「ゲーム規制」から見える、”根拠なき決定”と”自由の封殺”。
香川県議会で18日成立したこの条例には、成立以前の段階から様々な疑問が噴出していた。
条例案の内容のみならず、パブリックコメント(PC)の集計やその開示についても議員内から批判が相次ぐなど、問題が表見している。
ここに、私なりの意見を述べたいと思う。
条例の内容とは?
今回成立した条例は、「ネット・ゲーム依存症対策条例」と呼ばれるもの。家庭内で守るルールの「目安」として
○18歳未満のゲーム時間は1日60分(休日は90分)
○小中学生は午後9時、高校生は午後10時以降のスマートフォンの使用を控える
の2点を示している。保護者は家庭内でのルールを作ることを「努力義務」としており、罰則規定はない。
目安の根拠は?
この目安の中には、「60分」「90分」「午後9時」「午後10時」という4つの数字と「小中学生」「高校生」という年代による線引きがなされているが、これらには根拠があるのだろうか?
検討委員会では、平成30年度の学習状況調査の結果を基にしているとした。(メディア使用に関する質問はP74~77参照)
これによると、確かに1日当たり1時間以上使用していると回答した児童・生徒の正答率は低い傾向にある。
では、なぜ休日は90分と設定したのか?先の結果に基づくならば、休日であっても60分で設定をすればいいだけの話である。
数字に関する根拠は、必ず明確でなければならない。家庭でルールを作成するときには、条例で示した数字は必ず何らかの基準になる。そこに根拠がないならば、そのルールの効果は限定的だ。さらに、行政が家庭のルール作りに介入していると解釈できる可能性もある。家庭ごとにはそれぞれ個別の事情があり、それを考慮せずに一律的にルール作りを求めるのはあまりに画一的である。
「依存症」の定義があいまい?
この条例では、依存症の定義について「ネット・ゲームにのめり込むことにより、日常生活又は社会生活に支障が生じている状態」としているが、これはWHOなどの公的機関が策定したものではない。香川県独自のものだ。具体的に、日常生活や社会生活の場面においてどのような支障が現れたら認定されるのかに関する記述はなく、あまりにもあいまいで恣意的な表現であるといわざるを得ない。
また、依存症の判断項目として、1998年の論文を参考にしている。インターネットの存在は、当時と現代では全く違うものになっている。郵便に変わる新たな情報通信の手段として注目された当時と、私たちの日常生活にとって必要不可欠である現代とでは、同じ基準で依存症かどうかを判断するのは不可能である。
パブリックコメントの”操作”と”開示拒否”
この条例に対し不満が高まっている理由は、条例の内容だけにとどまらない。条例案を作成する過程にも、大きな違和感があった。
PCを募集する際の条件として、「香川県民であること」か「ネット事業者(法人)」と設定した。その結果、以下のような分布となった。
県内個人・団体:賛成…2269件 反対…334件 総数…2615件
事 業 者 :賛成…0件 反対…67件 総数…71件
賛成・反対どちらでもない意見もあるため一致はしないものの、この分布には違和感をもってしまう。
また、採決前日となった17日になって、ようやくPCが県議会のサイトに掲載された。そこには、賛成意見が1ページなのに対し反対意見が約80ページにもわたっていた。2000件以上もあるはずの賛成意見がたった1ページで、7分の1程度しかないはずの反対意見が80ページにもわたるのはなぜかと疑問に思わざるを得ない。
さらに、このPCは、一般には公開されず、検討委員会の議員のみが、採決後の期間限定で、内容を口外できず、さらにはメモ等の記録すら許されずに公開されるという、"Public"とはかけ離れた前代未聞のやり方となった。
「子供のために」という大人のエゴ
ここまで、この条例についてのいくつかの問題点を指摘してきた。本稿で指摘した問題は
○根拠なき数字や定義で基準を設定したこと
○現代の価値観を正しく理解していないこと
○有権者からの情報を正確に公開していないこと
の3点についてだが、私が一番問題だと思っているのは、この条例の対象者である子供に対して何の意見もあつめていないことだ。「多くが反対意見になるだろう」「まともな意見にはならないだろう」という理由かもしれないが、それならばあまりにも安易すぎはしないか。
子供たちが当事者になるのだから、自分たちにとっては都合の悪い意見もしっかりと耳にした上で、条例の意図を子供たちにわかりやすく説明すべきだ。今までそのような努力をしてきたか?と聞かれて、しっかり答えられる人間が果たしてどのくらいいるのか?と声を大にして言いたい。
この条例が「悪しき先例」とならないように、この動きについては動向を注意深く見守っていきたい。