27. 巻いて、巻いて、にご用心 Champion Calendar 860('64)
こんにちは。
おやじの左手です。
趣味のひとつとして、1960年代の国産手巻き実用腕時計を集めて
こつこつと修理をしています。
記事の趣旨は、「自己紹介」をお読みいただければと思います。
① SEIKO Champion Calendar 860
型番:7622-8980 17石 5振動(毎時18,000振動)
ケース径:36.7mm(リューズ含まず) ラグ幅:19mm
1964年11月製造(S/Nより推測)
インデックスが、ドットになっている文字盤。
ドレスを意識したデザイン、ちょっと、ベルトの色を意識したら、
いい雰囲気になると思います。
② 左右側面
腐食なく、エッジも残っています。
③ 背面、ムーブメント
裏蓋に、タツノオトシゴ君が薄っすらと残っています。
この チャンピオン860 は、
購入時、ゼンマイが巻けない不具合がありました。
空回りでなく、巻いてもキリキリ音は無く、巻きが戻ってしまいます。
引っ張って伸ばしたゴムを放せば縮むような感じ。
原因は、コハゼという部品を制御する、コハゼバネの外れ。
直すのは後にしまして、コハゼが付いている香箱受けごと、
部品洗浄に合わせ、予備パーツと交換して復旧です。
④ コハゼ
リューズを巻くと、リューズ部の歯車から、
丸穴車と角穴車という歯車を経由して、香箱が回り、
香箱の中のゼンマイが巻ける仕組みになっています。
コハゼという部品の役割は、
そこで、巻いたゼンマイが戻らないよう、
ストッパをかける逆進防止機みたいな部品になります。
写真の、赤○の部品。
小さいコハゼバネというバネで、その動きを規制しており、
リューズを巻いて、
「キリキリ」と音がするのは、このコハゼが歯車に噛む音になります。
時計の部品たちって、
「オシドリ」とか、「カンヌキ」とか、「キチ」とか、「コテツ」とか、
各々に面白い名前がついています。
自分、その各名前の由来を、調べてみたことがあるのですが、
「コハゼ」は、由来を調べ切れていない部品のひとつです。
勝手な憶測なのですが、布につける留め具の総称。
特に、足袋の足首を留める、薄い爪型金具の「こはぜ」ではないかな。
なんて、考えています。
今では、ほとんど履くことがない足袋ですが、
履かれていた当時は、ゼンマイのように毎日酷使されていたことでしょう。
いかなるときも脱げないように、踏ん張っている「こはぜ」。
そんなところから、「コハゼ」の名がついた。
他に、弾ける意味の「爆ぜる」も気になっているんですよねぇ。
こんなことを想像できるのも、時計趣味の面白さです。^^
⑤ コハゼが壊れた理由
コハゼが壊れた理由は何でしょうか。
ゼンマイを巻く部分ですので、
頻繁に動くところですが、そう簡単に壊れる部位でもありません。
自然故障だとしたら、ゼンマイのトルク負荷の過多による気がします。
今のゼンマイはわかりませんが、当時のゼンマイなら、
いっぱいに巻いた状態が、一番トルクがかかる状態になるかと。
ですので、
いっぱいに巻かれるほど、コハゼにかかる力も大きくなります。
昔、何かの資料かサイトで、
手巻きのゼンマイのトルクが安定するのは、
いっぱいに巻いてから、数時間後と読んだ記憶があります。
だもんで、
手巻き時計愛好家は、使う前日の夜に、ネジを巻くとか。
これが、本当かわかりません。
ゼンマイに掛かる負荷は、
厳密に言うと日付変更で変動しますが、一定だと思いますので、
ゼンマイのトルク図などあれば、見てみたいものです。
⑥ 巻いて、巻いて、にご用心
このチャンピオン860の持ち主だったおやじさん、
暇さえあれば、ゼンマイを巻いていたのかな?
気がつきゃ、巻いて、 気がつきゃ、巻いて、
巻いて、巻いて、
いつもゼンマイが、いっぱいになっている状態。
コハゼも、頑張って踏ん張るけど・・
終に、コハゼバネが、ピーン!
こんなとこでしょうか。^^
これは、時計が止まったらいやだとか、常に時間を見ないといけない
とかではなく、
もはや、持ち主さんの、クセですね(笑)。
ただ、雑に扱っていたら、
コハゼより先に、ゼンマイの方が逝くと思いますし、
ケースの状態も悪く無いですし、大事に使っていたような気がします。
愛された証の故障ということにしましょう。^^/
さて、今年もあとわずか。
年内に終わらせねばならない事や、来年の準備など。
家族から、仕事から、そして自分自身からも、
ふだん以上に、
「巻いて、巻いて、」と、巻きを入れられ、走り回る毎日かと。
「コレが終わった、じゃ、次はソレ、」
「ソレが終わった、じゃ、アレやるか、」
てな、感じ、
ひとつが終わるたびに、
気力のゼンマイを巻いていらっしゃるのではないでしょうか。
常にいっぱいいっぱいだと、心の「コハゼ」が壊れます。
巻いて、巻いて、にご用心!
急ぐ気持ちにいっぷくを、
ときには、巻くのを止めにして、
ゼンマイをほどいて、いただけたらと思います。^^
⑦ コハゼの蛇足
蛇足です。
このコハゼの仕組み、
たいていの時計は、④の赤○と同じような仕組みなのですが、
セイコーのスポーツマンという時計は、違った作りになっています。
とてもシンプルかつ、壊れにくい構造で、
今まで、篏合部の摩耗以外のトラブルは見たことがありません。
これひとつだけでも、
諏訪セイコーの効率設計の思想を垣間見ることができます。
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記事にする時計たち、これからも左手で活躍して欲しく、
骨董市やマルシェで出品しようと思っています。
出店など決まりましたら、この場を持って案内をいたします。
そのときは、お声がけなどいただけるとうれしいです。
「バースディウォッチ」という言葉をご存じですか?
お生まれ年に作られた時計を時計好き界隈で「バースディウォッチ」と
呼んでいます。
自分が過ごした歳月を感じられる腕時計と、ともに過ごすなんて素敵かも。
1965年(昭和40年)生まれの私、懸命に針を動かしている同世代の腕時計たちにいつも励まされています(笑)。
⑧ 1964年(S39)の出来事、流行(ネットより抜粋)
・東京オリンピック開催(日本の金メダル16個)
・東海道新幹線開通(ひかり:東京→大阪 4h 2,480円)
・日本武道館開館
・流行歌
明日があるさ、幸せなら手をたたこう(坂本九)、愛と死をみつめて(香山和子)
・映画
マイフェアレディ、007ゴールドフィンガー、クレオパトラ
・芸能
オバケのQ太郎連載開始、ひょっこりひょうたん島放送開始、子供電話相談室放送開始
・ヒット商品
カッパエビセン、ワンカップ大関、みゆき族、アイビーブーム
・おおよその大学卒初任給 17,100円
・物価
映画:300円、ラーメン:60円、週刊誌:50円、牛乳:18円、かけそば:50円
FLH