不器用な男の独白
秋のお彼岸。
長年連れ添った妻の墓参り。
最近では菊じゃなくても
相手の好きな花でもいいらしい。
俺は花のことなんてよく分からない。
妻の好きな花とか
好きな色とか気にしたことがなかった。
いかに自分が家庭を顧みなかったか思い知らされる。
妻が亡くなってからは
そのことについて
あまり考えないようにしていた。
考えると何かに押しつぶされる気持ちになるからだ。
その何かについても考えないようにしていた。
新しい相手と再婚する人もいるけれど
どうにもその気にもなれなかったし
誰とも懇ろになろうとも思えなかった。
昔馴染みの花屋で菊を買う。
お彼岸と言ったら菊だろう。
自分たち夫妻のことを知る花屋の親父に
いつも菊じゃ無粋かな?
天国であいつも笑っているかもな。
なんて冗談を言ってみる。
いいんじゃないの?
菊には信頼って花言葉もあるからさ。
お互いに口に出したか
出さないかまでは知らないけど
信頼していただろうから
ずっと一緒にいたんだろ?
そう返された。
信頼か。
墓へ行く道中に言葉を噛み締める。
今更になって俺はあいつに
片思いしているのかもしれないな。
生かされているうちは
歩いていくしかない。
お天道様が頑張ったと言ってくれた日に
俺はあいつに菊の花を渡せるのかもな。
そう思った。
SNSにて恋愛詩企画に投稿するために作成して
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