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フォントを買ったり編集したりした回

 みなさんこんにちは(挨拶)。

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 先日、性懲りもなくキーボードを購入した話を書きました。

 これに触発されて……というわけでもないんですが、予定が消化されたり、発作的に行っていた色々な熱も少し落ち着いたので、最近はなんか「小説を書くための環境を作ろう! 否、小説をちゃんと書く習慣を取り戻そう!」みたいな気持ちになったんですね。
 形から入るというか、自分を追い込むというか。まあとにかく、キーボードを新しくしたのだから、キーボードを使わないともったいないよ、みたいな気持ちもあって。とは言え何から始めるべきか考えていたんですけれど、3月に入ったところで僕がお世話になっている「カクヨム」という小説投稿サイトで7周年記念だかが始まると聞きまして。お題に沿った小説を書くとか、毎日更新するとなんかいいことあるよ、みたいなのがあって。僕はそういう「強制的に書かなきゃならない環境」に追い込まれるのが割と嫌いではないので、これを機に、更新をサボっていた小説の続きを書いたり、新しく掌編小説を書いたりしよう、みたいな気持ちになったのです。

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 以上は前置きなんですが。
 そんなわけでまた定期的に小説を書くようになった僕なんですが……HHKBという最強キーボードを手に入れたことで打鍵環境は完成したのだから、もうあとは書くだけじゃないか、これ以上望むものなんて何もないはずだ、と思っていた僕なんですが……うーん、上記の通り小説を書く気になって、気持ち通り割と真面目に小説を書いていたんですけれど、本当にふとした拍子に「あ、フォントが欲しい」という思いつきに至ってしまったんですね。
 まあもともと、僕は「本」で小説を読んでいたくちですから、紙に印刷されたフォントの美しさみたいなのに惹かれた十代を過ごしていたんですね。出版社によってフォントが違っていて、読みやすいもの、美しいもの、文章に似合ったもの、無意識のうちに吸収出来てしまうもの、様々あったんです。それが高じて、学生時代にはタイポグラフィについて少々学んだり、自分なりにフリーフォントを組み合わせてデザインをしたりした時期もありました。まあ何が言いたいかと申しますと、僕は「若かりし頃、結構フォントに狂っていた」人間だったんですね。あまりに狂っていたので、当時まだiPhoneが出るか出ないかくらいの頃、金もないのに無理してMacを買って、それで小説を書いていました。「Macの方がフォントが綺麗だ!」というだけの理由で、です。まあなんでしょう、小説を執筆する際の基本理念として、「読むように書きたい」というのがあったんだと思います。基本的に小説を執筆するのが速いので(面白いかどうかはさておき)、そのもの「読むように書く」に重きを置いているんですね。だからこそ、書く際のフォントもこだわりたい。

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 とは言え、そもそもMacを買った時点で「ヒラギノ明朝」という美しいフォントに出会えた僕は、それで満足していました。真っ白なテキストエディタに「ヒラギノ明朝」が踊るだけで、執筆意欲も高まるというものです。なので有償フォントを買うという経験はしたことがなく、たまに「ヒラギノ明朝」では物足りないなと思った時は、優れたフリーフォントを拾ってきて、気分転換をしつつ書いたりしていました。色々なジャンルを書いていると、たまに文章とフォントが合ってないな、と思うことがあったので、なんだか堅苦しい小説の場合は美しさより堅牢さに重きを置いたフォントを使うとか、ギャグノリが多い小説の場合はもう少し柔らかいフォントを使うとか。まあそういうことを趣味の領域でやっていたんですね。そもそも、小説を(特にネットで)発表する場合、フォントはシステムに依存しますから、本当にただの趣味の領域です。
 ですが、そんな僕にも「いつかは使いたいな」と思っていたフォントがありました。
 それが「A1明朝」というフォントです。

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「A1明朝」とか言われてもわかんねーよ、という方もいらっしゃると思いますので分かりやすく説明しますと、新海誠監督作品「天気の子」のタイトルロゴに使われている美しいフォントのことです。それについて多少解説している良い記事がありましたので以下にリンクを貼ります。

 まあとにかく、美しいフォントなんですね。僕がこのフォントの存在を知ったのは、2005年頃に「太明朝体A1がデジタル化される」というニュースを何かで見たためです。丁度、高校生くらいだったと記憶しています。「太明朝体A1」が何なのかというと、これは1970年代くらいに活版印刷で多用された書体のようでして、まあとにかく様々なポスターだの、書籍だのに利用されていたらしいです(流石に僕は現役ではないので詳しくは知らない)。そのニュースを見て「太明朝体A1」について調べた学生だった僕は「うわ……こんなに美しいフォントがこの世にあるのか」と打ち震えたのです。
 で。
 そんなフォントがデジタル化されるということは、要するにマシンで利用出来るようになる、ということです。小説を書くフォントとして、「A1明朝」が利用出来る。しかしながら当時高校生だった僕はそんなに金もなく(本とギターを買っていたので)、しかもフォントって高いんですよ。1個だけ買うにしても、うん万円という値段がする。流石に手が届かないなぁ……と思いながらフォントについて色々と調べることになり、この世には恐ろしいくらいのフォントがあって、かつ「ヒラギノ明朝」という美しいフォントがMacに標準搭載されていることをそこタイミングで知って、3年後くらいにMacを買うことになるんですね。流石にフォントだけを買うわけにはいかないけど、マシンを買うついでにフォントがついてくるなら安いだろう、みたいな算段でした。
 それ以降、「いつかはA1明朝を買おう」という想いだけは秘めていたんですが、キーボードを買ったり、本を買ったり、ギターを買ったり、ゲームを買ったり、テキストエディタを買ったりしていて、後手に回っていました。どうしても「フォント」というものを購入するに至る動機が見つからず、僕は長い間「A1明朝をいつか買いたいな」という想いを秘めたままなんとなく生きてきて、気付けば15年くらいが経過していたのです。こわ。

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 で、買いました。
 いやー……なんかその、急に思い立ったんですよ。なんでしょう、その、2週間前にキーボードを買っておいて「最近お金も使ってないし」という言い訳は絶対に無理筋なことは分かっているんですけれども、うーん……ここ数年の金遣いの荒さに比べると、本当に普段お金を使うことがあまりなくて。もう、酷いときは週に3回は居酒屋でひとり飲み食いして1回5,000円、とかの支払いをしていた時期があったので、それに比べると、日々食パンを食べたり、タマゴを食べたり、お米を炊いて食べたりしている今の生活って出費が薄くて。口座残高も、貯金があるわけでもないですけど、まあ急に病気になっても困らないくらいのお金はあるので……上記したように、「カクヨム」で小説を毎日投稿するという作業をするモチベーション作りというか、3月が終わって以降も小説に力を入れるために、ここらで一発、買っちゃおうかな? という気持ちになったんですね。
 あと、HHKB『雪』モデルを購入したことで打鍵環境が完成に近付いてしまったというか……今まではテキストエディタとかキーボードとかモニタとか、そういう部分に力を入れていたところがあるんですが、「iMac」を新調して、「縦式」というテキストエディタと出会い、「HHKB」を買ったことで、執筆環境という意味ではもうほとんど完成に近い状態になったな、と思ったんですね。
 じゃあ、もう次買うとしたらフォントしかないか、と。
 いや別にね、買わなくても良かったんです。これは「A1明朝がないと小説が書けない!」という類のものではありません。ただ、この勢いを逃すと僕は一生「A1明朝」を手に入れないんじゃないか、という不安とか、もうそこそこいい歳になって来たんだから、余生を視野に入れると、今買っておくのがベストなんじゃないか……みたいな気持ちになって。で、勢い、買うことにしたんです。
 メーカー直販価格、20,900円(税込)。
 うーん……これを高いと見るか安いと見るか、なんですが……一般的に「小説を書く」という行為を趣味にしている人間でも、「いや、フォントに2万って」と思うでしょうね。僕もその気持ちは理解出来ます。が、まあ……僕個人としては、払ってもいいかな、という金額だった。
 自分の文字が思いのままに「A1明朝」で表示されるなら、安いもんだ。

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 昨今、こうしたアプリケーション(いわゆる「ソフト」)を購入する場合、ダウンロードによる購入方式が一般的になってきました。大昔はそれこそ、家電量販店にCD-ROMの入った箱がいくつも並んでいて、それを買って自分でCD読み込ませて……なんてしていたんですけれど、今はもうほとんどDL販売です。余談ですけれど、僕が初めてのMacを買ってしばらくして出た「Mac OS X v10.6 Snow Leopard」は、まだDVDを直接販売していたと記憶しています。家電量販店に白い猫科動物の写真がデカデカと掲載されていて、「ああ、僕もこっち側の人間になったんだなぁ」なんてことを思ったことを思い出しました。
 閑話休題。
 そんな令和5年の今日に至って、なんと「A1明朝」……というか、モリサワが販売している「Select Pack」というフォント商品は、物理パッケージで届きました。

Select Pack 1

 ペラい紙にライセンスキーが書かれていて、あとは利用許諾書とインストールガイドがついているだけで、どう考えても箱にする必要がない商品だと思うんですけれど、物理でした。
 商品が届いたので早速インストールをし(インストール用ウィザードは事前DLしてあった)、ライセンスキーを入力して、「A1明朝」をダウンロード。僕が買った「Select Pack」という商品は、数あるフォントの中から、任意の1フォントを選んでダウンロードする、という販売形態でした。つまり、ちょっとしたミスで別のフォントを落としてしまったら、また2万円払って買い直しという恐ろしい販売形態です。まあ流石に事前に予習しまくっていたので失敗することなくインストールが完了し、さっそく「縦式」で小説を開いてフォントを変更してみました。

ヒラギノ明朝
A1明朝

 こんな感じの違いになりました。
 賢明な読者の皆様に置かれましては「何が違うの?」って感じかもしれませんが、うーん……いや、違うんですよ。些細な差ですけれども、美しいんです。とにかく僕は満足出来ました。うっとりするくらい満足です。自分が書いた文章が、また違った輝きを放ってくれます。こんなに美しいフォントが使えるなら、もっと早くに買っておけば良かったなと思うくらい。
 上図は過去に書いた小説ですが、じゃあ書きかけの小説のフォントも全部「A1明朝」にしようかなと思って、手当たり次第にファイルを開いてはフォントを変更しているところで、事件は起きました。
 こちらをご覧ください。

ヒラギノ明朝

 そして、こちらもご覧ください。

A1明朝

 おわかりいただけただろうか。
 そう、その通りです。傍点がおかしいんですよ。傍点というのは、小説で文章を強調したり、ひらがなが連続して読みづらくなる文字を特徴付けるために利用される「黒ゴマ(﹅)」のことを指しますが、これが……明らかにおかしい。
 明らかに、美しくない。
 焦って色々調べました。もともと、モリサワの公式サイトにはフォントがどんな風に表示されるのかをテスト出来る機能がついているので、僕は購入前に様々な記号や漢字を試し打ちしていたんですけれど……流石に、傍点記号は盲点でした。
 そんな盲点が、唯一の欠点だった。
 おいおい、これじゃあ買った意味ねえじゃねえか! せっかく美しい執筆が出来ると思ったから買ったのに、傍点記号がこんなカクカクじゃ使う意味ねーだろ! ヒラギノか游明朝の方がまだマシだよ! 金返せ!
 で、色々調べてみると(ググったわけではなく、Fontの内容物を片っ端から調べた)そもそも「A1明朝」には、「黒ゴマ(﹅)[U+FE45]」の文字が存在していないことがわかりました。つまり、上図で表示されている傍点は、恐らくはMacの標準フォントのゴシック体から拝借しているのだろう、と思われました。存在しない文字を、標準フォントで埋めているのだろう、と。
 これは由々しき事態だと。
 解決策として、じゃあ標準フォントを「ヒラギノ」か「游明朝」にすればいいんじゃないか、とも思ったんですけれど……うーん、なんて言うんでしょう、それは僕の美学に反するというか。システムフォントはゴシックの方がどう考えても見やすいんですよ。けど、文章は明朝体で読みたい。小説を書く時間よりも、システムを利用する時間の方が長いわけですから、システムフォントを犠牲にしてまで「A1明朝」を優先させるのかというと、ちょっと違う。
 じゃーどーすりゃいいんだよと。

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 結果、フォントをオーバーライドすることにしました。
 要するに、「Unicode FE45が空なのであればそこに美しい黒ゴマ文字を入れて『A1明朝・改』をつくってしまえばいい」という暴論です。暴論ですが、効き目はありそうです。
 早速、一から調べ始めることになりました。なんとなく「こうすれば出来るんじゃね?」とは思ったものの、僕は独自フォントを作った経歴もなければ、そういうソフトウェアをいじった経験もありません。が、これでもIT企業に勤める本職です。英語サイトを調べまくってなんとなくアプリを操作して結果を出す作業には慣れている。
 というわけで、適当に「フォント 一部文字 修正」とか「フォント 作成」とかで調べまくって、なんやかんやあって「Glyphs」というアプリケーションに行き着くことが出来ました。簡単に書いていますが、このアプリに行き着くまでに6個くらいのアプリをDLしては試し、失敗し、泣きべそをかき、全てを諦めようとしたりしたので、4時間くらい掛かっています。こわ。

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 Glyphs。
 英語で字体のことをグリフ(Glyph)と言うらしいんですが、それになぞらえたフォント作成用アプリケーションのことのようです。公式サイトはこちら。Buy。潔いページタイトルですね。

 僕はほんとさわりしかいじってないので全然詳しくはないんですけれど、ちょっと使い方を調べた感想だと、根気さえあればオリジナルフォントを作成しまくれるようなアプリケーションです。また、自分が普段使っているフォントに「存在しない文字」を追加したり、「フォントA」と「フォントB」の良いとこどりをした「フォントC」を作ったりも出来る感じ。フォント作成の覇権に「FontLab」というものがあるようなんですが、日本語化されていて和文フォントに対応していてUIも直感的である「Glyphs」の方が僕には合っていましたし、これなら正直ちょっと金払っても良いかも? と思えるほど使い勝手が良かったです。フォントにこだわりがあるけど自作には踏み出せていない方がいれば、オススメです。
 ちなみにこの「Glyphs」、30日間の試用が可能ですが、実際に買おうとすると$299もします。円安ですから、この記事を書いている時点で、日本円で4万円くらいしますね。「A1明朝」と合わせて、6万円。うーん……まあ……払えないことはないけど……。
 ともあれ今回は試用版のまま「Glyphs」を利用して、無事に「黒ゴマ」文字を追加して新しいフォントを作成し、読み込ませることが出来ました。上記で無駄な調査に4時間くらい費やしたと書きましたが、「Glyphs」に行き着いてからは1時間くらいで目的を達成することが出来ました。
 めちゃくちゃ助けられた参考サイトがあったので、備忘録ついでに貼っておきます。

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 で、オーバーラップしたフォントで表示した文章がこちらってわけ。

A1明朝・改

 うーん、美しいですね。欲を言えば、「A1明朝」と「ヒラギノ明朝 ProN W3」の黒ゴマは少し相性が悪い気もするので今後微調整が発生する可能性はありますが、今のところは概ね満足です。
 冒頭で「読むように書く」みたいな話をしましたが、僕が小説を書く上で苦手な作業って実は「推敲」で、これを気持ちよくするためにフォントを買ったという側面があります。一度書いた文章は基本的に記憶しているので、次がどんな展開になるか、このキャラクターがどんな反応をするのか……ということは正直分かっているわけじゃないですか。となると、読んでても別に新鮮味がないというか。けど推敲をしないと小説は公開出来ないわけで。となれば、美しいフォントを使うことで、美しく読むしかないよね、という思惑があって、今回フォントの購入に踏み切ったというわけです。
 長年小説の執筆を趣味としている僕ですが、この歳になっても未だに下手な文章を書いたと思った時は読み返すのが苦痛ですし、書き終わっていない文章を読み直すのも苦痛です。ですが、美しいフォントでそれを読み返せるなら、多少はモチベーションが上がるんじゃないかと。もちろん、執筆自体のモチベーションも上がるでしょうし。2万円というのは高い買い物ですけれども、まあ自分のロードワークとも言うべき趣味にお金を注ぎ込む分には、人生を謳歌するという意味でもよろしいのではないかと、そう思います。

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 これにて、「キーボード」も「モニタ」も「テキストエディタ」も「フォント」も手に入りましたので、いよいよ残すところ「椅子」の選定を持って執筆環境構築は完了するんじゃないかな、と思っているところです。
 今の僕はダイニングテーブルにセットでついてきた硬い椅子に座って執筆作業をしているんですけれども、流石に歳のせいか腰や尾骶骨に痛みを感じる割合が増えてきたので、今年中には素晴らしいワークチェアを買おう……と計画しているところです。
 アーロンチェアでいいかな、と思ってもいるんですが、試座したり、アーロンチェアに憧れてからの15年近くでもっと良いものが出てるかもな、みたいな思惑もあるので、その辺も加味しつつ……そうして作業環境が整ったら、いよいよ買うものがなくなって、強制的に小説を書くんじゃなかろうか……。

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 まあそんな感じで、フォントを買ったり、フォントを修正したよ、という話でした。
 欲望のためなら勉強も辞さない男、福岡でございました。
 また何か買ったり、何かしたら日記を書こうかと思います。
 そんなこんなで、また来期!
 福岡でございました。

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