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21. 高度経済成長期の光と影・・ Sportsman('69)

こんにちは。
おやじの左手です。
趣味のひとつとして、1960年代の国産手巻き実用腕時計を集めて
こつこつと修理をしています。
記事の趣旨は、「自己紹介」をお読みいただければと思います。


日中はまだ暑いですが、朝晩は寒くなりましたね。
自分、秋から冬は、購買意欲が高まります。
毎年この時期、自分自身に、「衝動買い注意月間」を発令しています(笑)。



① SEIKO Sportsman

型番:6602-9982  Cal:6602  17石  5振動(毎時18,000振動)
ケース径:36.0mm(リューズ含まず) ラグ幅:19mm   
1969年9月製造(S/Nより推測)


ケース型番が、9982になってから、
SEIKO表示が大文字になり、Calendar のロゴが、無くなりました。
オーソドックスなデザインで、どのシーンでも控えめに活躍しそうです。


入手時のケースは、傷、腐食、メッキ剥げ多く、酷い状態でしたので、
傷みが少ないケースと交換しました。

風防に汚れがありましたが、ヒビや割れは無く、徹底的に研磨して、
新品のようになりました。
文字盤は、綺麗でした。


② 左右側面

交換したケースは、まあまあの綺麗さを保っています。


③ 背面、ムーブメント

S/N一部マスクしています

ムーブメントは、分解清掃で復旧です。


④ 持ち主おやじさんの考察でしたが・・

写真左側は、
このスポーツマンの元もとのケースとリューズです。

影で見え難いのですが、傷多く、メッキが剥げ上がり、
エッジが腐食と擦れで、大きく欠けており、
骨の髄まで(?)使い切ったことが、わかります。

使いも使ったり、もはや、持ち主だったおやじさんの体の一部ですね(笑)。
実用腕時計として考えると、最高のパートナーだったんだなと、思います。
幸せな時計だったかもしれません。

しっかし、「スポーツマン」って、
その名のとおり、ホント、体育会系、酷使されています(笑)。
そんな外観でありながら、文字盤含む内部に損傷は見られず、
実用腕時計の堅牢さが、よくわかります、スゴイ!


ひとつ、気になるところがありました。

リューズです。

リューズがベコベコに、へずれて小さくなっていました。
入手前に交換されてしまったことも考えられますが、
ケースの状態から、元もとのリューズだったと仮定しますと、
どうしたら、こんなになるのでしょうか?


いつもの、憶測ですが、

持ち主だったおやじさん。
常に手袋をしなくてはいけない仕事をしていた人だったんじゃなかろうか?
それも、けっこう厚くて堅い、安全手袋のようなタイプ。
その手袋の中の長年の使用による、リューズの擦れ、欠けじゃないかと。

すると、
  常に手袋をする → 現場作業
  厚く堅い手袋 → 危険作業
こんなことが、頭に浮かびます。

そう考えると、ケースの状態も納得できます。
  メッキ剥げ → 手袋と作業服による擦れ
  腐食、欠け → 多量の汗による腐食、重労働

持ち主のおやじさん、ヘビーワーカーだな・・
それも、相当にハードな、現場作業者だったのではなかろうか。

なんとなく、的を得ているような。
ふつうなら、これで、
「やった!解明! さて、このおやじさんは!」
と、次の考察に、思いを巡らせるところなのですが・・


ここで、
「現場作業」「危険作業」という言葉が、自分に重くのしかかります。


⑤ 高度経済成長期の光と影

1960年代 (S35~44) って、
労働災害の死亡者数が、毎年6,000人を超えているんですね。

厚生労働省、HPデータ


これは、最悪の人数です。
(現在は1,000人以下。)
いったい、1960年代って、どういう時代だったのでしょう。

工業化と経済成長に、労働環境が、追い付いておらず、
どんな業種であれ、現場作業は、危険が伴う最たる仕事、
命がけのハードワークだったのではないでしょうか。

時々、NHKスペシャルやプロジェクトXなどで、
モノクロの、当時の過酷な現場の映像を見ることがあります。
「すげえ、怖ええなあ。」なんて、客観的に遠くから眺めている自分。
その人たちの仕事の上に、今、自分が生きていることを忘れています。


リューズがへずれ、メッキが剥げ上がり、エッジが欠けだらけ・・・
なにか、現実を突きつけられた気がしました。

このスポーツマンを左手にしていた、おやじさん。
安全、無事で、仕事を全うされたことを、願うばかり。
けど、
そこまで、このスポーツマンは、教えてくれませんでした。


1960年代、
高度経済成長の恩恵により、誰もが、光り輝きます。
どんどん生活が良くなって行くことに、皆が歓喜し、
きっと、腕時計も、その光のひとつだったことでしょう。

ただ、その中で、
実用腕時計は、その "光" が作った "影" を、知っているようです。


<蛇足>
昭和47年から、災害死亡者数が、大きく減り始めています。
 なぜ?
と、考えてみましたところ、
昭和47年に、「労働安全衛生法」の、公布がありました。
「労働基準法」を、より厳しく制定した法規ですが、
これが、減少の理由かは、わかりません。
今度、図書館に行って、深堀りをしたいと思います。


お疲れ様でした。^^/


*****

記事にする時計たち、これからも左手で活躍して欲しく、
骨董市やマルシェで出品しようと思っています。
出店など決まりましたら、この場を持って案内をいたします。
そのときは、お声がけなどいただけるとうれしいです。

「バースディウォッチ」という言葉をご存じですか?
お生まれ年に作られた時計を、
時計好き界隈で「バースディウォッチ」と呼んでいます。
自分が過ごした歳月を感じられる腕時計と、ともに過ごすなんて素敵かも。
1965年(昭和40年)生まれの私、
懸命に針を動かしている同世代の腕時計たちにいつも励まされています(笑)。


⑥ 1969年(S44)の出来事、流行(ネットより抜粋)

・東名高速全線開通
・サザエさん放送開始
・アポロ11号、人類初の月面着陸
・日産「フェアレディZ」発売
・地下鉄千代田線開通
・流行歌
 長崎は今日も雨だった(内山田洋とクールファイブ)、黒猫のタンゴ(皆川おさむ)
・映画
 ウェストサイド物語、明日に向かって撃て、イージーライダー、男はつらいよ
・芸能
 8時だヨ全員集合放送開始、タイガーマスク、ムーミン放送開始
・ヒット商品
 UCC缶コーヒー、プッシュホン、パンタロンブーム
・おおよその大学卒初任給  27,906円
・物価
 映画:600円、ラーメン:90円、週刊誌:70円、牛乳:23円、かけそば:80円

FLH