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顧客に雇用されるサービスや製品とは

(以前に別で書いたものをリライトした内容になります)

数年前から、「イノベーション」や「共創」という言葉をよく見かけるようになったように感じています。モノが溢れる時代にどのように革新的なサービスや製品を生み出すかは、非常に興味を惹かれるテーマです。
ミルクシェイクのディレンマで有名なイノベーションに関する「ジョブ理論」という本について、調査の視点で少しご紹介できればと思います。


目次:
1. ジョブ理論
2. 競合他社
3. ジョブハント
4. ジョブの解読
5. まとめ

1. ジョブ理論

本書では90年代デトロイトでのミルクシェイク店の話が事例として出てきます。
要約すると、
ミルクシェイクの売り上げを上げるために、値段や味などについて顧客に質問し、それらの回答を元に値段を変えたり、フレーバーを増やすなどの改善をおこなっていたが売り上げに変化が起きなかった。そこで視点を変え、顧客はどのような用事や仕事(それを「ジョブ」と言っています)があり、店に向かい、購入に至るのかという切り口で調査したところ、早朝に来店していた顧客は仕事先までの長く退屈な運転中に、時間をかけながら小腹を満たすにはミルクシェイクがちょうど良いからということがわかった。バナナでもドーナツでもベーグルでもなく。また、まったく別のシーンの夕方には同じ顧客でも子供に良い父親だと思われたいという理由で売れていることがわかった。
というお話です。
顧客は「ジョブ」を片付けるために、製品やサービスを雇用します。

事例を整理すると、
 ジョブ1:仕事先までの長く退屈な運転中に小腹を満たすこと
 ジョブ2:良い父親だと思われるこ
 雇用した製品:ミルクシェイク
となります。
値段や味ではなく、上記のジョブを解決する施策が必要であったということになります。

この事例からは、顧客が製品やサービスを生活の中に引き入れる理由を理解することが重要だということがわかります。ある特定の状況で顧客が成し遂げようとしている進歩を、機能的、社会的、感情的側面も含めて理解が必要です。利用状況が異なれば、同じデモグラフィック属性の顧客でもジョブが異なってくることを理解することが必要です。

 2. 競合他社

ジョブ理論のレンズを通すと、市場で同じカテゴリにくくられている製品だけに競争相手が限定されることはほとんどないです。事例として、NetflixやBMWなどが出てきます。Netflixは、リラックスのためにすることなら、なんでも競争相手になる。BMWは、モビリティという視点で見ると、テスラやウーバーなどとも競っている。とあります。
最近は国内の自動車メーカーでもモビリティという言葉をよく見かけます。製品やサービスは、顧客がジョブを解決するための1つの手段でしかないということです。
競合について調査する際は、ジョブという視点を通して範囲を広げて判断する必要もありそうです。真の競合に気づかず検討が進んでしまう要因になる可能性もあるので、気をつけたいですポイントです。

3. ジョブハント

以下のような記載があります。
・ジョブを理解するには、どの技法を使うかではなく、どういう質問をするのか、そして答えとして得られた情報をどうつなぎ合わせるかが重要
・ペルソナ分析、フォーカスグループ調査、パネル調査、競合分析なども、すべて重要なインサイトを見い出すための有効な出発点になる
・顧客が間に合わせの策や代替行動をとっていたらその行動が新しい手がかりになる
・顧客が製品をどのように利用しているかを詳しく調べると、重要な知見を得られる


ユーザー調査には、様々な手法がありますが、目的によって最適な手法は何かというところを見極めて設計すべきです。
調査を通じて、ユーザーがどのように感じ、行動しているかに共感できるとジョブを捕まえることができるのではないでしょうか。
(インタフェースの心理学という書籍に、「人には生来模倣と共感の能力が備わっている」という記載もあります。)
 
その他にも顧客について理解するための教えとして、下記のような内容も出てきます。
・顧客が自分の要求を正確に漏れなく表明できることはめったにない
・行動の動機は本人が言うよりも複雑。本質をつかむには、注意深く観察し、丁寧なやりとり重ねる必要がある
・「初心者の心構え」で望むことが肝要である
・それらができないと誤った思い込みやバイアスで重要な情報を弾いてしまう危険性が増します


ヒトは発言と行動が異なる場合が多いので、ユーザー調査の際にも行動や発話の裏に何があるのかに着目して理由や状況について深掘りしていくことが重要です。発話をそのまま鵜呑みにしてしまうと、ミルクシェイクの例のように実際には雇用されない製品になってしまうということになりかねません。
(再度インタフェースの心理学からの引用になりますが、人は将来の出来事に対して大げさに予測する傾向があるので、顧客から「こんな風にデザインを変えてくれたら凄く嬉しい」と言われても鵜呑みにしてはいけない。という記載があります。)
 
有名な話では、ヘンリー・フォードの言葉もあります。

”もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう。”

馬が欲しいわけではなく、早く移動したいというジョブに気づいて車を発明したという例です。

インタビュー調査などでも、アプリに「XXの機能が欲しい」という発話が出てもなぜなのか深掘りしていかないと使われない機能を実装してしまい、作る側も使う側も不幸な結果になってしまいます。ぜひ避けたいです。

4. ジョブの解読

ジョブを解読して、製品またはサービスを雇用してもらうための適切な体験を構築する計画を立てるには、以下のような視点で把握してから対策を考える必要があるとあります。
・顧客が求める進歩と受け入れるトレードオフは何か
・打ち負かすべき競合はどこか
・乗り越えるべき障害物を明らかにするために、機能的、感情的、社会的側面から理解する

そのように生み出された体験は、顧客が何度も繰り返し雇用したくなる解決策を創造する上できわめて重要。とあります。

きちんとユーザーと利用状況を理解した上で、ユーザーの課題をどのように解決し、どのような体験を提供できるかを検討することの重要性が記載されています。
 

5. まとめ

ここまで、ジョブを理解して解決する部分を中心にご紹介させていただきましたが、それ以外にも、このような活動が普通に会話されるような人間中心の組織を作り上げる話や、顧客の印象に残るブランドを作る話、などについて事例もまじえて記載があり、デザイン思考、UXデザイン、HCDプロセスとも通じる部分がありますので、それらに興味をお持ちの方にはお勧めの書籍です。

ユーザインタビュー調査やユーザビリティテストなどでは、なぜそう思うのか、なぜそのように行動したのかを深掘りしていき、被験者の方が気づいていない潜在的なニーズを洗い出すことが重要です。バイアスを取り除き、正しい問いを立て、ユーザーの課題を解決するための新たな施策をたてていきます。

作ったものを使ってもらえなければ、存在する意味が薄くなってしまうので、本当にその製品/サービスは必要か?ユーザーのどのようなジョブを解決するのか?
よくよく考える必要があります。



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