く感じた。踊って魅せる曲というよりは“聞かせる”曲で、派手な動きをしていないはずの釘宮さんの姿から目が離せなかった。
 

18.月ノ桜(原由実)

 なんとここでぷちます!からの選曲。2期のCDシリーズ「Twelve Campaigns!」の曲は全然ライブで歌われてこなかったため、『月ノ桜』が堂々と先陣を切った形になる。特筆すべきは、原さんがこの曲を歌う際に和装をしていたことだろう。袖丈の長い羽織を艶やかに振りながら歌唱する原さんの姿は、純和風の曲調や世界観を補強する映像も相まって息を呑むほど美しかった。
 

19.HUG(沼倉愛美)

 響の新境地となる、軽快かつ優しいMA4の新曲。沼倉さんは先ほど『VELVET QUIET』を歌った智秋さんとは逆の意味で感心させられた。初星宴舞でダンサブルな『Next Life』や熱い『Rebellion』を披露してたため、『HUG』のように笑顔で優しく歌う曲はちょっと意外で、しかしとても響らしいパフォーマンスであった。MA4でアイドル達の曲の幅が広がったのがよくわかる。
 

その瞬間は唐突に訪れた。

何度も聞いたアコースティックギター。
頭を抱えても耳に入ってくる、恋焦がれたメロディ。

それは、私が人生で一番愛した曲。

20.笑って!(中村繪里子)

 顔を上げてからは、ペンライトを固く握りしめて画面を凝視することしかできなかった。ペンライトを振っても何をしても、映画館の光景を繪里子さんが見られるわけではない。ならせめて、心を届けるしかなかった。
 私が『笑って!』に救われ、『笑って!』が大好きだと自覚してから4年待った。今ここで、私の夢が叶った。
 
 繪里子さんがライブで『笑って!』を披露したのは、私が間違っていなければ3回。最初は6thライブ「SMILE SUMMER FESTIV@L!」で、歌い出しでは緊張しているようにも見えた繪里子さんだが、次第に柔らかく伸びやかなパフォーマンスになっていった。8thライブ「HOP!STEP!!FESTIV@L!!!」でも披露しているが、残念ながらフル映像化はされていない。「M@STERS OF IDOL WORLD!!2015」では大きな会場で披露され、1番サビ終わりの「声が聞きたい、会いたいよ…」をセリフのように口にしたり、繪里子さんが立っていないステージを赤いライトで照らして天海春香の存在を仄めかすなどの多彩な演出が込められていた。
 それでは、本公演でのパフォーマンスはどうだったか。一言でいうなら、「普通」だった。それがどんなに凄いことだか伝わるだろうか? 表現は一貫して安定しており、目立つ演出は無いのに一挙手一投足に惹き込まれる。そこに余計な情報など要らなくて、ただただ良い『笑って!』だ、としか言えない。そんなあまりにも「普通」を超越した「普通」が、あのステージにあった。

 そんな中でも演出として工夫されていた点が2つある。
 ひとつは、繪里子さんが客席に背を向けるシーンが見られたこと。もしかしたら、自分自身のシルエットが春香に一番近くなるのがその姿だったからかもしれない。あるいは、繪里子さんも観客の私達と一緒にステージ上に“いる”春香を感じたかったのかもしれない。
 もうひとつは、曲の終わりに口にした言葉だ。繪里子さんは過去のライブでも『笑って!』を披露した際に、曲の終わりで何かを口にしていた。声には出しておらず(マイクに乗っていないだけかもしれないが)、何と言っていたのかは口の動きから推測するほかない。今回はどうだっただろうか。Twitter等で見ていると「おまたせ」と言っていた、という意見がよく見られる。これについてはどうしても憶測の域を出ない部分もあるため、各位の想像に任せたい。今後、映像を見る機会があれば見返していただけたら幸いである。いずれの演出も、いつか繪里子さんの口からお話を伺いたいものである。あるいは、繪里子さんも私達の想像に委ねてくれているのかもしれないが。
 
 ここからが本題であると共に、筆者の想像が大部分を占めるエッセイとなる。本公演で『笑って!』を歌ったことにはどんな意味があるのか。結論としては、「本公演が念願叶った大切な舞台だった」ということである。それを読み解くために、『笑って!』を“天海春香”が披露したことについて触れたい。
 2018年に開催された「MR ST@GE!! MUSIC♪GROOVE☆」は、立体映像技術によりアイドル達が実際にステージに立ってパフォーマンスをするという貴重なイベントだった。それの9月29日天海春香主演回の第2部の中で、MC中に『笑って!』1番のサビをアカペラで歌ったのだ。その後に春香は「この曲はとても大切な曲だから、大事なときに歌いたい」といった趣旨のことを話していた。なぜ春香にとって(また、繪里子さんにとって)『笑って!』が大切であるかについては、拙稿「文字に残さなければならない『笑って!』の話」(天海春香学会Vol.3より)や、以前書いたブログをご覧いただきたい。ともかく『笑って!』が特別な曲であると、春香は言ってくれたのだ。
 時は流れて2021年2月3日。YouTubeのアイマスチャンネルに「【アイマス】天海春香さんが、みんなのリクエストをやってみた!【アイドルマスター】」(https://www.youtube.com/watch?v=d-Finy9t3N8、2022/7/13最終閲覧)が投稿された。

 この動画では前述のMR ST@GEのように春香が登場して、アシスタントプロデューサーであるかっしー氏、さとほの氏と共にリスナーからの様々なリクエストに応えた。その中での「アカペラで何か歌ってほしい」という要望に対し、「今の気持ちだと…この曲にします!」と告げた春香が歌ったのが、『笑って!』のラスサビだったのだ。しっとりと半音高く歌い上げた後、春香は「今年こそ会いたいです!」と宣言した。
 今年こそ会いたい、という言葉には重みがある。というのも2018年以来ライブもイベントも機会に恵まれなかった765ASは、2020年にようやくMR ST@GEの復活公演“ENCORE”および夏の単独ライブが決定していたのだが、同年春から世界的に新型コロナウイルスの感染拡大が始まったためいずれも中止の憂き目に遭っていたのだ。そんな“春香”が本心から語ったのが「今年こと会いたい」という言葉であり、また『笑って!』のラスサビをチョイスしたのは「目を見て言いたいから、会いにゆきます」という歌詞がその本心とマッチしていたからだろう。
 以上の2つの『笑って!』アカペラ披露をまとめよう。春香にとって『笑って!』とは、「とても大切だから大事なときに歌いたい」曲であり、また前のライブから期間が空いたりライブそのものが中止になったりしている中で「会いたい」という気持ちの表れでもあるのだ。もちろん春香に命を吹き込む繪里子さんやスタッフ陣も同じ思いだと推測できる。つまり、4年半ぶりの念願の単独ライブとなった「大切で」「やっと会える」本公演は、春香にとって『笑って!』を披露する絶好の機会だったと言えるのではないだろうか。そう考えると本公演の初日における『笑って!』の披露は、まさしく……

“運命”

だったのだ。 

ここで脱落

 大変申し訳ないが、初日についてはもうこれ以上レポートすることができない。『笑って!』が終わった後、体に力が入らなくなってしまいそれどころではなかったのだ。『笑って!』が来るかもしれないと思い始めてからの極度の緊張が解け、同時に夢が叶ったことによる大きすぎる感動が体を襲い、酸欠になってしまった。顔はたまにしか上げられず、演者の皆様に拍手をしたくても手を動かせず、ペンライトを振ろうにも腕が上がらなかった。しかしこれだけはちゃんと伝えておこう。『笑って!』の後に今井さんが歌っていた『Coming Smile』の声は、ちゃんと笑っていた
 ほかに力を振り絞って顔を上げて聞くことができたのは、アンコール後の繪里子さんのMC。委細までは覚えていないが、「思い出の話ではなく、未来の話をみんながしいてるのが嬉しい」という趣旨の話をしていたはずだ。これは『笑って!』の「大切な思い出 しまい込んでた 大事にし過ぎてた 今日という未来は開き続けるから 新しい出来事きっと待ってる」という落ちサビの歌詞に通じるメッセージだ。もしかしたら繪里子さんもそれを意識して言葉を紡いでくれた、のかもしれない。最後に「私たち765プロを諦めなくていい。諦めないで」と伝えていたのも印象的だった。「〜ないで!」は強い懇願にも聞こえるメッセージで、実際プロミ2018で繪里子さんが「私たちの手を離さないで!」と言ったときは(本人のお気持ちは覗くことができないが)悲痛な叫びにも聞こえた。しかし、今回は違った。あなたたちを……あなたを諦めなくていい。信じていい。これからの未来が開き続けていくことを期待していい。そう思えたのはこの日の素晴らしいライブ、そして『笑って!』のお陰かもしれない。
 終演後、映画館に迷惑はかけられまいと力を振り絞って外に出たが、そこで力尽きてしばらく座り込んでしまった。読者の皆様も、ライブの際の体調にはどうかお気をつけて。
 
 なお、復活した後にスタントンさんや他の仲間との飲み会に参加したが、『笑って!』が流れた瞬間やっぱり爆笑されてたらしい。その後飲みすぎて終電を逃した。介護されながら千鳥足でネカフェに向かった。反省である。
 

【2日目】

 7月10日、日曜日。この日は待ちに待った現地である。チケットを当ててくださった連番者には頭が上がらない。

連番「昨日『笑って!』をやったから、今日そにっぴーさんライブに来れないかと心配してました」
私「もうなんか1周回って感情が『無』なんで、今朝ちょっとだけ『今日家で寝てていいかな』って思いました」
連番・私「……」

――だいたい飲み過ぎのせい

 ちゃんと来れてよかった。土曜日に一生分の感情を消費した私の辞書から、もはや“緊張”という文字は消されていた。いい意味で捉えると、フラットな気持ちでライブに臨むことができたとも言える。
 私達の席はアリーナ・C5ブロックの1列目。右端の一番後ろのブロックだったが、1列目ということで前方が通路なので、比較的過ごしやすかった席だった。演者の表情をちゃんと見るにはオペラグラスが必須だったと思う。私みたいにお姿とお声さえ認識できれば大丈夫という人は不要。
 それでは、千秋楽のセトリを振り返っていこう。凡例は1日目を参照されたし。
 

1.IDOL☆HEART(全員)

 初日とは打って変わって、スターリットシーズンのDLC曲からのスタート。「新しいステージ YEAH♪YEAH♪」から始まるこの曲は、ライブの1曲目にピッタリだと言えるだろう。個人的には「百回失敗しても百一回目がある」という歌詞が『自分REST@RT』を想起させ、いい意味で泥臭くまっすぐな765プロを感じられるので好きだ。またこの曲は歌唱者のソロパートが分かりやすく割り振られており、そこもライブ映えするポイントだった。
 

2.ラムネ色 青春(釘宮理恵、長谷川明子、原由実、平田宏美、若林直美)

 初日では『サニー』をやっていたが、本日も夏らしい曲が選ばれた。印象的だったのは曲の途中で5人が横並びでステージ上の階段に座っていたシーンだ。この曲は劇場版の挿入歌であるが、その一幕を想起させるアクションだった。まるで目の前に、あの合宿所、夏の海岸があるかのよう……。こういった演出が大好物で、思わず目頭が熱くなる。
 

3.zone of fortune(たかはし智秋)

 初日の貴音の『月ノ桜』に続き、ぷちます!の「Twelve Campaigns!」からの選曲だ。これも夏らしいポップな曲であるが、恋のトキメキや切なさも盛り込まれたキュンと来る1曲である。智秋さんの歌声というとライブ歌唱でその力強さが“解放”されることがよく取り沙汰されるが、決して智秋さんはキャラの声のまま歌えないわけではない。この曲においては力強さのみならず透き通るような透明感、そして優しさを併せ持つような歌い方をしており、あずささんの魅力をそのままに受け取ることができた。
 

4.ポジティブシンカー!(下田麻美)

 下田さんは亜美と真美を兼任していることもあり、本日もMA4の新曲披露となった。こちらは亜美の新曲で、電子音でノリノリのメロディに人を元気づけるリリックが乗っているのがミソだ。このような曲調だと思わず「縦ノリ」をしたくなるのが人の性だが、下田さんの方から曲中に「みんなも“コレ”やりま~す」とクラブのノリのような手の動きをお願いしていて面白かった。双海亜美に魂を込めている下田さんは、会場を巻き込んで思わず笑顔にすることにかけてはピカイチだと確信した。
 

5.Pon De Beach(中村繪里子、仁後真耶子、沼倉愛美、平田宏美)

 ビックリした。最後のMCで判明したのだがこれはユニット曲枠ではなく、響のソロ曲枠だったようで、沼倉さんの要請があってこのような形での披露となった。この4人はアイドルマスターSP「パーフェクトサン」にメインで登場するという共通項を持ち、夏をビンビンに感じる1曲にチューニングされていた。この曲はじめMA3のソロ曲はOFAの追加ストーリーにおける専用曲であるため、繪里子さんがこの曲を歌唱しているのを目撃できたのはまさしく僥倖と言えるだろう。響が目指したこの曲を追求してくれた沼倉さんに感謝だ。
 

6.LEMONADE(浅倉杏美、たかはし智秋)

 特殊イントロだったため最初は曲がわからなかったが、曲とメンバーが判明した瞬間心の中でガッツポーズをとった。本曲が収録された「MASTER PRIMAL」シリーズの楽曲は全て初星宴舞で披露されたが、浅倉さんが不参加だったため『LEMONADE』では代打で平田さんと繪里子さんが歌ったのだ。つまり、念願のオリメン披露である。いつか『虹のデスティネーション』がオリメン披露されるのも期待したい。
 

7.リゾラ(釘宮理恵)

 本公演が夏を前面に押し出していたことから、リゾート・ラブを思わせるこの曲を期待する声は随所で見られた。ここ数回のライブでは歌われてなかったこともあって、多くの人にとって念願の披露であったことだろう。この日の釘宮さんはかわいらしいツインテールにしており、ドキドキしながらステージにくぎ付けになってしまった。釘宮さんだけに
 

8.ピピカ・リリカ(仁後真耶子)

 魔法少女高槻やよい、爆誕――。歌詞の随所に魔法少女要素が散りばめられたMA4の新曲だが、なんと仁後さんは魔法のステッキを持って登場したのだ。ポップに跳ねるようなダンスと歌い方が実にかわいらしくもパワフルで目が離せなかった。「パ・パ・パッキャマラドゥ」「パ・パ・パットヒカル」といった間奏の部分は画面に歌詞が表示されており、いつかライブでの声援が解禁されたらコール部分になるのかもしれない。今後もっともっと化ける1曲かもしれない。
 

9.マジで…!?(浅倉杏美、今井麻美、下田麻美、沼倉愛美、原由実、平田宏美)

 初日から続投の1曲。ただしメンバーは総入れ替えとなった。LVとは異なり現地では着席しなくてよいため、コールしたい気持ちを全部縦ノリと拳に込めた。現地で浴びる『マジで…!?』のパワーはコールが無くても凄まじく、見てるこちらも体力を消費した。コール有りになったら、本当に会場が壊れてしまうのではないだろうか。その光景を想像していると、ああ……また765現地に行きたいな、という気持ちがより一層強くなるものである。
 

10.想い出は永遠に(滝田樹里)

 よかった……本日も滝田さんがサプライズ出演された。筆者が本気で泣いた曲その4。こちらも「朝焼けは黄金色」5巻に収録された新曲だ。こちらは歌詞に「朝焼け」「黄金色」というワードが登場し、コミックのストーリー全体に係るオーラス楽曲という印象を受ける。少し大人っぽい衣装を見に纏う滝田さんは、本当に綺麗だった。アニマスにおいてバーで歌う小鳥さんを始めて見たときのアイドル達の気持ちは、このようであったかもしれない。なお本日は2曲続けて歌うことはなく、ここでMCを挟むことになった。

11.Ever Sunny(平田宏美)

 ライブの醍醐味のひとつに、生歌唱において元の音源とは異なる表現がされて、楽曲の持つ魅力の幅が広がることが挙げられるだろう。本公演の『Ever Sunny』はまさしくそうだった。これは真には珍しくファルセットを用いた爽やかさ際立つMA4の新曲だが、ライブで歌う平田さんはCDよりもずっと力強く歌っているように感じた。真の持つ頼もしさがより引き立てられ、プロデューサーの心をギュっと掴んでいた。

12.Miracle Night(今井麻美、沼倉愛美、長谷川明子)

 オリメンとはガラっとメンツを変えての披露である。ミリシタにおいて2021年末に千早と紗代子のカバーが収録され、少し前のミリシタ感謝祭では紗代子役の駒形さんと紬役の南さんで歌っていたため、今井さんにとっては念願の歌唱だったかもしれない。低音から高音までパワーある歌唱ができる3人だったため、とにかくその迫力に圧倒された。縦ノリする身体が熱を帯びるのが気持ちいい、現地で是非浴びたい1曲であった。

13.光(滝田樹里)

 今日は滝田さん2曲歌わないのかな、と思っていたらこれである。筆者が本気で泣いた曲その5であり、無事私は滝田樹里に完全敗北することとなった。思えば先ほどの『想い出は永遠に』の最後の歌詞は「涙さえいまになるよ」だったので、狙って選曲したのかもしれない。小鳥さんの曲の中でも特にしっとりしたバラードで、闇の中に優しく一筋の光を指すような応援歌と言える。曲の終わりで、歌詞に登場するフレーズ「いってらっしゃい」をそっと告げた滝田さん。その姿、そのメッセージは、まさしく765プロのアイドルのみんなを応援する音無小鳥のものであった。

14.灯(若林直美)

 MA4で秋月律子に与えられたのは、まるで物語のエンディングのようなバラードだった。若林さんは最初歌いながら感極まっているようであり、私達は心の中で祈るしかなかった。大丈夫、頑張って! その後ちゃんと自分に気合を入れ直すような仕草をして、最後まで見事に歌い切った。間奏では「思い思いの光を見せてほしい」といったことを呼びかけていた。以前から若林さんは「ライブでこの曲が来たら思い思いの色を灯してほしい」と言っており、この瞬間会場中が色とりどりのペンライトで彩られた。何文字使っても言葉にしきれない、綺麗な景色だった。765プロを愛している若林さんが見たかった光景はこれだったのだ、そう確信できた。

15.Honey Heartbeat(釘宮理恵、下田麻美、たかはし智秋、中村繪里子、仁後真耶子、若林直美)

 これも夏らしく熱い選曲となった。オリメンである繪里子さんが弾けるような歌い方をしているのは健康によいとされている。しかしライブだと意外とこの曲に繪里子さんが参加していないので、本公演はまさに幸運だ。ラップパートが多い曲だが、どの演者もノリノリで歌っていて見ているこっちも楽しかった。

16.Nostalgia(長谷川明子)

 この曲はMA3曲のうち唯一残されていたライブ未披露曲であり、本公演において念願叶って初披露となった。歌の上手さを評価する尺度は様々にあるが、私がよく主張する尺度は「ビブラート等の技巧がなくてもブレずにストレートに声を放つパワー」だ(音楽の専門家ではないためこれを一言で表せない)。そして長谷川さんにはこの上手さがある。この曲は低音から高音まで曲の力に負けない歌唱力を要する、美希にとっても試練の曲であったが、長谷川さんは見事なパフォーマンスで場を支配していた。そして曲の終盤、現地では少々分かりづらかったが後ろの映像に歴代の星井美希がカットインした。美希のカリスマを背負って、それを自らのパフォーマンスで体現する長谷川さんに、思わず鳥肌が立ったのは私だけではないだろう。

17.炎ノ鳥(原由実)

 MA4の新曲、貴音さん待望の和ロックが満を持しての登場である。初日に続き、今回も原さんは和装で登場していた。注目すべきは扇子を持ってパフォーマンスしていたことであり、曲の華やかさが際立っていた。後のMCではミリオンライブのユニット「花咲夜」がゲームを再現してライブで扇子を持ったパフォーマンスをしていたことに触れ、それを貪欲に取り入れていたことがわかった。MCだとほわほわした印象の原さんだが、その内には他の誰にも負けず劣らずアイドルを魅力的に輝かせたいという熱意があるのがよくわかる。

18.Kosmos, Cosmos(浅倉杏美)

 ライブ直前に浅倉さんは自身のブログで、12年前の7月4日に幕張イベントホールで雪歩役となることが発表されたことについて触れていた(https://ameblo.jp/asakura-azumi/entry-12751793349.html、2022/07/16最終閲覧)。また、以前MORにて当初『Kosmos, Cosmos』の収録に大変苦労されたことを話していた。本公演で、その時と同じ幕張で、この曲を披露するということにはもしかしたら特別な意味が込められていたかもしれない。しかし宇宙を光で貫くような力強い歌声は、浅倉さんが雪歩役として最高のパフォーマンスをしていることを証明していた。それだけで十分だ、と心から感じた。

19.スタ→トスタ→(下田麻美)

 亜美と真美がいた。もしくは、下田麻美が2人いた。そうとしか言えなかった。曲の最後から最後までこの曲は2人で歌われていた。何を言っているのか分からないと思うが、私も何をされたのかわからなかった。身も蓋もないことを言うとダンサーと音源を巧みに使ったパフォーマンスなのだろうが、現地は間違いなく混乱でいっぱいだった。私達に驚きと笑顔を届けることをやめないのが、やはり最強の双海ツインズらしい。

20.目が逢う瞬間(今井麻美)

 意図せぬ歓声は声に出ても仕方ないというのが暗黙の了解(本公演では明記もされた)だが、体感ではこの曲が来た“瞬間”の会場の歓声が一番凄まじかった。私もガッツポーズを止められなかった。というのもこの曲、10年近く披露されていなかったのだ。さすが今井さん、私が前述した歌を評価する尺度「ビブラート等の技巧がなくてもブレずにストレートに声を放つパワー」においては最高クラスの歌唱だと思っている。この曲が持つ絶妙な切なさを表現できるのはあなたしかいない!

21.I’m yours(中村繪里子)

 天海春香の曲は、思えばいつもライブの最初にあった。繪里子さんの明るいパワーがライブを引っ張っていて、それが不可欠だと私含め多くの人が思っていたことだろう。しかし、天海春香の、中村繪里子の魅力はそれだけだろうか? 否、「天海春香役中村繪里子でソロパートを〆るライブ」ができるということをまさにあの場で証明してみせたのだ!
 この曲もCDとライブで大きく印象が変わった。作曲は『START!!』と同じ宮崎誠氏で、曲調やコード進行も『START!!』を想起させるものであり、かわいくポップな曲という印象が強かった。しかしライブでは大きく表情を変えた。繪里子さんの手にあったのは、なんとスタンドマイク。しかもそれを持ってステージ上を歩く歩く。まるでパワフルなロックシンガーのように。『I’m yours』の歌詞にはかわいさだけでなく頼もしさ、かっこよさがあるのだが、まさに本公演でのステージ上の繪里子さんは頼もしさとかっこよさを前面に押し出していた。かわいいもかっこいいも全部全部見せてくれる、天海春香役中村繪里子さん。その魅力は今後も留まるところを知らないのだろうと思うと、ライブを浴びながら笑顔が止まらなかった。初日は『笑って!』の存在が大きすぎて素直に笑顔になれなかった分まで、この日はちゃんと笑顔になれた。
 ひとつ残念なことがあるとしたら、やはり本公演でコールができないことだろう。この曲はラスサビの前に「特別がいいから いつでも呼んで 私の名前を」という箇所があり、その後には一切の音が止む空白があるのだ。そう、私たちが全力で「春香」と叫ぶために。この曲はそういった意味で、私たちが春香の名前を呼んで初めて完成するのかもしれない。私は欲張りだから、心の中で叫ぶだけでは物足りない。きっと、いや絶対、いつか繪里子さんに私達の声を届けるんだ。そう誓った。
 大丈夫、「さあ 次の旅へ Let’s go!!」と歌ってくれるのがこの曲なのだから!

22.New Me, Continued(全員)

 初日から続投だが、まともに聞けていなかったため実質初見のようなものである。MA4の共通新曲だが、正直聞くのが怖かった曲だ。なぜならそのメロディも歌詞も「前へと進む不安」を前面に押し出したものであるからだ。しかし、なぜだろう。本公演ではマイナスな気持ちに一切ならなかった。たぶん、この2日間が掛け値なしに素晴らしいもので、この曲が指す未来を素直に受け取ることができたからかもしれない。あるいは、遠くから見てもわかるほど、演者の皆の表情が良いものだったからかもしれない。いずれにせよ、私はようやくこの曲としっかり向き合うことができた。また、背景の映像も美しかった。アイドルのカラーを纏った光が、歌詞をなぞって螺旋を描いて上に登っていくものである。しかもパートごとにちゃんと歌っている人の色になっていた。どこまでもこの光が上を目指せていけますように。

 ここでライブは一度終演となり、アンコールタイムとなった。初日は待望の『なんどでも笑おう』と『READY!!』が披露されたが、2日目も恐らく同じだろうと踏んでいた、

ところで私は本公演が始まる前、「ライブは夢が叶う場所なんだよ」となんとなく口にしていた。

まさかその通りになるなんて。

それは私だけの夢じゃなくて、たぶん、みんなの夢。

23.M@STERPIECE(全員)

 私はキャストの名前を羅列せず「全員」と書けばよい。だって一人も欠けることなく、全員いたのだから。滝田さんもそうだし、劇場版本編でもその後のライブでもそこに立つことが叶っていなかった若林さんが、そこにいた。間奏で「お待たせ!」と言っていたのは繪里子さんだっただろうか。「夢を初めて願って今日までどの位経っただろう」。P歴5年の私のみならず、多くの人が待っていた奇跡の光景だろう。ペンライトでピースを作る私たちは、きっととてもいい顔をしていたはずである。曲の終盤、耳を澄まさなくても会場中からすすり泣きが聞こえたのがその証明だ。

 この日の繪里子さんは、最後のMCで「アイドルマスターはあなたを1人にしてこなかった」「私たちも1人にしないで!」といったことを仰っていた。もしこの「1人にしないで」を先のことが段々と見えなくなってきていた2018年に聞いていたら、心が張り裂けそうになっていただろう。しかし今は違う。どんなに辛い時期だって、アイドルマスターは、765プロは、そして天海春香は私たちのそばにいてくれた。では、私達にできることは、今までのお返しをちゃんとすることだ。心の中で元気に「もちろん、これからも一緒だ!」と叫んだ。

24.THE IDOLM@STER(全員)

 最後の曲で、演者がステージ上でわちゃわちゃする。この光景を見てるとアイマスライブも終わりだなあ、と少し寂しくなるものである。765プロには常に挑戦をし続けてほしいので個人的にはあまり「安定感」という言葉を使いたくないのだが、歌マスで終わるライブには盤石の「安定感」を覚えた。それは挑戦が無いという意味ではなく、「これからも大丈夫!」という安心感なのかもしれない。

あとがき

 「THE IDOLM@STER 765PRO ALLSTARS LIVE SUNRICH COLORFUL」を客観的に評価するなら、初披露の楽曲を可能な限りさらいつつ、久しぶりの楽曲も織り交ぜ、かつ夏を意識した選曲もしっかりされている、バランスの良いセトリであったと言えよう。「久しぶり」の楽曲が生まれてしまうほどライブの頻度が下がってしまうのも考え物だが、少なくとも本公演では多くの人の念願が叶ったことだろう。天海春香についても、初披露の『I’m yours』が2日目ソロパートの最後に歌われたことは大躍進と言える。他にも夏らしく活発な春香を多く感じることができたのは良いポイントだ。
 主観的な話になると、『笑って!』をライブでやったことに尽きてしまう。1つの曲にここまで入れ込んで体を壊すのも考え物だな、とは思いつつ、ここまで狂える楽曲に出会たことは幸せだと思っている。
 さあ、次に私がレビューするのはいつのイベントになるだろうか。今後も765プロから、そして天海春香役中村繪里子さんから目が離せない。