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落語みたいな カメラ屋さんの老夫婦。

こんにちは。
毎度、腕時計の話は置きましての、月イチのいっぷく記事です。


note の腕時計記事で、街の時計屋さんのお話しをよく見ます。
電池交換の話が、多いように思います。

まだ街に、個人経営の時計屋さんって、残っているんですね。
眼鏡や貴金属と合わせて商売をされていらっしゃるお店が、
多いように思いますが、嬉しくなります。
ずっと、残って欲しいものです。


ここからの話は、
街の時計屋さんではなく、街のカメラ屋さん、

時計屋さんにくらべ、個人経営のカメラ屋さんは、
ほとんど見ることが無くなってしまったのではないでしょうか。
デジタルの波をもろに受けてしまった業界かもしれません。
まだ、平成までは、健在だったと思うのですが・・

そんな、まだ健在だった街のカメラ屋さんで、出会いました、
落語みたいな、お噺です。


自分、小学生の鉄道写真から始まり、社会人まで、
趣味というほどではありませんでしたが、パチパチ撮ってました。
撮影センスは無く、とても下手でしたけど。(同、現在)


~~~

ということで、
自分には、2010年くらいまで、行きつけのカメラ屋さんがありました。

三か月に一回くらいの通いだったかと、
老夫婦が、二人で経営している、小さいカメラ屋さん。
風景や家族の、リバーサルフィルムの現像をお願いしていました。

この店主のじいさん、ばあさん(以降、おばさん)、
ともに、けっこう名のあるらしい写真クラブに入っており、腕は確か。

それよりも、面白かったのは、
お二人とも、立て板を割ったような、スパッとした性格で、
二人のべらんめえ口調が、とても楽しかったのが、行きつけになった理由でした。


おじゃますると、二人とも喜んで、お茶とお茶菓子を出してくれ、
写真のこと半分、自分たちのこと半分くらいの談笑が始まります。

おばさんが、なにか言うと、
じいさんが、
「また、同じこと言ってら。 ○○さん。」と、自分に同意を求めます。
おばさんも、負けてません。
「あんただって、同じじゃないか、困っちゃうのは私よ、○○さん。」と、
自分を味方につけようとします。

お二人とも、江戸っ子かと思っていたのですが、
じいさんは▲▲、おばさんは金沢と聞いてびっくり。
すると、おばさんは、
「でしょ、じいさん、いなかもんでしょ!」(笑)と、ちくり。
(おばさんの愚痴ですが、いちおう県名は伏せておきます。)


こんな会話もありました。

伺ったとき、じいさんはおらず、
おばさんが、お菓子を出しながら、春に撮った芝桜の写真を見て欲しいと、
ポジフィルムを、ライトボックスとルーペで出来栄えを見せてくれました。

ちょうどその時に、
じいさんが帰ってくるなり、開口一番。
「また、ばあさんが、自慢してるよ。」
「その写真より、この前に撮った、アレ、見せたらいいんじゃないか。」

おばさんが、
「アレ、まだ、カメラに入ったままで、現像してないのよ。」

じいさん、
「おい、いつも、1枚でも撮ったら最後まで使えと言ってるだろ!」
「フィルムは、生ものなんだよ、手つけたら撮りきるんだよ。」
「だから、おまえは、うまくならねーんだ!  だよねえ、○○さん。」

おばさんが、
「だって、もったいないだろ。 アレは、そんな変わりゃしないよ!」
「そうよねえ、○○さん。」

自分、
「ところで、アレってなんです?」(笑)

こんな感じ。
言葉は悪くとも、お互いに険悪なムードは無く、笑い飛ばせる、
見てて、清々しいご夫婦、行くと、いつも楽しい時間でした。


ですが、楽しい時間も終わりが来ます。

行きつけになってから、3年ほど経った頃。
このお店を閉じる話を、二人から聞きました。

理由は、不景気ではなく、後継ぎによるもの。
一人娘が、金沢の方にいらっしゃる話は聞いていました。


お店を閉じる、数日前。
出張先で買った、鰻の肝のような干物を持って最後の挨拶に伺いました。

お二人、いつものように、大歓迎で迎えてくれます。
お茶を飲みながら、いつもの談笑。
あと数日で閉じるとは、思えない日常が、まだそこにありました。

話の途中、
「そうそう、お土産、持ってきたんです、 どうぞ。」

おばさん、
「あれまあ、すまないねえ。 これ、なに?」

自分、
「じつは、急いで買ったもんで、袋に書いてません?」(笑)

さすが、立て板を割った、おばさんです。
袋も見る前に、ひとこと。
「なんか、美味しくなさそうだねえ。」(笑)

待ってましたと、じいさんが、口を挟みます。
「おまえ、なんてこと言うんだ!」
「そういうのは、食ってから言うもんだ! 食う前から、不味いなんて言うもんじゃねえ!」
「作った人に、失礼じゃねえか!  だよねえ、○○さん。」

自分、
「まあ・・ どっちも失礼そうですけど、そうですね。」(笑)

おばさん、
「じゃあ、じいさん、食うか?」と、袋を開け、中身を渡す。

それを、食った、じいさん、

「不味いな。」

3人、大笑いでした(笑)。


おばさん、これで、終わらせません!

「○○さん、いつも、ありがとね。」
「これ、大事に食べさせてもらうよ。」

「あんた、これ、最後まで、食べるんだよ。」

「生もの、手つけたら食べきりなさいな!」(笑)

じいさんの、いつものセリフのブーメラン!
面食らったじいさん含め、3人、また、大笑い(笑)。


~~~

なんか、とても粋で、落語みたいな世界観でした(笑)。
実際に落語で、こんな噺がありそうな感じ。
平成の話でしたが、江戸や昭和は、こんな感じだったのかなあ。

今はもう、このような会話は聞こえなくなりましたね。
逆に、今聞いたら、違和感を感じてしまうかも。


ただ、人の心は、当時も今も変わっていないと思います。

>言葉は悪くとも、お互いに険悪なムードは無く、笑い飛ばせる、

自分も、このお二人みたいに、
今からでも、どなたとも、
お互いに傷つけることなく、笑って、お互いに言いたいことが言える、
そんな毎日を送りたいものです。


~~~

そのあと3人で、
お土産の袋のレシピを読んだら、お茶漬け用の食材でした。
そりゃ、そのまま食っちゃ、味濃いでしょうねと、
またまた、3人、大笑い(笑)。



おあとが、よろしいようで。
おつきあいいただき、ありがとうございました。
FLH