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28. 不謹慎にもほどがある・・ Homer('62)

こんにちは。
おやじの左手です。
趣味のひとつとして、1960年代の国産手巻き実用腕時計を集めて
こつこつと修理をしています。
記事の趣旨は、「自己紹介」をお読みいただければと思います。


さて、今回は、
数年間に自分が修理した、知人の腕時計のお話し。


年上の知人が、1960年代製の、CITIZEN Homer を、
「修理できる?」
と、持って来ました。

大事な時計、万が一があるので、
人様の時計の修理は断らせて頂いているのですが、
「直らなくても、いいよ。」とのことと、
Homer の予備パーツは結構持っているので、引き受けることにしました。


香箱と、裏おさえ、ツツカナ交換を実施、
合わせ、部品洗浄、オイルアップで完全復旧。
預かってから、1か月ほどで、お返しができました。

知人さん、大喜び。\^^/
手間と修理代は、寿し屋のおごりで、チャラにしました(笑)。


話は、その寿し屋で聞いた、
その Homer の、知人の思い出話になります。

『何か、思い出あります?』と、聞きましたら、
知人は、
Homer を見ながら、「あったかなあ?」と、ひととき考えたあと。


「俺の親父、タクシーの運転手でさあ。」
「ほとんど、家にいなくて、どこにも連れて行ってくれなかった、けど。」

「時々、俺を横に乗せて、仕事に連れて行ってくれたんだよ。」
「助手席に俺がいて、お客を乗せるんだぜ(笑)」

「お客乗せたら、”これ、息子”って、俺を紹介してさ、」
「お客も驚かないで、俺に話しかけたりしてさ(笑)」

「そんなタクシー、今じゃ、考えられないだろ(笑)」


「そんとき、親父、この時計をしていたよ。」
「助手席から、この時計をよく見てたっけ。」

知人は、Homer を見ながら、遠い目になりました。



『自分の記憶なんですけど、当時のタクシー、』
『”神風タクシー”とか、呼ばれてませんでした?』

「そうそう!」
「飛ばすんだよ!」
「けっこう、怖かったわ、俺。 シートベルトも、しなかったしさ(笑)」


~~~

時計の製造年と知人の年齢から、昭和40年代。
まだ、”神風タクシー”の勢いが、残っていた時代の思い出話。

”神風タクシー”
この言葉を聞いて、あったなあ、と思い出す方もいらっしゃると思います。


~ 神風タクシー ~
1950年代になると、日本はモータリゼーションの進行による交通変化に伴い、道路渋滞も起こり始めた。歩合給を稼ぐために、速度制限無視、急停車、急発進、赤信号無視、強引な追い越しなどを行って、早く客を拾い、あるいは一瞬でも早く目的地に着いて、客回転を上げようと、無謀な運転をするタクシードライバーが増加した。
この無謀な運転ぶりを「神風特攻攻撃隊」になぞらえて、人々は、「神風タクシー」と呼んだ。その命名は誰によるものかは不明。

wikipediaより引用


いやはや、
好き勝手と言ったらいいのか、おおらかと言ったらいいのか、
凄まじい時代ですねえ。^^;

これは、タクシーに限った話ではないでしょう。
どの業界、分野でも、まだまだ社会のルールが確立されてもおらず、
今では、信じられないことが、往々としてあった時代です。

「不適切にもほどがある」のTVドラマ以上に、
当時は、
「不謹慎にもほどがある」時代だったんじゃないかと(笑)。

この知人の思い出話も、
一見、父親と息子の交流のような、微笑ましいお話しにも聞こえても、
父親のやっていたことは、客商売としては「不謹慎!」(笑)。


その当時って、
好き勝手にできた、いいことばかりでなく、
半面、不快な思いをする、理不尽なことも多かったとも、思います。

ですが、
当時を話される皆さん、とてもいい顔になって、お話し頂けます。
その気持ちは、大事にしたいです。



修理した Homer の写真は、撮ってませんでした。
たしか、見出し写真の時計のようなハマグリケースで、
12時のバーインデックスが、アラビア数字の「12」の文字盤でした。
今も元気に動いていて使っていると、先日、聞きました。

ひょんなことで、
不謹慎な時代から、タイムスリップして今を生き始めた Homer君。^^
その風防に映る、今の景色と人物を見て、驚きの連続じゃないでしょうか。
もし会話ができるなら、
当時と今、どちらの時代が生きやすいか、聞いてみたいものです(笑)。


~ 見出し写真の腕時計 ~

CITIZEN Homer
型番:HO5140801  17石  5振動(毎時18,000振動)
ケース径:34.7mm(リューズ含まず) ラグ幅:18mm   
1962年2月製造(S/Nより推測)

・文字盤交換
 シルバーケースにゴールドインデックスのコンビにしてみました。

FLH