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Planescape : Tormentとゼラズニイ

まえおき

このあいだ、ロジャー・ゼラズニイのアンバーシリーズ(前半)を読み返し終えて、同じころにビデオゲームPlanescape:Torment(以下PS:T)で2回めのクリアを遂げた。

PS:Tの1回目は中途半端なメイジとしてクリア(IgnusとNordom以外の全員を仲間にした)。

2回目はほぼ専業シーフとしてクリア(仲間はMorte、Dak’kon、Nordomのみ、Annahは道案内として不自然でない範囲でだけ付いて来てもらった)。

2回目となる今回は、焼け焦げだらけの裏路地で三つの指輪を揃えたとたんに可愛いアイツがびっくり仰天なことをしでかしたりと、愉快なシギルライフを満喫したほか、ルビコン計画に参加したりもした。一段落つけてからキャラクター図鑑を見たら、同計画に出てくるNPCのくだりに、主人公を皮肉るような一文が書いてあって思わず苦笑い。

ここから本題

さて、PS:Tにはロジャー・ゼラズニイの影響がある(ほかのものからの影響もあるようなのだけど、ジュリエットみたいに明らかなのを除くと、勉強不足でわからず)。

同じことを述べたウェブサイトは昔もあったのだけど、geocitiesが塵と化してしまった。

だから、両者のファンとして、PS:Tから読み取れるゼラズニイらしさについて語りたい。というわけで、本記事はPS:Tおよびロジャー・ゼラズニイのアンバーシリーズ(後半含む)のネタバレを含みます。ご容赦ください。

ファクトおさらい

とりあえず誰にでもアクセスしやすいソースということでEncyclopedia of Science Fictionへのリンクをば。

1971 『影のジャック』の原書刊行
1978 アンバー前半シリーズ完結(『混沌の宮廷』の原書刊行)
1991 アンバー後半シリーズの最終巻”Prince of Chaos”刊行
1995 ロジャー・ゼラズニイ没
1997 PS:Tの原案がゲーム会社に提出される(en_wikipedia
1999 PS:Tのリリース(エンドクレジットで、主要スタッフの一人Chris A.(Avelloneの略だろう)氏が謝辞にロジャー・ゼラズニイをあげている。

とりあえず、これだけ確認しておけば、PS:Tに(他のものと共に)ゼラズニイが入る余地はあると、いってさしつかえなさそう。

なお、Google検索すると右に出てくるアレは、Chris Avelloneの生年を1971年としている。もし1971年生まれだとすると、Avellone氏はアンバー後半シリーズを、リアルタイムで追いかけていたのかもしれない。

以下、PS:Tとゼラズニイの小説との、共通点を挙げていく。この試みによって、PS:Tとゼラズニイ作品の両方を、人々が楽しめることを願って。

主人公の設定

PS:Tの主人公The Nameless One(以下TNO)が不死身かつ記憶喪失というところに、影のジャックとコーウィンが影響してるのはいうまでもなく。

周りのキャラのほうが訳知りという点も、PS:Tとゼラズニイは共通かもしれない。周りに聞いたところで教えてくれなかったり、教えてくれたところで真実かどうかあやしかったりするのも、共通といってよさそう。

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つづいて、どちらの作品でも主人公が悪どい。より正しくは、他者にはない自分の力を、ためらいなく使う(こともできる)と、いうべきかも。

まず、アンバーのコーウィンから。影を操る力でダイヤモンドを手に入れると、いう行いに注目。相場が暴落したらどうすんの、なんて心配などせずにひょうひょうと宝石を手に入れて、地球の市場に持ち込んでくれちゃう。力の使い方という点で、十字軍を組織したことはいうまでもない。

対するTNOも(プレイヤーがその気になれば)、不死身であることを使って荒稼ぎをしてのける。さらにTNOは(幸か不幸かプレイヤーの気分次第で)、影のジャックも真っ青な仕打ちを他者に加えられる。スポイラーによれば、旅の道連れを売り払うこともできるらしい。

ただし、PS:Tでは、おおむね善いことをしたほうが報われるように思う。困っている人を放っておくのは、経験値や能力値向上のチャンスの取り逃がしだ(例: Sebastian)。さらに、正論に則って動くほうが難易度も下がる(例: Carceri)。

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こじつけだけど、以下のような見方もできるかもしれない。

TNOとMorteの関係は、ディルヴィシュとブラックの関係と似ている。すなわち、相手の素性はよくわからないけど信じようと思えば信じられるといった関係だ。

また、PS:Tには「ドリームビルダー」という装置が出てくる。このネーミングはゼラズニイの長編『ドリームマスター』にあやかっているかもしれない。ドリームマスターの主人公がシェイパー(夢を形作る者)と呼ばれることをふまえると、PS:Tはわざと「夢を建てる者」という語を選んだのかも。

ストーリーの構成

PS:Tもアンバーも、ストーリーの構成は、たぶんエンタメの王道(褒め言葉)である三幕構成をとっている。

主人公には目的がある。目的はだんだんと変わっていく(専門用語で言うとキャラクターアークがあると、いうことになるのかも)。いいかえれば、始めは*自分の*欲望で動いていた主人公が、やがては*宇宙の*必要のためになすべきことをなす。

商いで作ったのだから、どちらも王道の構成なのは当たり前なのだろうが、筆者はPS:Tをイロモノだと思い込んでいたので、王道として捉えることもできると気づけてよかった。

以下、両者の構成をざっくりまとめる。

アンバーの場合

(とりあえず前半シリーズのみ、後半は筆者の力量不足でまとめられず)

主人公が物語に関わるきっかけ:
・主人公が記憶を取り戻す。
第一幕から第二幕への転換点:
・アンバーの危機を知る。
中間地点:
・どのようにして危機が生じたか、そもそもアンバーとは何なのかを知る。
どん底:
・危機を作り出した犯人が判明したが、捕まえることが出来ない。
第二幕から第三幕への転換点:
・主人公が勅命を帯びて一人旅立つ。

PS:Tの場合

主人公が物語に関わるきっかけ:
・TNOがDeionerraの幽霊に出会う(*1)
第一幕から第二幕への転換点:
・Hiveを出る。
中間地点:
・Ravellと対話。TNOは自分が蘇るたびに、何を代償にしているのか知る。
どん底:
・ここまでと同じゲームとは思えないほどの戦闘をして回ったけど、
・結局は嘘つきなアイツの掌で踊らされていたと判明。
第二幕から第三幕への転換点:
・アイツと折り合いをつけて、Fortless of Regretへ乗り込む準備を整える。

(*1)もしかすると、間違った分析かもしれない。とはいえ、TNOはDeionerraの死に責任を感じると、いった仮定をプレイヤーがすることは役に立つと思う。どのように役に立つかと言うと、中間地点以降も主人公が冒険を続ける動機として、Deionerraの死に対する責任を持ち出せる。

筆者が見落としてるだけだと思うけど、中間地点以降でTNOがMortalityを取り戻そうとする理由が、あまり文字になっていない気がするのだ。

言い換えれば、主人公が、『我が名はコンラッド』みたいな生き方を選ばない理由を、ゲームのテキスト中に見つけられなかった。

もしも他人の死に対する責任という点に重きをおくなら、序盤の分析は以下のほうが妥当かも。
主人公が物語に関わるきっかけ:
・TNOがPharodと話し合い、TNO自身のえげつない過去の所業を知る。
第一幕から第二幕への転換点:
・墓にのりこみ、自身の死によって脱け出す。(以下同様

あるいはもっとシンプルに。
主人公が物語に関わるきっかけ:
・Mortuaryを出る。
第一幕から第二幕への転換点:
・Hiveを出る(以下同様

サブプロットの重さ

主人公が同時に複数の課題に直面するという点で、アンバー後半シリーズとPS:Tは似ているかもしれない(これも「王道」に過ぎないのかも)。

アンバー後半シリーズのメインプロットは王位継承である(はず)。

そして、主人公と他登場人物(マスク、ルーク、ゴーストホイールなど)の対立は、サブプロットといえるだろう。

もちろん、主人公の目線で見ると、このサブこそアンバー後半シリーズのメインだろう。こうしたプロットのややこしさに、主人公自らツッコミをいれる場面が作中にあったりもした。

こうしたアンバー後半シリーズの作り、すなわちサブプロットが重いけれども、メインから見たらサブはサブにすぎない、ということはPS:Tにも言える気がする。

たとえば、TNOとDak'kon、TNOとMorteの間にある、過去の因縁だ。

もっとも、PS:Tは小説ではなくゲームだから、サブを知らずに進めることも出来る。実際のところ。筆者はDak'konもMorteも攻略しきれてない。

プレイヤーは、Dak'konやMorteとTNOの過去を深堀りしても(何なら攻略といっても)いいし、しなくてもいい。極論をいえば、コマンド選択による旅の仲間との会話は一切なしでも、エンディングに進むための条件は揃う。

2回クリア後の感想

TNOの子孫はいるのだろうか。

過去のTNO(仲間とは利用するものという悪役的考えを持つ者)に対する反論をしたいなら、Fortless of Regretは一人で乗り込むほうが正解だったのかも。

エンディングムービー(の1つ)が、ライダーキックを食らって二段変身、みたいな雰囲気で、思わず笑ってしまった。でも、これから*****に赴く主人公が「変身」したのだと見なすとかっこいい。

アンダーシギルをステルスして歩きまわってたら、Saumean(どうやらステルスしてる相手が見えるらしい、勘違い?)に追いかけ回されてビビる。どんな敵からもRunすれば逃げられると、いうプレイヤーの油断をついてくる、サービス精神旺盛な遭遇にニヤリ。

某所でクラウドキルをかましたら一網打尽でスッキリ。

某所でMorteに優しくした(アレから離れた位置に移動させた)ので、Morteとの過去の因縁を知る機会がなくなった。もしかすると某キューブとレンズでもって、アレに再訪とかできるのかもしれないが、クリアしたあとになって、登場人物の心の扉を開くために過去データのロードという時間移動をするのも興ざめであり、かといってイチからプレイし直す体力もなく。同時に試せる時間線は一つだけと、いう三次元人の宿命をカミカミ。

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